ヒグのサッカー分析ブログ

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ボール保持に対する2つの対抗策~明治安田生命J1第14節 ベガルタ仙台vs名古屋グランパス~

 さて、今回は名古屋グランパス戦を振り返ります。

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 ベガルタ仙台は、前節敗れた清水戦から5人変更した。センターバックが平岡とシマオ・マテのコンビ。トゥーロンで不在の椎橋に代わり富田。サイドハーフには道渕と関口が名を連ねた。システムも4-1-4-1へ変更。この狙いについては後程考えていきたい。

 一方の名古屋グランパスは、前節・松本戦から2人の変更。右サイドハーフに前田、2トップの一角にマテウスが起用されている。今シーズンホーム初黒星を喫しただけに連敗だけは避けたい一戦だ。

 

前半

(1)この試合における仙台の守備テーマと狙い

 まずは、変更したシステムの狙いについて考えていきたい。

 

 前節・清水戦では、守備の拙さや脆さを露呈し、4失点。特に対峙する相手に対する寄せの甘さが目立った。

 この名古屋戦では、まずは守備の基準点を明確にするところから始める。

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 ボール保持に命を掛ける名古屋においてキーマンとなるのが、ダブルボランチだ。この2人がボールに触ることで攻撃のリズムを作り出す。そのダブルボランチに対して、仙台はインサイドハーフに入った松下と海夏が見る形となる。

 また相手の2トップに対しては、センターバックの2人が前を向かせない、背中を取らせない守備で潰しに掛かった。対人に強い平岡とシマオを起用したのは、前節の反省に加えて、前を向かせない、背中を取らせない守備がしっかりできるからだ。

 彼ら2人は、常田やジョンヤのようにボールを繋ぐ能力は劣るものの、この試合で「守備の激しさとタフさ」をテーマとしていることが起用の理由として大きかった。

 そして名古屋のサイドハーフは基本的にサイドバックが見る。名古屋は仙台が4-1-4-1であることが分かると、サイドハーフがアンカー脇に立ち、横幅をサイドバックに任すようになる。

 それに対して仙台は、そのままサイドバックサイドハーフに付いていき、サイドハーフがそのスペースをカバーする仕組みとなっていた(上図の左サイドのような形)。特に試合序盤の左サイドでは、関口がディフェンスラインまで落ちて5バックのような振る舞いを見せることがあった。

 

 余談ではあるが、名古屋が4-4-2ならミラーゲームでもいいじゃないか!という話にもなるが、ダブルボランチがダブルボランチを見る形を取ると、ボランチセンターバックの間にスペースができ、そこを使われる可能性があるので仙台としては旨くない。

 4-1-4-1にしアンカーを置くことで、インサイドハーフが背中を気にせずに高い位置までボランチへプレスを掛けることができるので、4-4-2よりも高い位置から守備が行える。加えてハードワークできる長沢が1トップであったことも、このシステムを採用した(できた)理由の1つだろう。

 

 そんな1トップの長沢であるが、守備時にセンターバックへプレスを掛けるだけではなく、ビルドアップの逃げ場として、ロングボールの的になることが求められた。仙台はそのロングボールに対して、「長沢vs中谷」という構図を極力作るようにしていた。競り合いで勝利できる可能性がある中谷を狙い撃ちすることで、ロングボールに競り勝ち、セカンドボールを回収することで、仙台は陣地回復を狙った。このバトルは90分間愚直に行われた。

 6分の先制点のシーンも地上戦ではあったが、長沢は中谷に競り勝ち、海夏のゴールをお膳立てしている。

 

 試合序盤は、守備がしっかり機能したことで仙台がゲームの主導権を握り、加えて先制点を奪うことにも成功できた。

 

(2)攻撃ルートを変更する名古屋

 15分を過ぎたあたりで、名古屋も攻撃のルートを変更する。

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 それまでアンカー脇にポジショニングしていたサイドハーフが中から外の動きで、サイドに登場することが多くなる。

 このことでサイドバックボランチからボールを受けて、前進するケースが増えていく。

 特に右サイドでは、前田がサイドで受けて永戸に対して仕掛けるシーンが増えていった。永戸としては非常に苦労したと思うが、関口や平岡などと協力しながら耐え凌ぐことができた。

 

 しかし、名古屋がこれを機に押し込むようになり、徐々に名古屋のペースでゲームが進むようになる。

 仙台もボールを奪って、そこからクリアするのではなく、繋いでカウンターを発動させたいのだが、名古屋の切り替えの早さ、自らのパスミスでなかなか自陣から脱出することができなかった。

 そして27分に名古屋の波状攻撃からマテウスの鋭利なミドルシュートで名古屋が追いつく。

 仙台としては、奪ったボールをなかなか繋げられず、我慢の展開となったところでの同点ゴールだった。状況が悪ければハッキリしたプレーも必要だが、この時間帯の仙台はしなかった。そのようなハッキリしたプレーをして、一度相手陣内から守備をスタートさせても良かったと思う。この辺りはプレーしている選手たちの判断だ。

 

 その後も、押し込む名古屋に対して、仙台がセンターバックを中心に耐え凌ぐ展開が続いた。しかし得点を生まれず1-1で折り返す。

 

