ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

戦いの幅~J1第13節 湘南ベルマーレvsベガルタ仙台~

 さて、今回は湘南ベルマーレ戦を取り上げます。

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 ベガルタ仙台は前節・ガンバ大阪戦で0-1の敗戦。最後のところで決めきれない問題にぶち当たっている。今節は、関、椎橋、中野、関口が前節と代わってスタメンになっている。関口は復帰後初スタメンに。

 湘南ベルマーレは前節・柏戦で1-2の敗戦。それまではガンバ、浦和に連勝している。今節はアンドレバイア、大野、秋野、ステバノビッチが前節と代わってスタメンになっている。

 

■前半

 この試合はメインスタンドから見て、右から左へと強い風が90分間吹く中で行われた。

(1)仙台の攻撃、湘南の守備

 前半は仙台がゲームを握る展開となる。それは仙台の攻守が良かったのもあるし、湘南が攻守で上手くいってないことも要因としてある。そんなところを見ていきたい。

 まずは仙台の攻撃と湘南の守備について。f:id:khigu:20180510204327p:plain

 前半開始から30分過ぎまで上図のような現象が起きる。

 湘南の守備は5-3-2。仙台の3バックに対しては2トップが見る形となっている。しかし問題が発生する。それは誰が奥埜を見るのか。石川と菊地の守備の基準点は、仙台のインサイドハーフだった。よって奥埜はフリーとなる。

 そんな奥埜は、2トップの間に位置してピン留めの役割もあったと思う。奥埜が2トップの動きを制限することで金と椎橋がボールを持てる。そこから2人は運ぶドリブルないしは縦へと預けていく。

 

 そんなこんなで3分に試合が動く。

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 椎橋→大岩→金とステーションパスをつなぐ。ここで左サイドにいる石川に注目してほしい。石川は奥埜に行くのか、本来見るべき野津田に付くか迷う。よって中間に位置を取ってしまった石川だった。

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 最終的に石川は判断が遅れ、野津田に裏を取られてしまう。その間に金は頂点の石原にロビングでパスを送る。

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 石原にボールが収まっているときには、石川は野津田に置いていかれている。相手をずらすことに成功した仙台は、石原から野津田に落として西村へとボールを繋げる。

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 そして西村のキープから右の蜂須賀へ展開する。

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 サイドをえぐることに成功した仙台。蜂須賀のクロス時には、ペナルティエリアに3人が入ってきている。

 石原はニアへ、野津田は中央へランニングする。この動きはトレーニングでされてきたものだろう。

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 そして野津田がプッシュして先制点を奪う。最後の最後まで石川は野津田に付いていけなかった。

 この得点のポイントは、奥埜のところで石川を迷わせたことだろう。石川のところがずれたことで湘南の守備が全体的にずれていった。仙台としては奥埜の位置的優位性を活かせた得点だった。

 湘南としては秋野が石川を前に出すことでマークを明確にし、ずれを作らせたくなかった。3-1-4-2のシステムに順応していないこともあってか、そこまでの判断を行うことが湘南はできていなかった。

 

 その後も仙台は湘南の守備位置をずらしながら攻撃をしていく。

 27分にPKを獲得した(石原が止められたほう)が、これも狙い通りの形で攻めることができた。

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 こちらも右からの攻撃。ボール持っている金。湘南は5-3-2で守備を組む。

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 金は中野へ縦パス。マークに付いているのは秋野。代わりにアンカーに石川がいる。

中野へ対して蜂須賀は素早くフォローに入る。

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 そして蜂須賀はアンカーの奥埜へ。ここでも奥埜が浮いている状態になっている。加えると逆サイドの菊地も中途半端な位置を取ってしまっている。前へスライドするか、アンカー脇をカバーするのかが半端なポジション。

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 奥埜は一気に石原を狙ったロングボールを入れる。DFに弾き返されるも、しっかりセカンドボールへ準備していた野津田が回収する。

