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【時系列で振り返る】ベガルタ仙台・2023年シーズンレビュー

 こんにちは。今回は、今シーズンも昨シーズン同様に時系列で振り返っていこうという記事です。

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 今シーズンは、充実した選手補強とスタッフ補強で「J2優勝・J1昇格」に向けて万全を期したシーズンでしたが、蓋を開けてみれば「16位」と過去最低順位でのフィニッシュ。今シーズンも監督交代があり、残留争いに片足を突っ込んだ時期もありましたが、なんとか来シーズンもJ2で戦える権利を得ることができました。

 加えて、ピッチ外でもサポーターのトラブルや元社員の不祥事などがあり、ピッチ内外でこれでもかと苦しさと切なさを味わったシーズンでした。

 そんな「史上最低のシーズン」とも言える2023年を本稿では「ピッチ内」にフォーカスして振り返っていこうと思います。

(※本文では常体の文章となります。)

 

Chapter1 伊藤彰体制~理想とは遥か遠い完成度~

(1)開幕からハマらなかった3バックと4バックへの移行

 2023年シーズン開幕にあたり、仙台は大きな期待を膨らませていた。それは22年シーズンの主力がほとんど残ったことに加えて、数多くの実力者を補強し、また伊藤彰監督の下に渋谷洋樹ヘッドコーチや堀考史コーチを招へいし、これ以上ない体制を整えられたと自負していたからである。

 

 改めて伊藤彰監督のサッカーを振り返っていくと、伊藤監督は前任の原崎政人監督に比べて攻守における仕組み作りや約束事が細かい監督だ。

 攻守が多く入れ替わるオープンな展開よりも、ボール保持・非保持においてしっかり11人が組織的にプレーする時間を多く作ることを求めていた。

 ボール保持ではしっかり後方からビルドアップしながら組み立て、相手が前からプレッシングを掛けてきたときには、それを剥がして攻撃を加速させていく。また引いた相手に対しても分厚い攻撃で押し込んでいく。

 ボール非保持では5バックをベースに重厚な守備ブロックを構築し、後ろで構えながらも行けるときは前からプレッシングを仕掛けていくことを理想とした。

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 引用したインタビューでも「コンセプト」という言葉を用いていることから、攻守における仕組み作りにかなり注力していたと思われる。

 

 しかし、いざシーズンが開幕する仙台は非常に厳しい戦いを強いられた。

 ボール非保持では、5バックで構えることで失点を抑えることができたものの、重心が低いためディフェンスラインが押し上げられず前からプレッシングを仕掛けられない。

 ボール保持では後方からビルドアップしていく際に、なかなかビルドアップの出口を見つけ出せず手詰まりになることが多かった。

 昨今のJリーグはプレー強度が上がり、どのチームも基本的に前線からマンツーマン気味で相手を捕まえながらプレッシングを掛けるチームが増えた。

 仙台は、まだまだビルドアップのクオリティが上がっておらず、そんな前からプレッシングを掛けてくるチームに対してなかなか前進できずに簡単にボールを奪われ、結果的に後ろで構える時間が長くなっていった。

 

 開幕戦のFC町田ゼルビア戦は耐えてスコアレスドロー。第2節・栃木SC戦や第5節・ザスパクサツ群馬戦では相手が構えてくれたことで主導権を握れて勝利を挙げられたが、第4節・いわきFC戦や第6節・ツエーゲン金沢戦といった前から来る相手には逆に主導権を握られる展開が多く、下馬評で決して高くないチームに序盤から勝点を落としてしまった。

 

 そんな状況を見て、伊藤監督は早い段階で大きく舵を切ることとなる。それが3バックから4バックへのシステム変更だった。

 第7節・V・ファーレン長崎戦から4バックへ変更すると、第8節・ヴァンフォーレ甲府戦で3-0の勝利を挙げる。

 4-4-2にシステムを変えて、ディフェンスラインを高く設定することで前線からのプレッシングを行いやすい仕組みにし、前からプレッシングに行くときと後方で守備ブロックを構築する二段構えの守備になった。

 その一方で最終ラインを1人削った担保に4バック全員の本職がセンターバックの選手を起用したところは伊藤監督の慎重さも伺えた。

 またボール保持時には3-4-2-1の配置に可変することで、今まで取り組んできたボール保持の設計を大きく変化しないようにしていた。

 甲府戦からはボランチに鎌田大夢が起用され、彼のキープ力や相手選手を剥がす能力がチームに欠かせない存在になっていく。

 この変更で高い位置でプレーできる回数が増え、内容も少しずつ改善していくようになった。

 

 5月に入ると4-4-2のボール非保持と3-4-2-1のボール保持が板に付き始める。

 特にボール保持では全体の距離感が良くなり、第15節・モンテディオ山形戦からは両サイドバック内田裕斗と真瀬拓海を起用したことで、より攻撃的な布陣となり、ボール保持からの攻撃にさらに勢いを増した。