後半

(1)ボールを保持することで、相手から攻撃の機会を減らす

 前半は開始早々に仙台が先制し、その後はボールを保持する名古屋とそれをタフな守備で対抗する仙台という展開でゲームが進んだ。

 

 ボール保持に命を掛けるチームへの対抗策として、前半のような守備で対抗する手段もあれば、相手からボールを取り上げる手段もある。

 前半の仙台が選んだ手段が前者ならば、後半の仙台が選んだ手段は後者であった。

 

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 後半の仙台は、ボールを奪うと前を探すのではなく、まずはボールを落ち着かせ、ボール保持の局面を作り出す。

 そのときの配置が上図のような形となった。アンカーの富田がセンターバック間に落ち、インサイドハーフも落ちてビルドアップ隊に加わる。

 サイドバックは高い位置を取り、名古屋のサイドハーフサイドバックの中間ポジションを取る。

 前線では、サイドハーフが名古屋のセンターバックサイドバックの間にポジショニングし、相手サイドバックをピン止めすることで、仙台のサイドバックへプレスを行きづらくさせていた。また、長沢は前半同様に中谷を狙い撃ちしていた。

 名古屋はボール非保持の局面が得意そうではなかった。移動する仙台の配置に対して、守備の基準点が狂ってしまい、誰がどこまで行くのかが曖昧になっていた。

 よって仙台はボール保持から前進し、51分や53分のように相手ペナルティエリアへと侵入することに成功していった。

 

 仙台の前進は右サイドからが多かったが、おそらくそれは相手の問題というよりも、道渕と蜂須賀の立ち位置や距離感が良かったことが理由だと思われる。道渕はカウンターの起点にもなっており、この試合では90分間通して非常に効果的なプレーをしていた。

 

(2)質で押し返す名古屋

 名古屋は前進させられていた左サイドの問題を解決するため、58分に和泉からシャビエルへスイッチする。

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 この交代の狙いは、仙台の右サイドの前進を抑えることだが、守備で抑えるのではなく、シャビエルを投入し、攻撃の強度を上げることで仙台の右サイドを押し下げることが狙いだった。風間監督らしい采配といえば采配だった。

 この交代を機に再び名古屋が押し込むようになり、前半のリピートのような展開へとなっていく。

 しかし、中央をしっかり固める仙台に対して、名古屋はゴールを奪うことができなかった。

 中を固める仙台に対して、最後の質のところが足りない。つまりジョーが不在だったことは少なからず影響があったというのが個人的な見解だ。この試合ではアタッカーは揃っていても、フィニッシャーがいない。そんな名古屋の攻撃だった。

 そして72分のマテウスミドルシュートはダンがセーブし、ここで名古屋のターンが終わる。

 

(3)「諦めない奴の前には必ずボールが転がってくる」 

 72分にマテウスのシュートをダンがセーブし、名古屋のターンが終了した直後に仙台が勝ち越しに成功する。まさに我慢が報われた。

 セーブしたダンから再びボール保持攻撃へと移行する仙台。平岡から途中交代で入った崇兆がボランチ脇でボールを引き出すと、攻撃のスイッチが入る。中央で道渕と兵藤のコンビネーションで突破を図るも阻まれるが、そのこぼれを松下がミドルシュート。ランゲラックが弾いたボールを長沢が押し込み、仙台が勝ち越しに成功する。

 この試合、試合開始から相手センターバックにプレス、時には味方が空けたサイドのスペースを埋めるべく下がり、ロングボールでは中谷への狙い撃ちを愚直にこなし、先制点ではポストプレーで潰れ役となった。そんな多岐にわたるタスクをこなした長沢へのご褒美のような得点。

 「諦めない奴の前には必ずボールが転がってくる」とはETU・堺良則の言葉だが、そんな言葉がぴったりの長沢の活躍と得点だった。

 そんな長沢は82分にもランゲラックのパスをカットすると、冷静に流し込み追加点を奪い、勝利をグッと手繰り寄せた。

 

 そして最後に大岩を投入し、ゲームを締めにかかる。近距離のフリーキックも壁にぶつかり、その後は丁寧に時計の針を進めた。

 そして、アディショナルタイム4分もしっかりやり過ごしてタイムアップ。名古屋を相手に3-1で連敗脱出となった。

 

最後に・・・

 前節・清水戦の反省もあり、守備では激しさとタフさを取り戻すことができた。その中で、シマオと平岡のセンターバックや富田がしっかり期待に応えてくれたのは、とても良かった。

 またボール保持に命を掛けるチームに対して、その激しくタフな守備と、後半にはボールを取り上げることで攻撃の機会を減少させるという2つの対抗策を見出した。そもそものゲームプランなのか、ハーフタイムの修正なのかは定かではないが、素晴らしいゲーム運びだったと思う。

 

 大事なのは、これを継続することである。激しくタフな守備と丹念な攻撃を持続させ、今シーズン初連勝を狙いたい。

 次節の松本は名古屋とは対照的なチームだ。名古屋戦では、ボールを保持するチームに対してどう立ち向かうかがテーマだったが、次節は「松本のブロックをどう攻略するか」、「松本のカウンターをしっかり食い止められるか」、「研究してくるであろうセットプレーでしっかり守ることができるか」などがテーマになってきそう。

 この勝利と内容をベースに次節も勝利し、今シーズン初の連勝を期待したい!!