ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

鹿島相手に内容を伴った勝利~J1第15節 鹿島アントラーズvsベガルタ仙台~

 さて、今回は鹿島アントラーズ戦を取り上げます。15連戦最後の試合。

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 ベガルタ仙台は、前節・広島に1-3の敗戦。首位に格の差を見せつけられた試合となった。今節は前節出場できなかった野津田が復活。加えて板倉とケガ明けの阿部がスタメンとなった。

 鹿島アントラーズは、前節はACLの関係で試合なし。ミッドウィークのACLではベスト8進出を決めている。そのACL・上海上港戦から伊東、小笠原、中村が代わってスタメンとなっている。

 

■前半

(1)決定機、生かすか殺すか、それが問題だ

 試合はコイントスで勝った仙台がエンド変えてキックオフする。試合前の渡邉監督の言葉にあったように、前半から飛ばしていく意思を見せる。

 

 その言葉通り、2分でゲームを動かすことに成功する仙台だった。

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 セカンドボールを拾った晋伍が左の関口へ展開する。ここで関口は伊東との1対1を迎える。

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 ハーフスペースへフリーランする野津田。この動きで永木が引っ張り、バイタルエリアを空ける。そこを見逃さなかった関口は中へカットインする。

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 中では植田と昌子の間を走った石原、ファーに奥埜が待っている。関口は石原へピンポイントのクロスを上げる。

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 石原はコースをずらすだけのヘディングシュート。まさに職人芸の動きとシュートで仙台は先制点を奪う。

 この得点はすべての動きが連動した得点だった。野津田のフリーランで空いたスペースを活かした関口は特に見事だった。

 

 素晴らしい得点を挙げた直後、4分に鹿島も決定機を迎える。仙台の中央の守備バランスが崩れたところを永木と金崎の関係から、最後は永木がシュートを放つ。惜しくもシュートは右に外れた。

 前半早々の決定機を生かした仙台と殺した鹿島。もし、ここで鹿島も決めていたら試合の流れは変わっていたかもしれない。そんな、試合のポイントとなった早々の時間帯だった。

 

(2)どこをポイントに攻撃するか?

 15分あたりになるとゲームは次第に落ち着いていった。この辺からお互いがボール保持からの攻撃を目指すようになっていく。

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 仙台のボール保持攻撃のポイントは相手のサイドハーフ裏にあった。

 鹿島の守備は2トップが晋伍のケアをする。ゆえに2トップが縦関係になることもあった。そして両サイドハーフが仙台の左右バックにプレスを掛けていく。

 よってその後ろをポイントにしたい仙台は、左サイドでは野津田が登場し、右では蜂須賀が落ちてくる形を取っていた。

 鹿島は人に対する意識が強いので、野津田が左に流れると小笠原も付いてくる。そして小笠原が空けたスペースを2トップが利用するといった形を仙台は作り出していく。もちろん小笠原が来なければ野津田は前を向ける。

 反対に右では奥埜が裏へ飛び出し、永木を引っ張る。そしてそのスペースを2トップが利用するというような形があった。15分や23分のビルドアップはこの形ができたシーンだった。

 仙台は、鹿島の選手がどう動けばどこにスペースが生まれるのかをしっかり理解していた。なので鹿島のプレッシングが中途半端に見えてしまったのだと思う。

 

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 反対に鹿島はどうか。鹿島は伝統的に4-2-2-2のブラジル式で攻撃をするのだが、肝心のビルドアップの入口を作っていなかった。

 仙台の守備構造上、2トップ脇をポイントにするのが定石だが、そこを誰が利用するのかが決まっていなかった。小笠原が落ちてきたり、伊東が落ちてきたりと色々と人の出入りが多かった。小笠原が落ちてきたのに、センターバックのポジションが変わっていなかったときは切なかった。再現性のなさから恐らく何も決めていなかったのだろう。

 よって鹿島のチャンスはトランジションから生まれることが多かった。気合の金崎夢生大作戦。前半早々の決定機以降、なかなか決定機を生み出せなかった。

 

(3)「球際」の捉え方

 この試合、特に前半では各地で球際の争い、デュエルが数多く見られた。その中でしっかりボールを奪えたのは仙台だった。

 なぜ仙台が勝てたかというと「球際」の捉え方の違いによるものだと思う。渡邉監督は試合後のコメントでチーム戦術があるうえでの球際だと話していた。チーム戦術がしっかりしているからこそ、球際にチャレンジできるということだった。

