さて、今回は柏レイソル戦を振り返ります。
ベガルタ仙台は、前節・磐田戦で終了間際の失点で敗れ、連敗を喫した。内容は向上しているので、いかに結果へと繋げるかがカギとなる。今節はシステムを3-1-4-2に変更した。左のウイングバックに関口、2トップは石原と阿部のコンビとなった。
なお、この試合後に板倉がアジア大会に出場するために、チームから一時離脱する。
柏レイソルは、前節・札幌戦で中断明け初めての勝利を飾った。この勢いを持続させ、下位からの脱出を図りたいところである。
今節は出場停止の鎌田に代わり、この夏に加わったナタン・ヒベイロが起用された。それ以外は変更点はなし。
前半
(1)前プレ強襲
試合開始と同時に起こった現象は、柏の前プレ強襲だった。仙台のビルドアップ隊に対して前線から激しいプレッシングで、ボールと主導権を奪いに行く。
柏の前プレは、瀬川と江坂、クリスティアーノの3枚によるプレッシングがスタートだった。クリスティアーノが前へスライドした意図は読めなかったが。
前3枚がコースを限定したところで、ボールハンティングが得意な小泉と相棒の手塚がボールを奪い、ショートカウンターを狙っていく。
もしくは、仙台にロングボールを蹴らせ、そのセカンドボールを回収することで仙台を押し込んでいった。
(2)きっかけは16分。ダンと奥埜と時々アベタク。
相手の前プレで危ない場面を迎えてしまった仙台だった。この10分間で失点をしていたら、ゲームの流れは間違いなく変わっていたはずだ。
そんな仙台も徐々に柏の前プレに慣れていき、剥がせるようになる。
きっかけのプレーは16分だった。自陣左サイドでのスローインからで始まったビルドアップである。
柏の前プレに対してダンを使いながらビルドアップする。フリーで受けられるダンは富田へ出す。富田の周辺では中野と奥埜に加えて、阿部も降りてくる。そしてこの4人の関係で中央のプレスを剥がし、右サイドへと展開した。
阿部が降りてくるのは、柏のダブルボランチが、前プレの際に背後のスペースを開けるからである。背後に阿部が登場し、中央のエリアで数的優位を形成、またビルドアップの出口となった。24分には、ダンから阿部への直接の縦パスが通っている。
このプレーを過ぎたあたりから柏の前プレが慎重になっていく。「キーパーには誰が行くの?」とか、「俺が行ったら背後にフォワード降りてくるんだけど!?」みたいな悩みが各地で起こったことで、柏のプレスも緩やかになっていた。
改めて仙台のボール保持の形を整理すると、ダンと3バックからボールを引き出す奥埜の2人が加わって、6枚のビルドアップ隊を形成する。また中野はハーフスペースへ、阿部は主にボランチの背後を狙いながら、ビルドアップ隊からボールを引き出す役割を担った。
3-4-3っぽい可変をするが、厳密には3-4-3ではないみたいな。名古屋戦の後半から奥埜が少し下がり目でボールを受け出したが、それがうまくチームに組み込まれ始めている。
柏は、前プレ強襲がハマらなくなると少しずつ迷いが生じ始める。たぶん、引くという選択肢を持っていなかったのだと思う。瀬川やクリスティアーノが単独で前プレを始めるけど、あっけなく剥がされるみたいなこともあった。
最初のプランが上手くいかなくなったときにどうするの?みたいなところの準備が甘かった柏だった。
(3)守備の使い分けができるようになった仙台
この試合では、仙台の守備が後ろで構えるときと前から限定していくときの使い分けがうまくできていた。
後ろで構えるときは、5-3-2になり、構造上空いてしまう相手サイドバックに対しては3センターのスライドで対応する。これは以前からやっていた形。
前から限定していくときは、相手陣内で相手サイドバックがボールを持ったときに、ウイングバックが前へスライドし、代わりにサイドハーフに対しては左右バックがスライドして対応する。
これも以前から右サイドの平岡と蜂須賀の関係でできていた。しかし、この試合では左サイドでも同様のことができるようになり、そのことで守備の使い分けがうまくできるようになった。
特に柏は小池と伊東の右サイドがストロングであり、細心の注意を払わなければならない。試合を通して板倉、関口は粘り強く、また行くときは前からプレスを掛けながらしっかり対応できていた。これは後半に永戸が入った際でも同じだった。
(4)柏の攻撃
監督が変わったことで、柏の攻撃にも変化があった。下平体制のときは立ち位置を意識しながら、組織的に崩す攻撃が特徴で、仙台とも似ている部分があった。
しかし加藤望体制になってからは組織的な崩しというよりは、個人やユニットでの崩しが特徴となっている。前述の小池と伊東や瀬川と江坂、またクリスティアーノの質的優位、手塚のゲームメイク能力など、リソースに頼った攻撃になっている。西野ジャパンに似ているというか。なのでハマったらいいのだが、対応されると厳しいみたいなところがある。そこは勝てない理由になっているのかなと感じるところだ。
