ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

ディテールの甘さ~J1第16節 ベガルタ仙台vs横浜Fマリノス~

 いよいよ僕たちの日常が帰ってきました。今回は横浜Fマリノス戦を取り上げます。

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 7位で中断期間明けを迎えたベガルタ仙台。ここからさらに勢いを増し、目標であるトップ5へと駆け上がりたいところ。今節は板倉が出場停止、野津田がケガ。左バックには椎橋、シャドーに中野がスタメン。また永戸も左ウイングバックで名を連ねた。

 一方、13位の横浜Fマリノス。ポステコグルー監督を招へいし、立ち位置系サッカーとして進化を遂げている途中である。中断期間にデゲネクが移籍。その代わりに金井がセンターバックでスタメン。仲川、伊藤、遠藤の3トップとなった。

 

前半

(1)構造的弱点の殴打と守備の基準点の曖昧化

 

 ゲームは早々に動く、開始2分。仙台がキックオフからの前プレで前線に人数を掛ける。一度は平岡がカットし、阿部につなぐも奪われる。

 マリノスは素早く仙台のネガティブトランジションをいなして、平岡の裏のスペースへと走った遠藤へとスルーパス。遠藤のクロスに伊藤翔が合わせるも弾かれる。しかしこぼれ球を天野がプッシュし、マリノスがさっそくゲームを動かす。

 仙台としてはキックオフからの強襲を掛けたわけだが、マリノスにうまくいなされた格好となった。

 

 その後もマリノスペースで試合は続く。

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 マリノスの攻撃にタイトルを付けるならば、「構造的弱点の殴打と守備の基準点の曖昧化」である。

 まずマリノスの3トップは高い位置に張り出し、仙台の5バックをピン留めする。ポイントはウイングがサイドの高い位置を取ること。このことで仙台のウイングバックを下げさせることに成功している。仙台としては前に人を出したいところだったが、そうすると、3バックの間や3バックとウイングバックの間にギャップが生まれ、そこをマリノスに突かれてしまう。よって身動きが取れない形となってしまった(これが構造的弱点)。

 そして3枚で5枚を抑えたことで、後方ではキーパーの飯倉を含めて8vs5の状況が生まれる。誰が見ても圧倒的な数的優位である。これでマリノスは数的優位のなかでビルドアップを行うことに成功する。

 また山中がサイドに開いたり中に入ったり(いわゆるアラバロール)、また扇原がセンターバックの間に落ちたりなど、各ポジションでポジションチェンジを繰り返すことで仙台の守備の基準点(誰が誰をマークするか)を曖昧にさせていった。

 そして後手を踏んだ仙台をよそに、マリノスは高い位置に張ったウイングに預けて攻撃のスピードを上げていく。まさに2点目は理想的な形での得点だった。

 

(2)仙台の立ち振る舞いはどうだったのか

 

 早々に失点を喫した仙台だった。監督コメントを読む限り、当初のゲームプランはしっかりと構えながら相手の出方を見ようというプランだった。しかしそれが崩れた結果となった。

 一番の原因はブロック時のプレッシャーラインの設定だと思った。前方が圧倒的数的不利になることを予想していたかは不明だが、石原がセンターバックにプレスを掛け、そこに阿部が呼応することで、そこを剥がされ奥埜と富田のところで、数的不利になり、そこから攻撃のスピードをアップさせられる現象が多かった。

 石原としては前から限定したかったが、その後ろは人数が足りていない。そこで齟齬が生まれてしまった。であれば、石原のプレッシャーラインをボランチ(扇原)に設定し、センターバックを放棄する形で入っても良かったかもしれない。

 実際に15分過ぎになってくると、石原はむやみにセンターバックへプレスを掛けるのをやめ、ボランチにプレッシャーラインを設定している。このことでウイングに当ててくるマリノスの攻撃に対してセットして構えられ、徐々に対応できるようになっていく。

 また時間が経過すると、ラインを高くできるようになり、前プレとブロックを拙いながら使い分けができるようになっていった。20分過ぎからはマリノスのボール保持攻撃に対して守れるようになっていく。

 

(3)ビルドアップの出口が見当たらない仙台

 

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 マリノスのボール非保持は喜田がボランチの位置に下がり4-2-1-3(自陣撤退時は4-2-3-1)になる。3バックに対して3トップが、そして天野がボランチを監視する役割になっている。そしてそこから仙台の攻撃をサイドに誘導させてボールを奪う。

