ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

攻守に課題が残った仙台~J1第19節 ベガルタ仙台vs名古屋グランパス~

 

 さて、今回は名古屋グランパス戦を取り上げます。

 

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 前節・セレッソ戦で手痛いドローとなったベガルタ仙台。ホーム連戦となるこの試合で払しょくすることができるかどうか。連戦ではあるが、スタメンは前節と変更しなかった。なお、ベンチにはジャーメインに代わりリャンが入っている。

 一方、最下位の名古屋グランパス。この夏は大型補強を敢行し、この試合でも新加入選手が4人入っている。特に金井は移籍後初スタメンとなった。前節が台風の影響で中止となり、仙台よりもコンディション面では有利か。

 

前半

(1)ネガティブトランジション時に発生するスペース

 

 前半開始から20分あたりまでは仙台がボールを保持し、名古屋を押し込む展開が続いていく。開始早々に矢島が肉離れし、永戸との交代を余儀なくされてしまったのはアクシデントだったが。

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 仙台が早々にボールを持てたこと、押し込めたことの理由は、名古屋のサイドハーフによるものだった。

 名古屋は、ボールを持つと玉田とシャビエルは自由に動き、ビルドアップ隊からボールを引き出す。しかし、そこから仙台にボールを奪われたときの2人の切り替えが早いわけではない。

 ゆえに仙台は、ウイングバックサイドハーフ裏でボールを受けて前進することができた。切り替え時の名古屋は4-2の状態で守っていたことが多かった。

 仙台としては、相手の守備が整っていない間に攻撃を仕掛けたいのだが、どうしても後方に下げて攻撃を作り直すことが多かった。勇気を持って仕掛けるシーンは少なかった。その間に玉田とシャビエルが戻るという展開が前半の20分あたりまで続いていった。

 

(2)「名古屋の軸」小林裕紀

 

 名古屋は仙台に押し込まれ、攻撃でもシュートまで持っていくことができずにいたが、時間が経過するとともに、ボールを保持し、仙台陣内でのプレー時間を増やせるようになっていく。

 名古屋の攻撃は非常に流動的である。前述の通り玉田、シャビエルの両サイドハーフは基本的に自由に動き、パスを引き出し、そして2トップへと配給していく。また前田直輝が加入したことで、裏へ抜けるプレーも増えた。

 その中で攻守ともに名古屋のバランスを取っていたのが、キャプテンの小林裕紀である。小林はボランチの位置で少ないタッチで捌いていくのが特徴的。またボールの受け方や体の使い方で相手を抜くなど、2年目となる風間監督のサッカーが体に浸透している。和泉とバランスを取りながら、ボールサイドに顔を出していたのも印象的だった。

 先制点では右からのサイドチェンジで、2点目では上半身のフェイントで石原を抜き、2得点ともに攻撃の起点となった。

 また守備時には中央にいることで、仙台の攻撃を遅らせることにも一役買っていた。セレッソのダブルボランチとは違い、このあたりのリスクマネジメントを小林が取れていたことは大きい。

 決して目立つプレーヤーではないが、バランスが取れる小林の存在はこの試合では非常に効いていた。

 

(3)仙台の守備と失点シーン

 

 仙台の守備は5-3-2で、待ち構える守備をすることが多かった。前線からのプレスで名古屋のボール保持を限定させていくよりも、自陣で待ち構えたうえでボールを奪うことが守備の決まり事だった。

 名古屋は攻撃時に流動的に人が動くので、ボールを奪った瞬間、ポジションバランスが崩れている状態になる。ゆえに、そこでカウンターを発動させることで、名古屋の守備のバランスが悪い状態のところを突けるという狙いがあったと思う。実際にそのような場面から名古屋陣内にボールを運べたシーンはいくつもあった(しかしフィニッシュまでに時間が掛かったが・・・)

 また前述した通り前線(2トップとサイドハーフ)の戻りも遅く、そこもポイントとしてあったはずだ。

 

 しかし、失点シーンはそんな待ち構える守備を名古屋に崩された失点となってしまった。

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 特に1失点目は、問題の多いシーンとなってしまった。写真は名古屋は右からのサイドチェンジで、ジョーが左サイドで受け、蜂須賀と1対1になったシーン。

 このときの平岡と奥埜のポジションに注目してもらいたい。平岡はジョーの後ろでフォローにきた金井を見ている。そのため蜂須賀の背後のポジションには誰もカバーがいない。要はチャレンジ&カバーができていない状況となっている。

 加えて奥埜は、ジョーがニアへ走り込む前田にパスを送った瞬間に棒立ちになっている。平岡がカバーできないならば、奥埜がカバーに入らなければならないシーンだった。

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 結果的に蜂須賀の背後は誰もカバーできておらず、前田とのワンツーで崩したジョーが先制点を決められる。

 連戦の疲労が原因で足が動いてないのか、それともチームとして守備の理解が未成熟なために起きた失点なのか原因は不明だが、非常に頂けないシーンであったことは確かだ。

 

 2失点目も中央で和泉に2枚剥がされてしまったところからの失点だった。和泉の上手さが際立ったシーンである一方で、もっと寄せてファウルでもいいので止めるべきシーンだった。ただ、1失点目よりも仕方ないかなと思うシーンでもあり、やはり悔やまれるのは1失点目の対応だった。

