ヒグのサッカー分析ブログ

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90分で勝った仙台~明治安田生命J1第15節 ベガルタ仙台vs大分トリニータ~

 さて、今回は大分トリニータ戦を振り返ります。長沢駿との再会。

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 ベガルタ仙台は、前節・アビスパ福岡戦で終了間際に失点を喫し惜しくも敗戦。ホーム連勝とはならなかった。しかし、水曜日に開催されたルヴァンカップサンフレッチェ広島戦では3-0の快勝。ホーム3連戦のラストとなる大分トリニータ戦でも、ルヴァンカップの勢いそのままにぶつかっていきたいところだ。

 福岡戦からは、3人の変更。右サイドバックに照山、ボランチに富田、2トップの一角に赤﨑が起用された。またベンチには新加入のフェリペ・カルドーゾが初めて入った。

 一方の大分トリニータは、前節・サガン鳥栖戦で1-1の引き分け。同点直後にはPKを獲得したものの朴一圭に阻まれ勝利とはならなかった。仙台と同様に苦しいシーズンとなっている大分。残留を争うなかで負けられない一戦だ。

 大分は、鳥栖戦から2人の変更。3バックの中央にエンリケ、1トップに古巣対戦となる長沢が名を連ねた。

 

前半

(1)仙台のゲームプランと狙い通りのカウンター

 この試合の仙台はスタメンとサブのメンバー構成を眺めると、前半は守備にウェイトを置いて失点をなくし、後半からカードを切りながら攻勢を強めていこうというプランだったと思う。

 なので、仙台としては前半はいかに失点しないかが重要なポイントだった。

 しかし、そんな中で仙台が先にゲームを動かすことになる。

 フォギーニョが奪ったところからのカウンター。赤﨑のスルーパスに抜け出した西村のシュートは相手ディフェンスに当たり、ポープ・ウィリアムの頭上を越えていった。

 カウンターのシーンでは、フォギーニョが氣田に預けて外へランニング。このことで下田を引っ張ることに成功し、氣田は赤﨑へパスができた。また赤﨑のドリブルも相手の前に入ることで、ボールを奪われない位置取りによりスルーパスを送れた。カウンターのお手本のようなゴールだった。

 仙台としては狙い通りの形であり、願ってり叶ったりなゲームの入りができた。

 

(2)厄介だったシャドーの役割

  先制できた仙台だったが、12分に追いつかれる。

 ボールを奪われたところから、大分に解放を許し、香川のクロスを町田がボレー。こぼれ球を長沢が押し込み同点に追いつかれる。

 仙台としては、なるべくクローズな状態でゲームを進めたかったが、失点シーンではオープンな状況にさせてしまった。

 

 試合は、その後も大分が主導権を握る展開となった。

 大分が厄介だったのは、シャドーの町田と渡邉の役割だった。

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 町田は、基本的に右サイドのヘルプに走る。松本のポジションで崇兆を引き出し、その背後に町田が抜け出す。そこから松本とのコンビネーションで崩しにかかる。

 渡邉は、サイドに流れずハーフスペースと中央レーンにいることが多かった。大分がボールを保持したときに、仙台は下田に対してフォギーニョが監視するような形を取る。その時にその背後に顔を出してボールを引き出す。加えて、長沢が競ったセカンドボールを回収する役回りもしていた。また渡邉が中央にいることで照山が引っ張られる。そうするとサイドが空くので、三竿から香川のパスが通りやすくなっていた。 

 大分の攻撃は、右サイドでは町田が絡んで複数人で崩していく。左サイドはで三竿→香川のパスラインで前進し、シンプルにクロスを上げていく攻撃だった。

 特にフィニッシャーの長沢と渡邉がいるので、右から崩して左で仕留めるようなパターンが狙いだったように思える。

 

(3)呼吸する場所を見つけ出せない仙台

  守備に回る時間が多かった前半の仙台。守備では平岡と吉野を中心に、最後はやらせない守備ができていたし、右サイドバックに照山が起用されていたので、右からのクロスに対してのペナルティエリアでの対応はある程度できていた。

 もしかすると、大分のサイド攻撃に対して対応するための照山の起用だったのかもしれない。

 

 しかし、奪ったボールをなかなか前進できなかったし、落ち着く場所を見つけられないでいた。

 氣田が何度かサイドを抜け出すシーンを作れていたが、坂に対応されてしまう。

 また、ボールを落ち着かせる場所を見つけられなかったことで、仙台は縦に急ぐかボール保持の局面で大分のプレッシングを掻い潜れずに奪い取られたり、ロングボールを蹴らざるを得ない展開が続いた。

 

 内容的には大分優勢の前半だったと思う。そのまま逆転を許してたら、もっと苦しい展開だった。しかし同点で折り返せたことは、仙台としてはゲームプラン内だっただろうし、選手交代を含めて十分に盛り返すことが可能な状態でハーフタイムを迎えることができた。

 前半は1-1で折り返す。

 