 3点目、4点目はいずれも仙台のボール保持からマリノスがサイドに誘導させボールを奪ってからのショートカウンターだった。

 

 仙台の攻撃時の最大の問題は相手を剥がせる立ち位置におらず、マリノスのようにビルドアップの出口を作り出すことができなかったことだ。

 これにはシステムも関係あると思う。

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3-4-2-1だと、各選手が5レーンに固定されやすくなる。そうなると相手にとっては守備の基準点が定まりやすくなり、どうしてもフリーでボールを受けることが難しい。またサイドに誘導されると相手もさらにコースを限定しやすくなり、さらに相手を剥がすことが困難になっていく。

 昨年までであればこのシステムとやり方で問題はなかった。しかし相手もしっかり対策を取れるようになり、昨年までのように上手くいかなくなっているのが現状である。

 またこの試合では全体的に選手間の距離も遠く、いい立ち位置を取れたとは言えない状況が続いていた。

 それでも4失点目を食らった後からウイングバックを高い位置にし、大きいサイドチェンジからの攻撃の形を作れていた。おそらく自分たちがペースを握った展開のときにやりたかったはずだが、図らずも4失点目を喫した後だった。

 

 前半は、攻守ともに仙台を上回ったマリノスが4点リードで折り返す。

 

後半

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 改めて、後半の陣容を整理する。前半36分に椎橋→西村で、永戸と中野が一列ずつ下がっている。 

(1)攻めるしかない仙台

 

 前半に4失点食らった仙台には攻めるしか選択肢が残されていない。

 ということで攻めに出る仙台。前半の残り10分にあったようにウイングバックが高い位置を取る。そしてボランチないし3バックから対角線のフィードで展開し、ウイングバックが高い位置から仕掛けるという攻撃をメインにしていく。

 特に右サイドでは蜂須賀が高い位置を取り、平岡が追い越していく動きで、チャンスを作り出していたのは良い点だった。72分のジャーメインのゴールも右サイドで蜂須賀を平岡が追い越していく形から生まれた得点だった。

 

(2)攻めに出た代償

 

 もちろん前に人数を仕掛けると後ろのリスクマネジメントは疎かになる。これだけの失点を喫してしまったらしょうがない点であるが、、

 マリノスは、前掛かりになった仙台に対して有効的にロングボールを活用し、3トップでロングカウンターを狙う方針へと変わっていく。5点目はまさに狙い通りで、自陣で中野のロストを奪ってから素早く前に送ってからのカウンターだった。

 得点量産もあったが、相手の出方によって柔軟に攻め方を変更したマリノスは素晴らしいの一言だった。

 

(3) 集中力が切れる。

 

 6失点目をした後からは完全に集中力が切れた。応援放棄もあってスタジアムは異様な雰囲気に包まれた。

 マリノスは大津、ウーゴ・ヴィエイラ、ブマルといった得点に飢えた選手を投入して、隙あらばと攻撃を仕掛けていき、さらに2点追加する。

 仙台もジャーメイン、蜂須賀が決めて、合計スコアは2-8。昨シーズンの浦和戦の最多失点を更新する形で、仙台は惨敗となった。

 

最後に・・・

 衝撃的な試合となった。仙台とマリノスのこの試合に対する準備の差が、このスコアの差に出てしまったと言っていいだろう。

 仙台も相手の出方を見るという最初の選択は、決して悪くない手だと思った。ただ、どこからプレッシャーを掛けるのか、どこのエリアでボールを奪うかなど、もっとディテールを詰めなければならなかった。曖昧な部分が多く、それをマリノスが見逃さなかった。

 攻撃もどこをポイントに攻めるのか。後方からのビルドアップからどこを出口とし、攻撃したいのかを明確にする必要があった。3バックは明らかにパスの出しどころに迷っていたし、そうなるとマリノスのプレスに引っかかってしまう。

 

 幸いなことに天皇杯とリーグ戦でマリノスと2回対戦することができる。そのときは同じような仇を踏まないでほしいと切に願っている。

 そしてまた試合はやってくる。試合で悔しい思いをしたら、試合で取り返せばいい。次節はアウェイで鳥栖戦。仙台らしいアグレッシブなサッカーを期待したい!