ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

貫録~明治安田生命J1第6節 ベガルタ仙台vs川崎フロンターレ~

 さて、今回は川崎フロンターレ戦を振り返ります。3連戦の2試合目。

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 ベガルタ仙台は、前節・北海道コンサドーレ札幌に2点リード&数的優位を得ながらも、追いつかれてドロー。勝ち点2を失った。

 ただ、それでも内容面は向上しており、なんとか結果に結び付けたいところ。今節はミッドウィークの試合ということもあって、3人をターンオーバーで起用した。クバことヤクブ・スウォビィクは再開後初のスタメンとなった。

 一方、目下4連勝中の川崎フロンターレ。攻守ともに安定した戦いぶりを発揮しており、前節の横浜FC戦でも大量5ゴールを奪い圧勝している。

 今節は、その横浜FC戦からメンバーの変更はない。ミッドウィークの試合ゆえに、コンディション面は気になるところだが、ひとまず調子の良いメンバーで挑んだ格好となった。

 

前半

(1)ここまでの仙台の守備の狙いについて改めて考える。

 さて、川崎戦を含めて再開後5試合を消化したことになる。徐々にその姿が現れてきた木山ベガルタだが、今回は守備についてフォーカスしたい。

 というのも、再開後の試合で奪ったゴールのそのほとんどがカウンターからの得点。これは「いい守備からいい攻撃」がしっかりできている証拠だと思う。そして、実際にこの試合の2得点もカウンターからの得点だった。

 ということで、仙台の守備がどのような狙いを持って、そして上手くいっているのかを改めて考えていきたい。

 

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 仙台の守備には概ね2つのパターンがある。1つは前からのプレッシング。もう1つは自陣で構えたときの守備だ。まずは前からプレッシングを見ていきたい。

 仙台の前プレは、前線3人のプレッシングが機能しているかが1つのポイントになっている。よく起こるシチュエーションは、長沢がボランチやアンカーを消しながらセンターバックへプレス。ウイングのジャメと西村もサイドバックへのパスコースを切りながらセンターバックへプレスを掛けている。

 そして、中盤より後方にいる選手は、相手の中盤または前線の選手を掴まえる。仙台は、サイドへのパスコースを切ることで相手のパスコースを中央へと限定させる。そして、相手が縦パスを出したところをインターセプトやカットして、ショートカウンターを発動させる。

 前節・札幌戦の2点目。椎橋がインターセプトからそのままゴールを決めたが、あれが仙台の理想的なカウンターだろう。 中央での縦パスを誘発させ、そこでボールを奪ってからのカウンター。

 

 去年までは、サイドへと攻撃を誘導させてボールを奪うことが狙いだったが、今年は中央へ誘い込んでいる。その理由は単純で、奪ったら即チャンスへと繋がるから。特に縦パスを入れた瞬間は、相手も前傾姿勢になっている。そこを奪うことで、相手はすぐに切り替えられない。リスクは高いように思えるが、チャンスに即つながるという点では、非常に効果的なプレッシング方法だ。

 また前述の通り、前線3人のプレッシングが肝となる。そこが1人でも機能しないとプレッシングはハマらない。なので、前線は攻守ともにとても大事なタスクを担っており、そこができないと試合に出場できないという訳だ。

 

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 続いて、自陣での守備について。

 自陣に撤退したときは、4-5-1の守備セットとなる。4バックと3センター(椎橋、道渕、関口)でしっかり中央を締める。サイドはサイドバックとウイングが協力し合いながら、守る。

 優先順位はあくまで中央なので、外にパスを出される分には問題はない。まずは中央を割らせないこと。これを念頭に守備をしている。

 去年までは4-4-2でサイドハーフが戻って、5バックになったり、6バックになったりしたが、今シーズンは5枚のラインを一列前(中盤)に上げている。このことで後ろ重心にならずに、ロングカウンターになったときには、ジャメやインサイドハーフが一気に前へ出ていけるような設計となっている。

  後ろの守備になったとしても、カウンターの起点を定めることで、「跳ね返す」だけではなく、「ひっくり返す」ことができているのが今の仙台がカウンターからゴールを奪えている最大の理由だろう。

 リスクはあっても、簡単にクリアをせずにしっかり繋げている姿勢はその表れだ。なので、吉野や椎橋、崇兆のような選手が重宝されている。

 

(2)川崎相手に、その守備はどれくらい通用したのだろうか?

 では、今シーズンから取り組んでいる仙台の守備が、川崎相手にどれくらい通用したのか。

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  仙台の前からのプレッシングに関しては、川崎に交わされるシーンが目立った。特に前半序盤には、谷口やチョンソンリョンから山根に出されて、プレスを無効化されるシーンがあった。

 また、センターバックを助けるように田中が下がってボールを受けたり、仙台が前プレを掛けてきた背後で3トップや脇坂などがボールを受けることもあって、仙台はなかなか前からのプレッシングでボールを奪うことができなかった。

 ただ、それでも30分の先制ゴールは長沢が脇坂の横パスをカットしてから。エアポケットになったシーンだったが、唯一仙台がショートカウンターからシュートまで持って行けたでもシーンだった。

 

