さて、今回は川崎フロンターレ戦を振り返ります。
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スタメン
前節は首位・FC東京に惜しくも敗れたベガルタ仙台。水曜日の天皇杯・カタ―レ富山戦に勝利しての今節となる。前節からのメンバー変更は、ハモンロペスに代わって長沢が2トップの一角に起用されている。ベンチには、ケガから復帰し、天皇杯で決勝ゴールを決めたジャーメインと阿部が入っている。システムを3-1-4-2に変更しているが、その狙いについては後述することとしたい。
一方の川崎フロンターレ。前節は名古屋グランパスに0-3と完敗し、2試合勝ちなし。水曜日の天皇杯・ファジアーノ岡山戦では延長戦の末に勝利している。コンディションは決して良いとは言えないが、優勝レースを考えると、これ以上の取りこぼしは許されない状況だ。
しかし、今節は谷口とジェジエウが出場停止。センターバックにケガ人や移籍があり人がいない。そんな今節は車屋と山村がセンターバックを組む形となった。それ以外にはマギーニョ、下田、家長が前節からの変更点となっている。
前半
(1)仙台の目論見はなんだったのかを考えてみる。
試合は川崎がエンドを変えてキックオフする。
2分。ロングボールの競り合いから家長の肘が関口の顔にヒットする。これで顔を負傷した関口は交代となり、ジョンヤが投入される。
永戸が左ウイングバック、ジョンヤが左バックになった。
さて、そんな展開から始まった試合だが、まずは仙台がシステム変更した目論見、川崎に対してどう戦おうとしたのかを考えていきたい。
はじめに、試合終了後の渡邉監督のコメントからヒントを得よう。
■3バックで臨んだねらいと、どれくらい効果が出たのかを教えてください。
まず、最初に申し上げておくのは、関口が負傷したから3バックにしたのではなくて、最初から3バックです。
川崎Fさんとの戦いをこれまでのゲームから振り返った中で、やはり我々が前向きに守備をしたいと。そうなったときに、今は4バックでも非常にバランスがいいのですけれども、どうしても両サイドのサイドハーフが引っ張られて下げられてしまうと、そこから出ていくパワーもなくなるし、どうしても守備に対して後ろ向きにプレーする選手が増えてしまうと。そういうところをまずなくしたかったので、5枚にして、最初から前向きにボールを奪って出ていくというようなシーンを作りたかった。
あとは、理想を言えば、もっと守備で人にかかっていって、ちょっとピッチの中でカオスを作り出すというか、そういうものを作りたかったというのが、1番の理想です。ではそれができたかというと、ほとんどできていなかったので、そこに関してはもっともっとやりたかったな、という部分が正直あります。
渡邉監督の言葉を借りれば、「前向きに守備をしたい」、「人へかかって、カオスな状況を作り出したい」という2つの狙いがあった。
図で表すとこのような感じだろうか。
まずは、2トップから川崎のセンターバックへプレスを掛け、後方もそれに連動して、人を掴まえながら全体でプレッシングを行う。
加えて、川崎は密集エリアから打破していくので、仙台はそれに対して人数を掛け、デュエル勝負に持ち込み、密集エリアから逃がさない狙いだった。
そのために、サイドハーフが下がり、後ろが重くなりがちな4バックよりも、前に人数を掛けられる5バックを選択したということだ。
また、仙台の守備特徴である「人への意識が強い守備」を実現するために、システムの噛み合わせをガッチリと合わせ、川崎相手にも今まで通りの守備をできるようにしたという見方もできるかもしれない。
では、実際はどうだったのかというと現実はそうは甘くなかった。
特に再現性があったのが、川崎の右サイド、仙台の左サイドだった。
おそらく仙台の守備のウィークサイドである左サイドを狙い撃ちするプランは試合前から持っていたと思われる。
川崎は人へかかる仙台の守備に対して、まず剥がす。それから人を動かしてスペースを空ける。そしてその空けたスペースへランニングする。を愚直にこなしていた。
多かったのは図のように永戸がマギーニョに剥がされ、家長がジョンヤを外へ引っ張り出され、そこへ2列目や小林、またインナーラップしたマギーニョが侵入されるシーンだった。
仙台としては、ファーストディフェンダーである2トップから連動して、相手を掴まえ、デュエル勝負へと持ち込みたかったが、川崎の熟練のパスワークに簡単に脱出されてしまうこととなった。この辺りは、試合後の会見でも渡邉監督が準備不足だったことを認めていた。
そして、22分の得点シーンも川崎の右サイドから始まり、最後は阿部が冷静にシュートを決めて、川崎が先制する。
(2)飲水タイム後の修正。現実路線へのシフトチェンジ。
川崎のパスワークの前に、自分たちが目論んでいた展開へと持ち込めない仙台。時計の針は過ぎていき、26分の飲水タイムとなる。
ここで仙台は守備のやり方を修正した。
「前向きに守備をしたい」、「人へかかってカオスを作りだしたい」を目論んでいた仙台。そのポイントになるのがファーストディフェンダーとなる2トップのプレスなのだが、そのプレスが連動していなかった。
