さて、今回はFC東京戦を取り上げます。
ベガルタ仙台はここ5試合で、4勝1敗と好調を維持している。前節は清水相手に石原のアディショナルタイム弾で劇的な勝利を挙げた。3位・FC東京を叩くことで、さらにこの勢いを加速させたいところだ。
今節はアジア大会で離脱していた板倉がスタメンに復帰した。またベンチには帰ってきたハモン・ロペスが入った。
一方のFC東京はここ5試合勝利なし。前半戦の貯金を少しずつ削っている状況である。上位に留まるためにもこれ以上負けられない。スタメンは前節と変わらず、現状のベストメンバーと言っていいだろう。
前半
(1)FC東京の前線からのプレッシング
前半は、東京の前から襲い掛かる猛烈なプレッシングで、自らが主導権を獲得した展開となった。まずはこの辺りから見ていきたい。
東京の前プレのメカニズムを見ていくと、まずは2トップが縦関係になる。ディエゴ・オリヴェイラが頂点に、永井がその下になる。オリヴェイラは大岩へ、永井はダブルボランチを監視する役目となっていた。
そして平岡と板倉に対しては、サイドハーフが前に出て対応していた。サイドハーフは平岡と板倉にボールが入るとプレッシングを開始していった。
そして仙台のビルドアップを窒息状態にさせ、ロングボールを蹴らざるを得ない状況を作り出す。そして蹴った先でチャン・ヒョンスと森重というリーグ屈指のセンターバックがボールを回収し、ボール保持攻撃へと移り変わっていく。というのが東京の前プレのメカニズムになっている。
前半の印象として、東京の前プレが終始厳しかったように受けるが、試合開始はそこまで強度の高いプレスを行っていなかった。実際にプレスの強度が高まったのは20分過ぎからだった。
この理由は推測ではあるが、仙台が東京の前プレを剥がして東京陣内に持ち込めることが何回かあり、それを見てプレッシングのギアを上げたのでは、と考えている。
もしかするともともと強度を上げるつもりで、そのタイミングを窺っていたのかもしれない。この辺は長谷川監督に聞かないとわからない部分だ。
どちらにせよ、強度の高いプレッシングは仙台のビルドアップを阻害していった。それに加えてボールを奪われた後(ネガティブトランジション)の切り替えも早い。球際は厳しく。ファウルで止めてもいい。とにかく前進させるな。みたいな姿勢を東京は見せていった。
あとはゴールだけだった。ショートカウンターや数多く獲得できたコーナーキックで先手を奪えれば、プラン通りにゲームが運べたはずだった。
(2)意図を持った仙台の守備ブロック
前半はシュート0本で終わった仙台。しかし、そんな苦しい中でもしっかりとした守備ブロックを築くことで、東京の攻撃に我慢強く対応していった。
次は、この試合で仙台はどのような守備の狙いを持っていたのかを見ていきたい。
結論から言うと、この試合の仙台は5-4-1のブロックではなく、5-2-3のブロックで対応していた。
5-4-1の場合は、主に「スペース」に対する守備が主題となっていく。5-4-1でブロックを敷くと、5-4と多くの人数でブロックを敷くことが可能になり、ピッチの横幅を最大5人でケアすることができるので、相手にスペースを与えさせない守備ができる。
しかし後方に人数を掛けているために、特にワントップの脇にスペースが生まれ、そこから前進されることが増えてしまう。そこが5-4-1で守備をするデメリットとなる。
今節行った5-2-3の守備では、主に「人」に対する守備が主題となってくる。5-2-3では、相手のビルドアップ隊に対して前線の3人でけん制する形となる。
前線3人でビルドアップ隊へけん制するのでコースが限定されるので、後方の選手(ウイングバックや3バックなど)はコースが限定されているなかで、自信を持ってマーカーへとプレッシングを掛けることができる。
それに加えてシャドーが、ハーフスペースに立つことで、相手のハーフスペースに立つ選手へのパスコースも消すことが可能となる。東京のボール保持時のシステムは4-2-2-2で、サイドハーフ(大森と東)がハーフスペースへと入ってくるので、そこへのパスコースを消すことができていた。
この試合では、前線3枚が規制することで東京のボール循環をサイドに誘導させ、ウイングバックが縦スライドを行うことで、そこでボールを刈り取ることを狙っていた。
またボランチにボールが入った際は、奥埜、富田が前に出て対応するシーンも見られた。よって3+1でプレスを前から規制するシーンもあった。
ただ、先ほども書いたように前線からの連動した守備が生命線になってくるので、どこかでプレスが掛かり切らない(前は行っているのに後ろが付いてこない)と、プレスを掻い潜られ、押し込まれる状況を作られる。
このような展開となったら、仙台は5-4-1となり、自陣に撤退しスペースを相手に与えずに守る方向にシフトチェンジしていった。
前半は、東京が前からの激しい守備で主導権を握る展開となったが、仙台が我慢強く守り、スコアレスで折り返した。
後半
(1)ビルドアップの出口を見つけ出せ!