 一方で自陣で構えるとき。川崎のボール保持に対して、構える時間は長かった。前半に関していえば、しっかり中央を封鎖しながら川崎の攻撃に対応できていたと思う。

 特に中盤は3センターが中央のスペースを気にしながら、しっかりスライドして守ることができていた。

 そして38分に奪ったボールを繋いで、椎橋からジャメでロングカウンター。ジャメの粘りから柳→道渕と繋いで、最後は道渕のミドルシュートで追加点を奪った。

 

 前半は、川崎の攻撃に耐えながらもここまでやってきた守備が機能して、効率よく2点のリードを奪えた前半だった。

 

後半

(1)個人能力で突破していく力と、エラーを起こした川崎の逆襲

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 後半のメンバー。前半に負傷交代した長谷川に代わって三笘。後半開始から小林悠と旗手が投入された。この交代で家長がインサイドハーフにポジションを変更している。

 

 後半は、川崎が攻守において修正を施したことで、仙台を飲み込み、逆襲へ転じることに成功した。

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 まず守備では、前プレを整理し直す。前半は椎橋に対してマークを付けずにボールが入ったところを狙った川崎だったが、後半は3センターが仙台の3センターをマンツーマンで監視。後方からのパスルートを断ち切ることに成功した。

 仙台としても木山監督のハーフタイムコメントにあったようにボールを握る時間を増やしたかったが、川崎の守備の修正で、ボールロストする回数が増え、なかなか握る時間が増えなかった。

 

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 攻撃においては、まずは三笘のドリブルによって、推進力が増した。抜群の推進力と滑らかなドリブルは仙台も手が付けられず、とても苦しんだ。

 そしてもう1つが家長のポジショニングだ。インサイドハーフに入った意図は、関口の背後を狙うこと。前半から仙台が前プレを掛けたときに関口が一列上げてセンターバックへとプレスを掛けることが多かった。そうすると関口の背中が空くので、そこに家長を立たせて起点を作った。これが58分の小林の得点に繋がっている。

 仙台も椎橋が家長を見るような形を取っていたが、このときの椎橋は田中に引っ張られて、家長がフリーの状態になっていた。ここから守備のズレが生まれ、失点に繋がってしまった。

 ここまでしっかり中央を封鎖することができていたが、このシーンでは中央を割らせてしまった形となった。やはり関口が行くべかどうか、行けるのかどうかは周りの声が大事だろう。そういう意味では、まだまだ全体の守備判断に成長の余地があるということだろう。

 

 話は戻るが、家長の役目は背後を取るだけではなく、一旦ボールを受けて全体を落ち着かせたり、フリーマンとなって、逆サイドに顔を出すことで、川崎の攻撃の潤滑油になっていた。結果的にこの起用が功を奏したと言えるだろう。

 

 川崎は、その直後に前線からボールを奪って、ショートカウンターから山根が決めて同点。67分にはショートコーナーの流れから小林が決めてあっさり逆転した。

 

(2)中原彰吾投入・ボランチサッカーへの変身

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 仙台は同点後に、山田とゲデスを投入。逆転後に中原を投入している。

 中原を投入してからの仙台は、4-2-3-1のシステムに変更した。

 後半開始から逆転されるまでの仙台は、ボールを握れず、耐える時間が長かったが、それがあっという間に決壊してしまった。

 

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 中原投入後は、仙台がボールを握る時間が多くなった。川崎が仙台がダブルボランチにして引いたことや、川崎がガス欠からプレッシングを掛けられなくなったこともあるが、中原がセンターバックからボールを引き出し、それを展開していくことで、攻撃にリズムが生まれ押し込めるようになった。

 徐々にチャンスを作れるようにもなったが、ジャメのシュートもゲデスのシュートも枠に飛ぶことができなかった。

 仙台はその後、蜂須賀と浜崎を投入して、同点を目指す。一方の川崎は下田と守田でゲームを締めに掛かる。

 仙台は、なんとか同点を目指し、前掛かりに攻めるも、疲労からか最後の精度とクオリティに欠けてしまった。ここに川崎の大きな差を感じることとなってしまった。

 そして試合終了。2試合連続で2点のリードに成功した仙台だったが、またしても勝利を掴み取ることができなかった。

 

最後に・・・

 またも2点リードしながらも、勝ち点3を得られなかった。

 今節に関していえば、川崎の貫録を見せつけられた試合だった。横綱相撲。完成されたチームとまだまだ成長中のチームの差だった。

 

 ただ、後半に関してはもっとやりようはあったと思う。押し込まれたときに一旦クリアしてラインを高くするとか、無理に前から行かずに中央を空けないとか。試合の状況に応じて、やるべきことは刻々と変化していく。その変化にどれくらい気づいて、みんなで共有できるか。そこはまだまだこのチームの足りない部分だし、これからの部分かなと思う。逆に言えば、そこを共有できるようになれば結果は付いてくるのかなと。

 戦術的にチームとして狙っている部分以外に、試合に勝つための判断がどれくらいできるか。そこは木山ベガルタの課題ではないだろうか。

 

 次節はアウェイで柏レイソルとの対戦だ。ネルシーニョ監督も相変わらず厄介なはずだ。この2試合で得た課題と悔しさを糧に、次節こそは勝利を期待したい!!