 

(4)仙台の立ち位置をどう評価するか

 

 立て続けに2点奪われた仙台は、攻めなければならない展開となる。しかし名古屋を押し込むことができても、最後のところで丸山と中谷を崩せないというシーンが続いていった。

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 個人的に思うのはビルドアップのところである。写真は40分のシーンだが、板倉がボールを持ったときの周辺の選手の距離感が遠い。インサイドハーフより前のポジションにいる選手が、前に張り出している状態だ。

 何が言いたいかというと、前に張り出すことで名古屋の選手を押し込むことに成功していることは確か。しかし、名古屋もペナルティエリアに人数が掛かってしまうので、最終局面で中を固めている名古屋の守備陣と対峙しなければならない状態を仙台が作ってしまっているということだ。

 ならばビルドアップの部分やミドルサードで名古屋の守備を剥がし、前線にスペースを作ることが大切になってくる。そのためには3バックと中盤の距離を近くし、中盤が相手を引き出すことや、写真でいう板倉が運ぶドリブルで中盤との距離を近くしながら相手を剥がすことが必要となってくるだろう。

 調子の良いときの仙台は、ビルドアップ時の全体的な距離感が良かったし、相手のプレスをうまく掻い潜ることで、前線にスペースが生まれ、そこで西村や石原が生きるというのができていたはずだ。このビルドアップのところは見直したい部分である。

 

 前半は名古屋が2点リードで折り返す。

 

後半

(1)役割の整理

 

 仙台は後半に入ると、全体の役割が整理されるようになった。

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 前半は攻撃時も守備時も、3-1-4-2のシステムとなっていた仙台。前半ところでも書いたようにビルドアップ隊と中盤の距離が空いてしまい、攻撃が停滞してしまっていた。

 後半は3センターの役割を明確にすることで、より攻撃がスムーズとなる。ビルドアップ時は、奥埜がリンクマンとなり、富田の横に登場する場面が増えていく。反対に中野は高い位置取りをし、2トップに近い位置を取るようになった。よって図でも表したように攻撃時は3-4-3に近いというかそのもの可変していた。

 中野と西村がシャドーになることで、ハーフスペースを使う人間がハッキリし、前半よりもペナルティエリアに侵入できる回数も増えていった。

 そして53分に右サイドからの崩しから中野が決めて1点を返す。このシーンは蜂須賀が仕掛けて中へと切り込んだところがポイントだった。

 

 また守備のときは前半と変わらずに5-3-2で守っていた。2トップを攻め残りさせ、カウンターの起点とさせるのが狙いとしてあったので、守備時のシステム変更はなかった。

 

(2)プランBのない名古屋

 

 後半は押し込まれる展開が続いた名古屋。ボールを持って攻撃に繰り出すことはなかなかできず、カウンターからチャンスを窺うシーンがメインとなっていく。

 そもそもボールを持ったときに、その強さを発揮する名古屋なので、相手が変化したときのどう対応するかというプランBみたいなものは持たない。よって流れが来ないとそのままズルズルと相手ペースになってしまう。

 それでも、この夏に補強した丸山と中谷を中心にはじき返せるので、前半戦のような破たんは少ない。この試合は特にセンターバックで耐えられた。守備は個人能力任せの名古屋は、ある意味で風間サッカーらしくなってきたなと感じている。

 

(3)両チームの采配

 仙台は西村に代えて阿部。板倉に代えてハーフナーを投入し、システムも3-4-3に固定し、攻撃の圧力をさらに加えていく。

 一方の名古屋は玉田、和泉と疲労が窺える選手を代えて強度を保つ。そして3枚目はシャビエルに代えて新井を投入し、勝ち切るメッセージをピッチへと送る。

 

 仙台の攻撃は石原のシュートもハーフナーのシュートも、ポスト直撃となる。残念無念。

 名古屋も最後の最後まで、仙台のクロス爆撃を跳ね返し続ける。疲労で足が攣る選手が続出する中でも、粘り強い守備で仙台の攻撃を跳ね返しし続けた。

 そしてタイムアップ。名古屋は第2節磐田戦以来の勝利となった。

 

最後に・・・

 前半の戦いぶりが課題となった試合だった。おそらく前半はしっかり守ってカウンター、後半は調子のいい永戸やハーフナーを投入しながらゲームを決めるというのが、プランだったのではないだろうか。しかし崩されての失点でプランが狂ってしまったのは反省点である。

 また攻撃では押し込めていても、相手を剥がしたり、後手を踏ませる攻撃は少ない。中野の得点では蜂須賀の仕掛けにより、相手を後手に回すことができたが、ああいうプレーをもっと増やさなければならない。

 押し込めているからいいのではなく、どうすれば守備のバランスを崩せるのかというのを考えていく必要がありそうだ。もっと理詰めで考えていかなければならない。

 そういった意味では、後半の役割整理は良かったし、ああいうことを試合開始からやっていきたいと、この試合では感じた次第である。

 

 試合はすぐにやってくる。次節はアウェイでの磐田戦。ホーム連戦での悔しい思いを次節にぶつけて欲しい!