ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

充実の勝利~明治安田生命J1第16節 ベガルタ仙台vsFC東京~

 先週はお休みをいただきました。今週からまた淡々と書いていきたいと思います。

 ということで、今回はFC東京戦を振り返ります。

 

スタメン

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 ベガルタ仙台は、前節・松本戦で今シーズン初の連勝と初のアウェイ勝利を挙げた。ルヴァンカップ天皇杯もミッドウィークに組み込まれ、連戦が続いている。

 ミッドウィークのルヴァンカップを考慮し、メンバーも前節から変更してきた。ボランチにはトゥーロン帰りの椎橋、右サイドハーフには海夏が起用された。

 FC東京も仙台同様に連戦が続く。加えて久保の移籍もあり、1つの山場を迎えている。前節は神戸に敗れ、2位との勝ち点差があるとは言え、連敗は許されない試合だ。  

 前節からナ・サンホと永井が変わって起用されている。それ以外は変更点なし。

 

前半

(1)この試合における仙台のテーマを考える。

 この試合の仙台の振る舞いは、今までとは違ったものであった。

 今節はお互いに4-4-2をベースとするチームであり、ミラーゲームとなるので各ポジションでマッチアップする選手がハッキリする構図となる。

 現代サッカーの流れやここまでの仙台を振り返ると、このようなミラーゲームになる場合は、選手が列やレーンを移動し、可変することで相手とのズレを作り、ボール保持をより安定させることが日常となっている。

 

 しかし、この試合の仙台を見ていると、ボールを持っても可変をすることは少なかった。7分に椎橋がセンターバックを助けに行ったシーン以外は、選手が動くことはなかった。

 相手の前プレが来るものなら、センターバックもダンもロングボールですぐに回避していた。

 このような振る舞いから、おそらく仙台はこの試合でボールを保持することをメインテーマとしていなかったはずだ。

 では、どのようなテーマを持っていたのかを考えていくこととしたい。

 

 対戦相手であるFC東京のストロングは、高い位置からのプレッシングと質の高い個々人によるカウンターである。4局面で言うところのポジティブトランジション(守備から攻撃への切り替え)が得意なチームだ。また林、森重、チャン・ヒョンスを中心とした堅い守備(ボール非保持)も特徴の1つである。

 仙台としては、東京の強力なカウンターを食らいたくはない。となると、このカウンターを発動させないためには、素早い切り替えとプレッシングが必要となるわけだ。

 また、ボール保持を安定させるためにシステムを可変するデメリットは、自分たちがボールを奪われた際、もとのシステム(仙台の場合は4-4-2)に戻すために移動をしなければならないことだ。要は時間が必要ということだ。

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 この2つを合わせて考えると、仙台はわざわざボール保持を安定させるために可変するよりかは、まずは相手のカウンターを予防できるように、あえてシステムを可変させず、攻守が切り替わったときに、素早くボールホルダーへプレスを仕掛けられるように準備したのではないだろうか。

 3ライン(DF-MF-FW)をコンパクトに保ち、奪われてもすぐに切り替え、複数人でプレスを掛けられる立ち位置を取ることで、相手のカウンターを阻止または遅らせることを、この試合における仙台のテーマだったように思える。

 中盤での激しい球際バトルがあったのもこれが理由であり、そこでしっかり戦えたことで東京に主導権を明け渡さなかった。

 また、この狙いに貢献したのがボランチの2枚だった。松下も椎橋も中央にしっかりいることで、相手のカウンターを阻止することができた。シマオとオリヴェリラの闘いに目が行きがちだが、この2人がプランを遂行するための影のキーマンだった。

 

(2)迷えるFC東京のボール保持

 仙台がボール保持する意思を見せないこともあり、時間の経過とともにFC東京がボールを保持する展開へと移り変わっていく。

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 FC東京は、橋本がセンターバック間に落ちる動き(サリー)で、仙台の2トップに対して数的優位を作ることで、ボール保持の安定を図った。

 相棒の髙萩は、アンカーのような立ち位置、サイドバックが高い位置を取ることで、サイドハーフはハーフスペースでポジショニングすることが多かった。4-4-2のチームでは一般的な可変だ。

 

 それに対して仙台は、2トップに加えてボランチが加勢したり、海夏が加勢したりで、前から行く姿勢を見せた時間帯もあったが、時間の経過とともに撤退して構える姿勢を見せるようになる。

 撤退したときは4バックはなるべくペナ幅で守備をし、両サイドハーフが相手のサイドバックへ対応することを基本に守備を行っていた。特に左サイドでは関口が室屋と対峙するようになっていた。

 

 そんな仙台の守備に対して、なかなか攻撃の糸口を見出せない東京は、高萩や東がポジションを無視してさまざまな場所で顔を出すようになる。さまざまな場所で移動することで仙台の守備基準点を狂わせる狙いもあったと思われるが、仙台としてはそれが特段嫌だったかといえばそんなことはなかった。

 このような自由に動く選手を見ていると、おそらく東京のボール保持は組織として狙いを持っているわけではない。長谷川監督は中の選手に任せているというか、そのような組織として準備をしているようには感じなかった。