 山形戦から第19節・東京ヴェルディ戦までの5試合を4勝1分の好成績で乗り切り、プレーオフ圏内目前の7位まで順位を上げることに成功した。

 

(2)誤算だった真瀬拓海の負傷

 しかし、いい状況は長続きしなかった。東京ヴェルディ戦で真瀬がハムストリング肉離れで長期離脱するという誤算が起きる。

 真瀬は、守備では右サイドバックとして、攻撃では右ウイングバックとして可変式を採用するチームのキーマンとなっていた。そんな真瀬が離脱したことで右サイドが機能不全に陥る。

 第20節・ジュビロ磐田との上位直接対決で敗れると、ここからチームは崩れ出していく。続くレノファ山口FC戦でも敗戦。真瀬不在のなかで伊藤監督はボール保持設計において修正を施すも、なかなか機能しなかった。

 末期だったのは第23節のモンテディオ山形戦で、この試合ではボランチの鎌田とセンターバック若狭大志がボール保持時に一列ずつポジションを上げる形を採用した。確かに立ち位置としては面白いものだったが、ダービーでいきなり採用するには完成度が低く、攻守のバランスが崩れて結果的に1-4の完敗を喫する。

 

 攻守が表裏一体となっているサッカーという競技において、攻撃がうまく行かないことは守備にも影響をきたすこととなる。

 ボール保持において自信がなくなったチームは、選手たちの立ち位置もボールの受け方も悪くなり、奪われても切り替えが遅く、前線の選手は帰陣しなくなる。そうすると相手にカウンターの機会を与えることに繋がり、結果的に失点も増加。悪循環に陥ってしまった。

 山形戦の大敗は、結果的に伊藤監督の信頼を大きく損なう形になったように思える。続く第24節・清水エスパルス戦でも0-3の敗戦し、第25節・栃木SC戦では伊藤監督のやってきたサッカーが全くピッチで表現されなくなった。

 その後、天皇杯3回戦の名古屋グランパス戦後に伊藤監督の退任が発表され、コーチだった堀考史氏が緊急登板することになる。これで仙台は3年連続シーズン途中での監督交代を行うこととなった。

 

Chapter1 堀考史体制~戦う姿勢を取り戻す旅~

(1)戦えるチームへの修復作業

 堀監督が就任したのは連戦真っただ中のときだった。チームとしては完全に自信を失い、暗いトンネルから抜け出せない状態となっていた。

 堀監督がまず手を付けたのは、戦術の部分よりも戦う姿勢の部分だった。「球際、切り替え、走力」に始まるプレー強度にもう一度フォーカスした。

 ゆえに、日々のトレーニングからその部分をしっかりアピールできている選手が試合に出始めるようになった。逆に小出悠太やエヴェルトン、山田寛人といった伊藤体制時に主力でプレーしていた選手がメンバー外となった。加えて、中島元彦や氣田亮真、郷家友太ら攻撃を支えていたメンバーですらメンバー外やベンチスタートになる試合もあった。それだけ堀監督のなかでは、ある程度の基準を設けたなかでメンバーを選んでいたように感じる。

 

 戦術面に触れると、ボール保持では堀監督が以前指揮していた浦和レッズ東京ヴェルディのときに採用していた4-3-3をベースに横幅を広く取るウイングを活かした攻撃を軸として、クロスからの攻撃でゴールを目指した。ボール非保持では4-4-2に可変して、伊藤体制同様に前から行くときと後ろで構えるときの判断をしながら守る形を採用した。

 

 そんな堀体制だったが、壊れかけていたチームを修復するのは簡単ではなく、就任後も勝利から遠ざかった。攻撃では夏に加入した松崎快が右ウイングで存在感を出すなどサイド攻撃からゴールを奪えることは多くなったが、守備では求めていたプレー強度がなかなか上がらず、失点は減っていかなかった。

 

 転機が訪れたのは、8月に加入した齋藤学と長澤和輝の存在だった。日本代表経験があり、かつ海外クラブでプレーした経歴を持つ2人はトレーニングからチームにいい影響を与えることになる。

 この2人が初先発となった第30節・ザスパクサツ群馬戦では攻守において一定の手応えを感じられた試合だった。試合自体は退場者を出して0-2で敗戦したものの、プレー強度を高く保つことができ、きっかけをつかんだ試合になったと思う。

 そして第31節・大宮アルディージャ戦。全員が泥臭くハードワークした試合は最終盤にエヴェルトンが決勝ゴールを決めて、長い長いトンネルを脱出することに成功する。

 続く第32節・大分トリニータ戦では今シーズン初の逆転勝利を達成。一時の不調を脱することができた。

 

(2)遠ざかるゴールとユニット攻撃への変化

 大宮戦、大分戦で連勝し長く暗いトンネルを脱した仙台だったが、再び調子を落としていしまう。

 9月に入ると今度はゴールから遠ざかる。第33節・ヴァンフォーレ甲府戦から第35節・水戸ホーリーホック戦までノーゴールで得られた勝点は1のみだった。

 守備ではプレー強度が上がり、失点を減らすことができたが、攻撃では両ウイングが横幅を広く取るため、クロスに対してペナルティエリアに入っていく選手が少なく、決定機を作れない。そこに加え、対戦相手もしっかりスカウティングしてきて中央を堅く守るチームに対して攻撃機会が多くても崩し切ることができなかった。