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 そして野津田は左の関口へ。これで仙台は相手陣地へと入ることができた。ここから外→中→外のボール回しで、最後は関口のクロス。大野に引っ張られた石原が倒されてPK獲得となった。

 

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 湘南も手を加えなかった訳ではない。30分過ぎになると菊地が一列上がり、3バックに対して3トップでプレスを掛けるようになる。要は出所を抑えようと。

 しかし奥埜が空いてしまうことには変わりはない。仙台もウイングバックを経由して、奥埜へボールを届けることに成功していった。よって修正し切れていなかった湘南である。

 

 それから仙台の攻撃で面白かったのは、3センターが密集する形だった。

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 特に右サイドでの攻撃時、奥埜、野津田、中野が右サイドで密集し、パスコースを作っていた。マンチェスターシティでいうデブライネとシルバが近距離でプレーしているイメージだろうか。

 ここで肝なのが、逆サイドで椎橋が中にポジションを取ることで、逃げ場を作っていることである。右サイドで窮屈になったら椎橋や奥埜を経由して関口へ届けるといった形を見せていた。

 ついでに言うと、守備に切り替わったときにもメリットがある。これについては後述したい。

 ということで湘南が守備をハッキリできなかった(前から行くのか、ブロックを組むのか)こと、そして仙台が奥埜のポジションに代表されるように、立ち位置で優位性を作ることで湘南の守備にズレを作らせていた内容だった。

 

(2)仙台の守備、湘南の攻撃

 お互いに3-1-4-2のシステムなので、湘南もアンカーの秋野のポジションは奥埜同様にフリーになるはず。しかし仙台はそうさせなかった。その辺を中心に見ていくことにしたい。

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 まずは5分のプレー。ここでは湘南のビルドアップ隊(3バックとアンカー)に対して仙台は野津田を一列あげて前プレを仕掛ける。このときに石原がアンカーをケアする形になっている。

 そして注目してもらいたいのは中野の位置。野津田が前に出たことで中野は奥埜の横をカバー。この動きが仙台にあって湘南にはないものだった。

 このプレーは、結果的に大野から杉岡のところで蜂須賀がインターセプトしている。

 

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 続いては42分のプレー。シーンは山根にボールが渡ったところ。ここで注目すべきなのは中野。石原が山根にプレッシャーを掛けたところで同サイドの中野がアンカーをケアしている。

 ここではパスコースが制限された山根がイジョンヒョプへ長いボールを送るも、仙台がセカンドボールを回収している。

 

 この試合での両者の差は、前からプレスを掛けるときの連動性だった。仙台は3センターがスライドすることで秋野の位置をケアできていたが、湘南はそれができずに奥埜をフリーにさせてしまった。前半のスコアの差はそんな3センターの守備の違いだったように感じる。

 

 また、仙台は湘南のお株を奪う素早い切り替えで主導権を渡さなかった。16分のシーンを振り返る。

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 仙台がボールを持っているシーン。先ほど言った中野が右サイドに登場している場面(真ん中っぽいのはご愛嬌)。中野は野津田へと縦パスを送るも、パスミスとなる。

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 しかし素早い切り替えで野津田がすぐさまプレスを掛ける。

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 野津田は振り切られてしまう。しかし中野がすぐに二の矢としてプレスを掛ける。

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 中野が取り切れるのがベストだったが、取り切れなかった。しかし中野が遅らせたことで野津田がプレスバックし、再びボールを奪いに行く。

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 そして野津田がボール奪取し、仙台へと再び攻撃のターンが回ってくることとなった。わずか4秒間の出来事だった。

 このように攻撃の距離感が近いことで、ネガトラを素早くでき、かつ二の矢三の矢とプレスを仕掛けられるようになる。

 

 前半は仙台が湘南よりも攻守において明確な狙いを持ってプレーできた。そしてそれが結果にも反映された。

 湘南は仙台の素早い出足に戸惑い、2トップへの長いボールに頼ってしまうシーンが多かった。おそらく本来は仙台のウイングバック裏を突きたかったはずだ。左サイドでは杉岡やステバノビッチ、左サイドでは高山が仕掛けていたように、サイドを起点とした攻撃で仙台を押し込みたかったのだと思う。