後半

(1)探していた場所を見つける仙台

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 後半開始から仙台は、照山→真瀬。そのまま右サイドバックに起用された。

 前半は、大分の攻撃に対して守勢に回ることが多かった。また、起点を作ることができず、前進することができなかったので攻撃へ出て行く回数も少なかった。

 

 仙台のハーフタイムでの修正は、まずは呼吸できる場所を見つけることだった。

 大分の守備は5-2-3で、仙台のビルドアップ隊に前線3枚がプレッシングを掛ける形だった。

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 なので仙台は、後半になると前線3枚の背後をポイントにするようになる。

 ビルドアップ時は、あえて3枚を前に来させることで背後を空けて、クバからサイドバックへフィードを送り、前進するようになる。

 また、サイドハーフボランチ脇にポジショニングするようになり、奪ったボールをサイドハーフに預けて前を向いて仕掛けられるようになった。特に氣田は、ボランチ脇にポジショニングしたことで前を向く回数が増え、チャンスメイクができるようになる。

 右サイドは真瀬になったことで、ボランチ脇にポジショニングする関口、外レーンから縦に仕掛ける真瀬と役割が整理され、後半早々からチャンスを作り出せるようになった。

 よって、攻撃へと転じることができなかった前半だったが、後半に入ると前を向けるスペースを見つけたことで、攻勢を強めることができた。

 

(2)すべてがハマった勝ち越しゴール

 前半同様に大分のサイド攻撃は受けながらも、ボランチ脇から前進することでチャンスを作り出せるようになった後半の仙台。

 64分に氣田に代えて好調の加藤を投入。そして、75分に加藤が勝ち越し点を決める。

 実はこのゴールもボランチ脇からが起点となっている。加藤から関口。関口が右の真瀬へ展開し、サイドの奥を取る。そこから一旦作り直して吉野→真瀬→富田で突破。そして富田のクロスに加藤が合わせた。

 このシーンでは、クロスが上がるとき赤﨑がニアへランニングしたことで加藤のスペースを作ることができた。ここ最近、1トップがゆえにニアへのランニングが少なく、ニアで弾き返されることが多かった。このシーンでは2トップだからこそニアへのランニングが生まれ、そしてその奥の加藤が仕留めることができた。

 後半からの修正と選手交代を含めて、まさに狙い通りのゴールを奪えた。

 

(3)ラスト15分。6ポインターゆえの死闘。

 得点後のラスト15分間。お互いに順位が近い同志、6ポインターであるがゆえに、まさに死闘と言える内容だった。

 仙台は、赤﨑に代えて新加入のカルドーゾを投入。大分は、小出、井上、高澤を投入し、前線の枚数を増やす。

 

 仙台としてはカルドーゾを投入して、前線でポイントを作り、なるべく敵陣でゲームを進めたい狙い。

 一方の大分はアバウトなボールでも長沢や高澤を目掛けて、ロングボールを送り、事故でもなんでいいからチャンスを作り出そうとした。

 

 大分が、パワープレーのような形で放り込みが多くなったところで、仙台は松下とアピアタウィアを投入し、5バックで守りを固める。

 ロングボールが多くなる展開で、仙台は集中した守備を見せる。アディショナルタイムの長沢のヘディングシュートはクバが左手で掻き出し、ゴールを割らせない。

 終盤には平岡と高澤がゴール前で競り合い。お互いに頭部を出血する。

 最後までお互いの意地と意地がぶつかり合ったゲームだったが、仙台は最後の最後まで集中力を切らさなかった。そして平岡のクリアと同時に終了のホイッスル。

 仙台が大分に競り勝ち、今シーズン2勝目を挙げた。

 

最後に・・・

 競り合い時に鼻を負傷し、曲がりながらも最後までプレーした長沢。競り合いで頭部を負傷しながらもラストプレーまで集中を切らさなかった平岡。負けられない戦いだったことは彼らのプレーが表していた。そして勝つことができた。非常に大きい勝利だ。

 

 ゲーム内容自体は、前半は苦しみながらもハーフタイムに修正し、後半に入って選手交代をしながら、しっかり攻勢を強めることができた。

 苦しい前半を過ごすこととなったが、ある意味では後半に攻勢を強められる「余白」を残せた展開だったのかなとも思う。

 90分で勝てばいいというのが手倉森監督の信念だとしたら、この勝利はとても手倉森監督らしい勝利だったなと感じている。

 

 新加入のフェリペ・カルドーゾはリードした展開ながらも、大きな体格を活かしてボールを収めてくれる。彼の存在でタスク過多だった西村も少し軽減できるかもしれない。今後も期待したいところ。

 

 連戦も残すところあと2つ。次節はアウェイで名古屋グランパスとの対戦。堅い守備と個人能力の高いアタッカー陣を揃えるチームだ。まずはしっかりとアタッカー陣に仕事をさせずに、隙を突いていきたいところだ。次節も集中力の高いゲームを期待したい!!