 よってロースコアでゲームを進められても、最終的にゴールを奪えず、逆にチャンスを活かされて敗れる試合が多くなった。

 

 そこで次に堀監督が決断したのは前線の選手起用を変えることだった。

 9月に入ると一度メンバー外となっていた選手がコンディションを上げて試合に絡むようになっていく。

 第36節・ジェフユナイテッド千葉戦では1-3で敗れるが、途中出場した山田と中島のコンビでゴールを奪って好調をアピールすると、第37節・ロアッソ熊本戦では、山田、中島、氣田が久々にスタメンに復帰する。この試合から仙台は積極的に前からプレッシングを行い、セカンドボールを回収することで高い位置でのプレー時間を増やす。また、ここまで4-3-3からのサイド攻撃に拘っていた攻撃は、より中央に人を集めて前線の選手の連携で崩していくスタイルとなった。

 山田、中島、氣田、そこに郷家やボランチの鎌田など伊藤体制から連携を深めていたメンバーを前線に起用することで、ユニットでの攻撃を中心にするスタイルに堀監督は舵を切った。この変化から仙台はゴールを奪えるようになった。

 その一方で、後半に強度の落ちた前線の選手を交代すると攻撃の迫力が半減する問題を抱えていた。それでも堀監督は、現状で出せる最大出力のユニット攻撃で前半にゴールを奪い、粘り強い守備で守り切るという戦い方を選んだ。

 その後のいわきFC戦ブラウブリッツ秋田戦レノファ山口FC戦と熊本戦からの順位の近い相手との対戦を2勝2分で乗り切り、仙台は最低限のタスクとなった残留を確定させた。

 残留が決まった後の上位との残り2試合は連敗となってシーズン終了。最終的に16位でベガルタ仙台にとって過去最低順位でのフィニッシュとなった。

 

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 堀監督は壊れかけていたチームのなかで、戦う姿勢を取り戻し、プレー強度を高めることでなんとかチームを立て直した。戦術面で物足りなさがあったことは否めないが、それでもゴールと勝点を奪える確率が高いものを選択をしながら、沈みかかっていた船の舵取りをなんとか果たした。

 

最後に~来シーズンに向けて~

 こんなはずじゃなかったシーズン。大きく期待に胸を膨らませていただけに、裏切られたような感覚すら覚える。ただこれもサッカーの一部で、今シーズンはたくさんの苦しくて痛い思いをした。

 だからこそ来シーズン以降に同じ過ちを繰り返さないためにも、クラブにはたくさん振り返ってたくさん反省して、これからどうやってJ1を目指していくかのロードマップを決めて欲しい。

 

 今シーズンは来シーズンに向けて残すものはなかった。どちらかと言えば、残ったものよりも「気づいたもの」が多かったシーズンだった。特に堀体制になり、戦う姿勢や高いプレー強度がどんな戦術よりも大事だということを痛感した。

 仙台は、他のJ2クラブよりも能力が高く上手な選手がいる。しかし、どんなに上手くても戦えなければ意味がない。上手いだけで勝てる世界ではなくなっているのだ。「戦える上で上手い」ことが、これからどの国のリーグでもカテゴリーでも求められていく。今シーズン優勝した町田を筆頭に高い強度を持ったチームが上位に位置したのはその表れだと思う。

 そういうことを学んだシーズンだからこそ、来シーズンはこのタフで厳しいJ2リーグにおいて、高い強度を保ってプレーしていきたい。もちろん、長丁場となるリーグ戦で同じ選手がずっと同じ強度で戦えるわけがない。だからこそ厚い選手層が必要で、どの選手が出ても高い強度を持ってプレーできるかは来シーズンのポイントの1つだと思う。そして高い強度をベースとしてチームが標榜する戦術・スタイルを確立していきたい。

 

 来シーズンに向けての動きが徐々に始まっている。このオフからはいよいよ庄子春男GMが中心となってチーム作りが始まる。

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 どんなチーム構成になるかはまだ分からないが、どんなスタイル・戦術になってもスタジアムに来たファン・サポーターが応援したくなるようなプレーや戦いぶりが見たい。そんな戦いができれば、自ずとチームとファン・サポーターとが一体になって戦えるようになっていくと思うし、それが結果にも繋がっていけると個人的には考えている。

 来シーズンは、色んな我慢が必要になるシーズンだろう。それでもベガルタ仙台のユニフォームを着た選手が前向きに、チームのために戦っている姿を見せてくれればきっと明るい未来が待っているはずだ。

 

 そんな期待と少しの不安を抱きながら、今シーズンの締めとしたい。今シーズンも読んでいただき、ありがとうございました。