前半をまとめると、東京が猛烈な前プレで強襲を掛ける。それにタジタジの仙台。だけど、ボール非保持のときはしっかり守れてる。ということは、奪ったボールをどうやって前線へと運びましょうか、が後半のテーマとなった仙台だった。
ということで仙台がビルドアップの出口としたのは、相手のサイドハーフの背後だった。サイドハーフが縦スライドでビルドアップ隊にプレスを掛けるのならば、その背後は少なからず空くよねと。また、これだけ運動量が多ければサイドハーフの2人は疲れてるはずという計算だった。よって仙台はサイドハーフの背後を起点に、東京のプレスを剥がしていこうというのが狙いだった。
またカウンターのときも阿部、野津田の両シャドー、時々石原が、サイドに登場してボールを受けることで、カウンターの起点&発動へとつながっている。
49分の先制点は、東京のプレスを初めて剥がせたシーンだった。このシーンでも阿部がサイドに登場している。そしてその阿部のクロスが東のオウンゴールを誘い、仙台が先手を取ることに成功した。
(2)変化が起きないFC東京
後半の東京の立ち振る舞いは、おおよそ前半とは変わらないものだった。後半の早い時間帯に失点したことで、サイドからの攻撃で圧力を増したが、ビルドアップや崩しの部分でなにか修正したかと言えば、そういったものはあまり見られなかった。
よって仙台も、5-2-3のブロックを築くこと、自陣に引いたら5-4-1にシフトチェンジするという守備の方向性は変わらなかった。
東京がここ最近勝てていないのは、おそらくこの辺が原因なのだろうなと。ボールを持つ時間があっても崩しのアイデアやバリエーションが少ないので、どうしてもオリヴェイラや髙萩といった個の選手頼りになってしまう。また武器となるべき太田宏介のクロス精度もイマイチと、守備は機能しても攻撃が機能していない。ここと向き合わないと東京は、なかなか調子を取り戻せないかなとこの試合では感じた。
(3)渡邉監督の決断
後半は49分に先制した仙台が、攻撃の糸口を見出し、東京の攻撃を丁寧に対応しながら、攻撃を繰り出していく展開となっていく。
しかしチャンスを迎えても、追加点をなかなか取れない仙台だった。そんな中で渡邉監督の心境はどのようなものだったのか。試合後の記者会見ではこう発言している。
スコアを動かして、願わくば追加点を取ってもう少し早い段階で守りきるぞというメッセージを込めた後半にしたかったのですが、なかなかそこに踏み切るまでには、追加点を取ってくれるんじゃないかという期待と、このままやられないんじゃないかという思いの、両方がありました。
それを考えた時に、残り10分で、もうこのまま守り切るよというメッセージを込めたカードをどんどんつぎ込むよという話を、ベンチのコーチ陣にはしていたので、残り10分のところで順番にカードを切っていったというところが、今日のゲームの展開と交代の理由です。
ということで、ラスト10分になると守り切る交代を順々に切っていく。まずは阿部に代えて椎橋。富田と椎橋のボランチ、野津田と奥埜をシャドーにすることで守備強度を安定させる。これに加えて椎橋はボールも捌けるので、ボールを持つ時間も作ることができた。
そして次に疲労が見えた関口に代えて永戸で、左サイドに蓋を。そして最後に帰ってきたハモン・ロペスを入れて前線の守備強度も保った。
ハモンに関してはまだまだ体が重そうだったが、アディショナルタイムに放ったシュートはパンチ力があり、これぞハモンというプレーを見せてくれた。コンディションが戻れば、すぐにチームにフィットできそうだ。
そしてしぶとく守り切った仙台が勝利。これで勝ち点を41に伸ばし、順位も4位に浮上した。
最後に・・・
上位である東京に勝利したことで、4位まで浮上した。我慢強い試合となったが、しぶとくゲームを運び勝利を収められたことは、素直に嬉しいことだ。
ここまではいい立ち位置を取ってボールを保持することで試合を支配し、勝利を目指していたが、ここにきて、それだけではなく時間やスコア、ゲームの状況に合わせて振る舞いを変えられるようになってきている。
それは去年から取り組んできたことがベースにあって、その上でそういう選択ができるようになってきた。チームとして完成されてきている証拠だ。
この勝利で東京との勝ち点も1差に、そしてACL圏内も見えてきた。次節はアウェイでの長崎戦。ここで満足することなく、もっともっと高みを目指してほしい!