 よって、仙台もボールを持たれても怖くなかったし、おそらく「持たしている」という感覚の方が強かったのではないだろうか。

 そういう意味では、相手の苦手とする局面を作り出し、時間を経過させたという見方もできるかもしれない。

 

 という感じで、負け筋を消しながら戦っていた仙台だった。前半はスコアレスで折り返す。

 

後半

(1)カウンターの入口とノッキング

 前半の仙台は、可変をしないことで素早い切り替えを実現させ、そのことで東京の得意とするカウンターを阻止した。またボールを保持させることで、東京の攻撃を鈍化させ時間を経過させることに成功した。このように前半の仙台は負け筋を潰す戦いをしたと思う。

 ということで仙台の次なるテーマは、いかにして勝ち筋を見出すかということとなる。

 

 後半の仙台は、前半の戦い方を継続させながら1つのポイントを修正した。

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 前半は奪ったボールをすぐにクリアしたり、ロングボールで回避することが多かったが、後半は、東京のボール保持時の立ち位置を見極め、東京のサイドハーフの背中をポイントして奪ったボールを繋げることが多くなった。よって仙台のサイドハーフがボールを受けてカウンターを発動させるシーンが増えていく。

 カウンターの入口を見出すことで、仙台も前を向くシーンが増えたが、パスが引っ掛かったり、ミスパスになったりで、ノッキングを起こすようになる。

 そうするとFC東京も得意のカウンターを発動できるようになり、後半早々から斬り合いの展開となっていった。お互いのセンターバックを中心に最後のところを守り切ったことで得点が動くことはなかったが、仙台としてはこの試合で先手を取られた可能性が一番高かった時間帯だった。

 

(2)クロスは大外

 後半序盤の斬り合いが終わると徐々に、また前半のような睨み合いのような展開へと変わっていった。

 東京は前半同様にフリーダムな中盤と高い位置を取ったサイドバックの攻撃参加で攻める。右サイドでは、関口が室屋に引っ張られることでできた後ろのスペースにチャン・ヒョンスが登場するようになった。

 

 一方の仙台は、ボールを奪うと素早くサイドに散らして、そこから前進するケースが増え、そこから同サイドでの崩しやクロスからの得点を生み出そうとしていた。

 前半と変わっていたのはクロスだった。前半はクロスが中央の森重とチャン・ヒョンスに跳ね返されることが多かったが、後半は永戸、蜂須賀ともに大外(ファー)へのクロスを意識するようになる。

 大外へのクロスを送ることで、東京の守備を揺さぶる狙いだった。そこで合わなくても逆サイドで再度ボールを回収し、二次攻撃を狙う。狙うは松本戦の得点シーンのような形だった。

 そんな中での先制点もやはりクロスからだった。シマオのクロスが長沢を目掛けたものだったが、それが結果的にファーの関口へ流れ、得意のステップから僅かな隙を突くゴールを決めた。

 この得点までの一連の流れはやはり大外へのクロスを立て続けに送り、セカンドボールを回収したことで、東京を押し込むことに成功できたものだった。そういった意味では狙い通りの得点と言えると思う。

 

(3)パワープレーを仕掛ける東京とトドメのハモン

 先制点を奪われた東京は、ナ・サンホに代えて矢島。

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 これで、前線を3トップ気味にし、パワープレーのような形で得点を狙いに行く陣容になった。

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 東京の攻撃で再現性のあったのは上図のような形だった。この試合何度も行われていた関口と室屋のバトルを利用し、空いた右サイドに東が登場し、アーリークロスを中に送る形だった。

 ただ、仙台にとってこの攻撃が嫌だったかというと、元々空中戦を苦手としないセンターバックに加えて蜂須賀も身長があるので、そこまで嫌な攻撃ではなかったと思う。

 それ故に最後の交代も、松本戦のように大岩を投入し5バックにするのではなく、崇兆とハモンを投入し、バランスを崩した東京の裏を突くカードを切った。

 

 そして87分に、小川からボールを奪った蜂須賀が、そのままカウンターを発動。並走していたハモンへパスを送ると、強烈なハモンのシュートが突き刺さり、仙台が勝利をグッと手繰り寄せる追加点を奪った。

 そしてアディショナルタイム5分をやり切った仙台が2-0で勝利。リーグ戦3連勝、ホーム5連勝を飾った。

 

最後に・・・

 負け筋を潰した前半、そして勝ち筋を見出した後半という内容だった。内容と結果ともに充実した完勝と言えるゲームだった。

 この試合は、球際のバトルで逃げないことが前提条件に準備されていたゲームで、リーグ首位であり、屈指の球際バトルを繰り広げる相手に対して、最後まで逃げずに戦ったことが、この試合に勝利した最大の理由だろう。最後までインテンシティの落ちない試合だった。

 

 これで3連勝となった。名古屋にはジョー、松本には前田大然、東京には久保建英と相手の核となる選手が不在だった巡り合わせがあったとはいえ、そこでしっかり勝点3を連取できたことは大きい。

 ただ、次節の札幌も調子が上向いており、真価が問われるゲームとなりそうだ。前半戦最後となる試合。ここまでの成長ぶりを札幌にぶつけ、4連勝を目指したい!!