よって、飲水タイム後は2トップがセンターバックへのプレスをやめる。その代わりに2トップは相手のボランチをケアするようになる。このことでインサイドハーフの松下と道渕の負担を軽減できるようになった。負担が軽減された3センターは、スライドを行いながら、中央のスペースを埋めるようになった。
最終ラインも対面の選手に対して、はじめからマークに付くわけではなく、ボールが入ったときに前を向かせない迎撃守備に変更されていた。
特にウイングバックの守備が整理されたことで、永戸のマギーニョへの対応がかなり改善された。このことで、ジョンヤも対面の家長へマークを集中できるようになり、左サイドの守備が安定するようになった。
また、2トップから追わなくなったことで、3ライン(DF-MF-FW)がコンパクトになり、マークを受け渡しながら川崎の選手を掴まえられるようになった。
なので、飲水タイム後は川崎にほとんど危ないシーンを作られることはなかった。奪ったボールを徐々に前線へと繋げられるようにもなり、川崎ペースで進んでいた試合を少しずつ自分たちのペースへ引き込むことができたところで前半が終了する。
川崎の1点リードで後半へ。
後半
(1)更なる守備の整理と逆転。
前半の仙台は、試合前に目論んでいたことが上手くいかずに川崎に先手を取られる展開になる。しかし飲水タイムを挟み、守備のやり方を修正すると、少しずつ川崎の攻撃へと対応できるようになり、ハーフタイムを迎えた。
後半は、前半で修正できた守備をより整理することで、川崎のボール保持攻撃を抑え、前に出ていくことができるようになる。
後半の仙台は、前からプレスに行くときと、引いてブロックを組む守備の使い分けができるようになる。
前から行くときは、基本的にチョンソンリョンがボールを持ったところからのシーンが多かった。2トップが再びセンターバックへプレスに行き、センターバック間へ落ちるボランチへは、インサイドハーフのどちらかが付いていく。憲剛に対しては富田が、家長へ対してはジョンヤがどこまでも付いていく気概を見せる。
ただ、川崎にうまくプレスを脱出されたら、前半のように5-3-2の守備ブロックを形成するようになる。この前プレから撤退守備へ切り替わったときに、富田が憲剛へずっと付いていき、中央のスペースを空けてしまったときは怖さを感じた。しかし全体を通して見れば、後半開始からの守備は集中して、守ることができていたと思う。
そして、54分に平岡からのロングパスに長沢が抜け出して同点ゴール。
64分には、この試合初めて川崎を押し込んだ形から、ジョンヤが中央をドリブルし、長沢へスルーパス。これを冷静に長沢が決めて逆転に成功する。
この2ゴールは、平岡とジョンヤ、3バックの左右が絡んだゴールとなった。ベテランらしい素晴らしい判断と落ち着いたプレー。日ごろは地道に相手を潰すプレーが多いが、そのような選手が得点に絡むことは素直に嬉しい。
ということで、いい守備からいい攻撃へと繋げることができた仙台が逆転に成功する。
(2)5-3-2から5-4-1へ。
70分に飲水タイムを挟み、試合は終盤へと向かっていく。
この飲水タイム以降の仙台は、システムを5-4-1へ変更する。
逆転から飲水タイムまでの時間帯。前線へと行くパワーがなくなったこともあり、次第に2トップも自陣深くまで下がっていたので、早い段階で、前から行くことよりも後方で中央を締めながら守備をしていくやり方にシフトチェンジした。
一方の川崎は両サイドハーフを代え、よりフレッシュな選手の質で勝負していく。
そして78分に、波状攻撃から右サイドでマギーニョがペナ角からクロスを上げると、蜂須賀の後方から走り込んだ長谷川が決めて同点に追いつく。
仙台は5-4-1にしたことで、前半の飲水タイム以降からしっかり対応していた永戸に代わって石原がマギーニョに対面することとなった。そこで寄せが甘く、ペナ角でマギーニョに時間とスペースを与えてしまう格好となってしまった。結果論であるが残念無念。隙といえば隙を与えてしまった。
一気に勝ち越したい川崎はレアンドロ・ダミアン。一方の仙台もハモン、ジャーメインを投入して、両者勝ちに行く姿勢を最後まで見せる。
しかし、得点を取りに行った両者だが、最後のところは決めきれずにタイムアップ。2-2のドローで勝点1を分け合う結果となった。
最後に・・・
試合前の目論見通りには、ゲームが進まなかったが、飲水タイムやハーフタイムを挟みながら守備を修正していき、一時は逆転まで持ち込むことができた。
5-4-1で守り切ろうとしたところで川崎に意地を見せられる悔しい形となったが、今自分たちがやれることを王者相手にしっかり見せることができたのではないだろうか。
また少ないチャンスのなか、それを活かした長沢や平岡、ジョンヤの判断とパスは素晴らしかった。
この勝ち点1を大きかったと言うには、次節、次々節の対戦がとても重要になってくる。湘南、鳥栖と順位の近い相手の対戦が続く。前半戦の静岡連戦のような仇を踏まないためにも、自分たちが成長した所を見せて欲しい連戦だ。
まずはホームでの湘南ベルマーレ戦。しぶとく、高い集中力で勝ち切る試合を期待したい!!