 ただ、湘南らしいアグレッシブな守備ができなかったことで、鋭い攻撃にもつなげられなかった。

 前半は野津田と西村のPKで仙台が2点リードし、折り返す。

 

■後半

(1)矢印の向きと強さ

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 後半に向けて湘南は、大野に代えて高橋を投入する。システムも慣れた3-4-2-1に変更した。

 後半の湘南は、前半の反省から積極的に前へ出てくるようになる。湘南らしさを取り戻せ!見たいな感じだった。

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 後半の湘南は3バックに対して3トップが、アンカーの奥埜に対しては石川が気合の縦スライドで対応するようになる。これで仙台のボールの逃げ場を抑えることに成功した湘南は、高い位置からのボール奪取と縦に鋭い攻撃でチャンスを作り出していく。

 そして47分にPKを獲得する。それをイジョンヒョプが決めて1点差に詰め寄る。

 後半のスタートから60分あたりまでは、湘南が勇猛果敢なプレスと鋭い縦速攻で主導権を握る。ステバノビッチが負傷交代したことで、前への推進力を失ったが、それでも勢いで優る湘南がペースを握った後半序盤だった。

 

(2)早めに手を打つ渡邉監督

 湘南が盛り返したことで、仙台は前半のようにはいかなくなった。相手の勢いに押され自陣でのプレーを強いられる展開となる。

 それでも渡邉監督はすぐに守備にシフトしようとはしなかった。なるべく前半の展開に戻すことを優先にゲームを進めていく。

 確かに中盤では相手のプレスを剥がすことに成功する。しかしそこから先のパスがずれてしまったり、ディフェンスに阻まれたりでなかなか湘南守備陣を突破することができなくなっていった。

 

 次第に攻撃も機能しなくなると、渡邉監督は64分に関口から永戸にスイッチする。これで左サイドの守備を安定させた。

 そして中央で奥埜が厳しくなると晋伍と交代する。

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 晋伍を入れて3-4-2-1のシステムに変更する。これと同時に湘南は野田を投入する。システムも3-1-4-2の形に戻すことになった。

 野田を投入したことで、ロングボールが増え始める湘南。そして野田投入直後に山根の2度にわたる右サイドからの強襲が始まる。

 これを見て渡邉監督は中野に代えて板倉を投入する。これが78分。80分以内に3枚のカードを切ることとなった。

 板倉がボランチに、野津田がシャドーになることでロングボールへの対応と、山根への対応の2つを行う。板倉を中央で絶対跳ね返すマンとして投入したのは、非常に効果的だった。

 

 その後も冷静に相手の攻撃を跳ね返し、前に出た湘南の裏のスペースを利用できるようになる。

 そして90+2分に蜂須賀のロングボールから抜け出した西村がキーパーとの1対1を制して、ダメ押し点を決める。山根が上がった裏のスペースを利用した得点だった。

 息の根を止めた仙台が3-1で勝利。6試合ぶりの勝点3となった。

 

■最後に・・・

 全体的な印象として、両チームの戦いの幅がこの結果に繋がったのかなと思う。仙台は前半からアグレッシブな守備と相手の守備にズレを作る攻撃できていた。

 しかし湘南はシステムが慣れておらず、前から行くときにどうやってハメていくかという部分でずれが生じていた。今後この辺の課題を克服することで、湘南は強くなるのだろう。後半戦では厄介な相手になると思う。

 また後半は押し込まれる展開だったが、早めに手を打つことで修正した渡邉監督の采配は見事だった。

 

 15連戦もいよいよゴールが見えてきた。次節は首位独走中の広島が相手。野津田が契約上の理由で出場できないが、この勢いを首位にぶつけ、ひと泡吹かせてほしい!