前半は、序盤こそ柏がペースを握るも、ボール保持でリズムを取り戻せた仙台が徐々に盛り返した内容だった。0-0で折り返す。
後半
(1)右サイドから殴り始める柏
柏は後半開始から瀬川に代えて中川寛斗を投入する。システムは変更してないが、江坂が頂点でトップ下に中川という配置に変わった。
柏は、後半になると自分たちのストロングサイドである右サイドからの攻撃が中心になっていく。ここで主役となるのが、小池龍太である。
前半は主に右サイドバックの位置で、伊東と縦関係になることが多かった小池だが、後半に入るとハーフスペースの入口に登場する回数が増える。
その狙いは2つだ。まずはハーフスペースから伊東へのパスコースを確保すること。加えて、伊東が1対1で仕掛けられるようにすることである。J屈指のウインガーである伊東の質的優位性を活かそうというものだった。
2つ目は、小池のポジションで仙台のインサイドハーフである中野を引き出し、その空いたアンカー脇に中川や江坂が受けるというパターンである。仙台は3センターで守っているのでアンカー脇は空きやすい。よって小池のポジションでアンカー脇のスペースを作り出し、そこに前線の選手を登場させることでチャンスを作り出そうとしていた。
また小池が外に出たときは、伊東がハーフスペースへとポジショニングする。この当たりは阿吽の呼吸である。
この小池の動きによって、前半よりも仙台を押し込んだ状態で攻撃を繰り出せるようになった柏だった。
守る時間帯が続く仙台は、割り切って自陣に引きながら最後のところをやらせない守備を見せていく。
(2)柏の隙を活かした仙台
先制点は我慢強く守っていた仙台だった。59分。
柏のゴールキックから始まった流れだった。仙台がセカンドボールを回収し、自陣からのビルドアップを試みるも、柏の前プレに合う。
上の写真で分かるように中川と江坂がボールホルダーの蜂須賀へプレスを掛ける。
しかし、ここでまずかったのは、中盤で手塚と小泉の両方が前へ出ているということ。平岡と富田にパスが来ることを想定して前へ出ていった。
しかし、蜂須賀は2人の予想に反して長いボールを蹴る。そしてボランチの背後で待っていた奥埜に渡って、仙台が柏ゴールへと攻め込んでいく。
そして紆余曲折あって、右サイドの阿部のアーリークロスを奥埜が頭で逸らして先制点を決める。
ダブルボランチが食いついたことが、失点に直接の原因となった訳ではなかったが、これが柏の隙だった。前半に阿部がボランチの背後で起点となっていたが、柏はそこが修正されていなかった。
手塚も小泉もフィルター役になれずに、どちらとも前へ行ったり、攻撃時のポジションが悪く、ネガティブトランジションの際にカウンターを許すことが多々あった。
加えると2点目もボランチがポイントだった。小泉が3列目からの飛び出して手塚からボールを受けようとするが失敗。それを奪った蜂須賀が素早く途中出場の西村へ送る。西村が手塚をワンタッチで交わし、さらにパクジョンスも裏街道で抜いてキーパーとの1対1で決めたというシーンだった。ここでも手塚はフィルター役になれずにあっけなく西村に抜かれている。
仙台がここをポイントにした可能性は大いにある。前半から阿部がポイントにできていたし、後半に疲労が溜まってくれば、より空いてくるはずだからである。
(3)クローザー・椎橋の投入
柏の攻勢を粘り強く抑えて、2点取れた仙台は、西村の得点直後に椎橋をインサイドハーフに投入する。
ラスト10分、しっかりゼロで抑えましょうというメッセージをピッチへ伝えた渡邉監督だった。椎橋はインサイドハーフに入り、地味ながらも要所要所で柏の攻撃の芽を摘んでいく。また奪った後も、慌てずにマイボールにすることで、自分たちがボールを保持する時間も作った。
決して目立つプレーではないが、1つ1つ丁寧にプレーすることで、うまく時計の針を進めることができた。
そしてタイムアップ。仙台は4試合ぶりの勝利で、8位に浮上した。
最後に・・・
4試合ぶりの勝利ではあったが、ここまで継続してやってきたことを反省し、修正し、整理し手に入れた勝利だった。
やはり追加点を入れると楽にゲームを進めることができる。2点差以上で勝利したのは、これで2回目(前回は第13節・湘南戦)。やはりもっと増やしていきたいところである。
次節からは板倉がいない。今節でいい活躍をした椎橋や常田、金正也にはぜひとも頑張ってほしいし、彼らが活躍することでさらに選手間の競争を激化させていってほしい。
次は水曜日の試合。湘南との対戦となる。ホームで連勝し、さらに勢いを付けていきたい!