 このゲームを見ていると局面局面で、仙台の方が人数を掛けていることが分かる。鹿島の選手が1人なら仙台は2人や3人で、鹿島が2人ならそれ以上の数で球際バトルをしている。その差が自分たちのボールへとできた最大の理由だと思う。これこそチーム戦術がしっかり理解されているからこそのプレーではないかと思う。

 一方の鹿島も球際では激しく行っていた。しかしその球際に関わっている人数が少ない。特に金崎が1人で頑張っているシーンが多数みられた。そこにあるのは各々が球際で激しく行くことを意識していたものではないか。

 鹿島が個々での球際の強さを言っているのならば、仙台はグループとしての球際の強さを言っているのだと思う。そんなところを前半は感じる取ることができた。

 

 前半は仙台が電光石火の先制点を奪い、1点リードで折り返す。

 

■後半

(1)3バックにした鹿島の狙いは?

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 鹿島は後半に向けて小笠原と中村に代えて犬飼と鈴木優磨を投入し、3-4-2-1のシステムに変更する。まさか3バック。

 

 鹿島の狙いとしては仙台とシステムを合わせることで、対面の選手をハッキリし、より強く球際で勝負しようとしていた。実際に鈴木が入ることでプレスの強度は上がったし、仙台にロングボールを蹴らせることができていた。

 一方の攻撃はどうか。

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 この図は57分の鹿島のビルドアップを表したものである。どこか既視感のある図であることは内緒だ。

 鹿島は犬飼と永木がサイドバック化し、2トップ脇を起点とする動きを見せた。しかし永木に関しては、中盤のバランスを取るために、さほどサイドバック化はしていなかったのが事実。

 おそらく仙台を押し込むためにこの可変式を採用したのだと思う。ただ、鹿島はビルドアップの先でどこをポイント(狙い目)として攻めるかがハッキリされておらず、最終的に質的優位である金崎と鈴木にボールを入れることが多かった。気合いの金崎夢生大作戦feat.鈴木優磨。

 仙台も押し込まれはしたが、最後のところは大岩を中心に跳ね返すことができていた。

 

(2)成熟度の違い

 今シーズンの仙台は3バックとの対戦が割と多かったと思う。ゆえにこの鹿島の変更も冷静に対応できていた。

 鹿島は攻撃と守備で可変する。ということは攻守が切り替わったときにシステムが変わる時間がある。そんなわずかな時間を見逃さず、その隙を突いて仙台はカウンターを発動させていった。

 加えて鹿島の立ち位置は非常に悪く、去年の仙台を見ているようだった。仙台は中盤で野津田と奥埜が鹿島のプレスを剥がすことでカウンターを発動していった。

 西村が投入されると、鹿島の右サイド(仙台の左サイド)を起点にカウンターを仕掛ける。そして65分にカウンターから得たコーナーキックで板倉が決めてリードを2点に広げる。まさに理想的な展開でゲームを進められた。

 

(3)ラスト10分の攻防

 ゲームは攻める鹿島、守りながらカウンターを狙う仙台という構図へと変わっていく。時間の経過とともに質で上回る鹿島が次第に仙台を自陣に押し込む時間が長くなっていった。

 仙台としては鹿島からボールを奪い、カウンターへと繋げていきたいが、連戦の疲労と鹿島の圧力もあり、なかなか前へとボールを運ぶことができなかった。

 そして85分に遠藤のアーリークロスを鈴木→安部→鈴木で決めて1点差に詰め寄る。

 その後もパワープレー気味に押し込んでくる鹿島に仙台が跳ね返す展開が続く。本当はこうなったときのために1枚カードを残しておきたかったが、蜂須賀の緊急交代もあり3枚切ってしまっていた。

 それでも集中した守備で鹿島の攻撃を跳ね返した。アディショナルタイムの5分もやり切ってタイムアップ。中断期間前最後のゲームを勝ち切ることに成功した。

 

■最後に・・・

 最後の10分を除けば、満点のゲームだった。鹿島を相手に内容を伴った結果を得られたことは非常に嬉しい。

 アベタクが帰ってきたことで、前線で収まる選手が2人いること、個人の力でゴリゴリと突破できるバリエーションが増えた。加えて相手が疲れたところで推進力のある西村を起用できることも大きい。1人帰ってきたことで多くの選択肢が生まれた。

 

 これにて長かった15連戦も終了した。15連戦ということもあり、多くの選手試せたということはポジティブな要素か。ただし、これだけ試合が詰まってお互いがベストコンディションで挑めないのは興行としてどうなの?とは思う。まぁ終わったあとだから言えるけど。

 ひとまずリーグは中断だが、来週はルヴァンのプレーオフ天皇杯が待っている。6月の3連戦もいい試合を期待したい!