ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

渡邉監督と篠田監督の駆け引き~明治安田生命J1第13節 清水エスパルスvsベガルタ仙台~

 さて、今回は清水エスパルス戦を振り返ります。静岡連戦の二発目。

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 ベガルタ仙台のスタメンは、前節から2人の変更。磐田戦で負傷交代したジョンヤから大岩、そして2トップの一角には長沢が名を連ねた。

 一方の清水エスパルスは、右サイドバックエウシーニョを起用。それ以外は変更点なし。

 下位に沈む両者、直接対決を制し、この状況を打破したい一戦だ。

 

前半

(1)自らのボール保持を安定させることを目指した仙台

 前半は仙台がエンドを変えてキックオフする。

 試合は早々に動く。開始2分の仙台の左コーナーキック。サインプレーで、永戸はグラウンダーのボールを入れると松下が決めて先制する。準備していたであろう形で先制点を奪った。

 しかしその3分後に、清水のサイドチェンジから金子のクロスにドウグラスが合わせて、すぐさま同点に追いつく。このゴールに関しては、清水の狙い通りの形となった。その狙いについては後程見ていくこととしたい。

 そして17分にはコーナーキックの混戦から大岩が相手を引っ張ったとしてPKの判定。これを北川が決めて清水が逆転する。

 

 そんなゲームが動きやすい展開のなかで、徐々に仙台がボール保持、それに対して清水が前プレを掛けていく構図へと落ち着く。

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 開始間もない仙台のビルドアップは、ダンとセンターバック、椎橋の4人でスクエアを形成する形にし、松下がフリーマンのような役割で自由な位置取りでボールを引き出していた。

 しかし清水もドウグラスと北川、それにサイドに流れたときにはサイドハーフも加勢しながら、仙台もビルドアップを妨害していった。よって仙台としては安定したボール保持とはならなかった。

 

 ということで15分を過ぎたあたりから仙台が動き出す。

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 椎橋がセンターバックの列まで降りて、その代わりに松下が椎橋が担っていた役割になり、ダンを逃げ場とする形を取った。椎橋の位置が右に落ちたり、また松下が落ちたりと動き方は様々だったが、形としては上図のような形を取るようになった。

 それに対して、清水はドウグラスと北川が縦関係になる。北川としてはアンカーを浮かせたくないという心情だったと思う。

 その代わり、大岩や常田にボールが入ったら、サイドハーフが縦スライドで対応するというのが狙いだったと思われる。

 

 しかし仙台も、サイドハーフ(海夏と崇兆)が相手ボランチサイドハーフの間に、またサイドバック(蜂須賀と永戸)も大岩と常田をフォローするポジションを確保していたことで、清水のサイドハーフが容易に大岩と常田へアタックできるシーンを作らせなかった。

 このことで仙台はボール保持を安定させ、26分や30分、32分のように地上戦でボールを前進させながら、清水陣内へと入り込めるシーンを増やすことができた。

 また、清水は仙台と同様に人への意識が強い守備なので、相手の前プレを抑えることで、ボール保持を安定させることができたし、前線でも長沢とハモンが縦関係になり、相手センターバックにギャップを作ることで前進できていた(26分のプレーとか)。

 もちろん、ビルドアップ時にイージーなミスで相手に決定機を多く作られてしまったのは反省しなければならない。しかし前半の途中で自分たちなりに修正し、悪い状況を打破しようと試みたところは悪くなかったと思うし、そのチャレンジはしていくべきだと個人的には思う。

 

(2)相手の守備基準点を狂わせるサイドバックの振る舞い

 次に清水の攻撃について見ていきたい。

 清水は前半のうちに3点奪っているのだが、そのうち2点(1点目と3点目)は同じような形で、かつ再現性のある形での得点だった。

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 清水の攻撃で特徴的だったのは、サイドバックだった。サイドバックはボールを受けると外に加えて、中にドリブルするという選択肢を持っている。

 中へドリブルすることで、仙台のサイドハーフボランチにマークの受け渡しを行わせるかを選択させる。

 またこのドリブルに対して、前線の選手も状況によるが、臨機応変に中から外へランニングし、中央のスペースを空けたり、反対に自らが落ちることでサイドバックを引き出したりする。加えて、六平は3列目からハーフスペースをランニングすることで椎橋や松下を引っ張り出していた。

 このようにレーンチェンジをしたり、縦へランニングすることで、人への意識が強い仙台の守備を攪乱させていった。その結果が1点目や3点目に繋がっている。

 

 仙台としては、このような清水の攻撃によって守備の脆さを暴かれた形となった。

 3点目は、松原と中村に対して蜂須賀と海夏の受け渡しが曖昧になり、中央ではボランチの寄せが甘く、永戸は落ちた金子に対して付いていき自身の背後を取られる。といったように各ポジションで守備の拙さを露呈してしまった。

 攻撃では狙いを持てているものの、ひとたびボールを持たれるとその脆さが現れる。そんな今シーズンを象徴する内容が前半だったように思える。

 ということで前半は2-3。打ち合いの様相を呈し後半へと向かう。

 

後半

(1)相手の背中を取る仙台

 前半終了間際にリードを許した仙台は、得点を取りに行くことがテーマとなる。

 そんな仙台の後半の攻撃は、前半と打って変わって縦に早いものとなった。そんな縦に早くなった理由や狙いをまずは見ていきたい。

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 前半はボール保持を安定させ、相手を押し込むことでゴールを目指したが、後半は、「相手の背中」を取るパスが増えるようになる。

 前半でも書いたが清水も人への意識が強い。仙台としては、それを逆利用して攻撃を仕掛けていった。

 上図は53分のプレーだが、仙台はボールを持ったときにダブルボランチが落ちなくなる。このことで相手のダブルボランチがマークの基準点がハッキリするわけだが、そのことで清水のボランチが前へ出てくるようになる。

 仙台はその背中を2トップが利用する。よって永戸や大岩などが相手ボランチセンターバックの間にロングフィードを送り、それを2トップがポストプレーすることで前進することが多くなった。

 また仙台は収めた先として、サイドバックの裏のスペースを狙っていた。特に後半開始からはエウシーニョサイドを狙い撃ちすることで、相手の深い陣地まで潜り込み、クロスを上げるシーンが増える。ここもハーフタイムで整理した部分だと思われる。

 そして徐々にゴールへと近づき始めた58分。左から右の展開、そして蜂須賀のクロスに長沢が合わせて同点に追いつく。自分たちのペースのなかで決められたことは非常にポジティブだった。

 

(2)システム変更し、ペースを自分たちのものにする清水

 同点に追いつかれた清水は、62分にシステムを4-1-4-1へ変更する。

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 清水は上図の布陣へと変更する。スムーズに変更していたところを見ると、準備していたものかもしれない。

 

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 このシステムに変更した狙いは主に3つだった。

 1つ目は仙台の前プレに対して、センターバック+アンカーにすることで、3vs2を形成し、前プレを牽制させる。

 2つ目は、左サイドで局地的な数的優位を作り出し、仙台を押し込むこと。

 3つ目は、右サイドハーフに入った北川は中ではなくサイドで待ち、永戸との質的優位を作り出す。

 2つ目と3つ目はセット。左で作って右で仕留める狙いを持っていた。

 

 このシステム変更で再びペースは清水になる。セカンドボールの回収率も清水の方が高くなり、仙台をゴール前に貼り付けにすることができた。

 清水が中からサイドからと仙台を揺さぶり、それに対して必死に耐える仙台という時間が続いた。

 

(3)再び地上戦へと回帰する仙台

 清水がシステムを変更したことで、再び耐える時間が長くなった仙台。道渕、シマオ、ジャーメインを投入し、なんとか攻撃の糸口を見出そうとした。

 そして78分のコーナーキックの辺りから、相手のシステム変更を理解し、攻撃の糸口を見出せるようになる。

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 仙台は4-1-4-1のシステムの構造を突く形で、サイドハーフがアンカー脇でポジショニング。後半開始から行っていたロングフィードから再び地上戦に戻し、ボールをアンカー脇にいるサイドハーフへと届けることで、攻撃のスイッチを入れた。

 これで耐える時間を越えて、仙台も清水ゴールへと向かうシーンを作ることができた。

 

(4)斬るか、斬られるか。待っていた最悪の結末。

 仙台が攻めの糸口を見出したことで、お互いが攻め合う展開に。

 仙台も終盤に決定機がなかった訳ではない。あと一歩のシーンもあった。

 しかし最後に決めたのは清水だった。

 左サイドからのクロスをクリアするも、右サイドで北川が回収。丁寧に挙げたアーリークロスドウグラスが合わせて清水が勝ち越しに成功。システム変更をした狙いが見事に出たゴールとなった。

 斬るか、斬られるかのなかで最後に斬ったのは、清水だった。

 

 仙台は、最後の最後にハモンの退場というおまけもついて、ゲームオーバー。

 最後に待っていた最悪の結末。仙台は静岡連戦で連敗を喫してしまった。

 

最後に・・・

 この試合の内容だけを振り返れば、両監督の駆け引きが非常に面白い試合だった。

 ただ、その中で勝敗を分けたのは、守備の拙さ、脆さだった。お互いに褒められた守備ではないが、よりまずい守備をしていたのは仙台だったということだ。

 やはり4バックで守るのと5バックで守るのとでは違うもので、今は4バックなんだけど、まだ5バックの守備のイメージでやっているところがあって、その象徴が3失点目なのかなと思う。

 クロスを上げさせるシーンも多いし、守備についてはやることが多い。そしてこの問題を解決できなければ、なかなか勝点を拾っていくことは難しいだろう。

 

 前節のレビューで、仙台はボールを保持すること、相手を押し込むことが目指すスタイルと書いたが、サッカーは相手がいる以上、そうではない局面も多々ある。その自分たちが苦手としている局面をいかに克服できるかがポイントかなと。

 この試合でも3ゴール奪えたことや、狙いを持って攻撃できているところはあるので、やはり攻撃ではなく守備の局面を修正しないとなと思う。

 

 次節はホームでの名古屋グランパス戦。自分たちのホームで息を吹き返してほしい!!