ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

5バック相手をどう崩すかという課題 J1第26節 FC東京vsベガルタ仙台

 さて、今回はFC東京戦を取り上げます。f:id:khigu:20171113115054p:plain

 仙台は前節・鳥栖戦で晋伍が負傷。左ハムストリングの肉離れで8週間の離脱となった。代役は奥埜。ルヴァンカップではたびたびこのポジションでプレーしている。奥埜が一列下がったことで右シャドーには西村が起用された。

 一方のFC東京。前節・C大阪戦での敗戦を受けて篠田監督が解任された。暫定監督としてコーチを務めていた安間監督が就任。安間監督といえば甲府や富山でパスワークを中心にしたサッカーをしていた記憶がある。

 前節までは3142を採用していたが、今節は3421を採用。チャンヒョンスがケガから復帰。ボランチは萩と橋本のコンビ。左ウイングバックには太田宏介が起用された。

 

 勝ち点差は1、いわゆる6ポイントゲームである。鳥栖に勝利し、さらに上へと駆け上がっていきたい仙台としては負けられない一戦となった。

 

■前半

(1)FC東京がボールを持ったとき

 前述したように安間監督はボールをボールを大事にして攻撃するのが好きな監督。今回の就任に当たっても、やはりボールを大事にする、パスワークで崩すサッカーをしたいと話していた。

 まずはFC東京がどうボールを保持するかというところに焦点を当てていきたい。

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 試合開始から見られた形は東が落ちてくる形。特に右サイドで徳永がボールを持ったときに、柳が対面の中野を引っ張り、空いたスペースに東が落ちてきてボールを受けることを行っていた。

 システム上ミラーゲームになるので、誰かが背後を取ったときに誰かが落ちてくるとギャップが生まれスペースができる。椎橋もどこまでついていくべきか判断に迷っていたので、右サイドからの前進はスムーズに行われていた。

 

もうひとつは仙台のボランチの背後を狙うことf:id:khigu:20171113115125p:plain

 仙台は試合開始からミラーゲームということもあり、前からプレスを掛けに行った。前から掛けに行くことでFC東京のプレーを制限し自由にボールを回させないのが狙いだった。

 当然、FC東京ボランチの対面は仙台のダブルボランチとなる。今回は三田と奥埜ということもあり、二人でバランスを取るのは開始早々からは難しかった。二人がFC東京ボランチに食いついてしまい、その背後のスペースを大久保や永井に与えてしまうシーンがちらほら見られた。

 

 FC東京のボール保持におけるキーマンは、萩と東だった。萩は3バックからボールを受ける。その受けたボールを東がさらにリンクマンとして受けるということが非常に多かった。萩は篠田体制でも欠かせない存在だったが、安間体制ではその萩に加え、東もチームの潤滑油として欠かせない存在になるのではないか。

 

 一方の仙台もFC東京の出方に次第に慣れてくる。椎橋やダブルボランチがどこまでついていくか、前線からプレスに行くタイミングや一回自陣に引いてブロックを作るタイミングが徐々に整理できるようになり、FC東京のボール保持にうまく対応できるようになっていく。

 

 仙台が守備を整理できはじめてきた一方で、FC東京はなかなかうまくボールを運べなくなる。仙台に前からうまくパスコースを消されたことで3バックからのビルドアップを阻害され、ビルドアップも安定しなくなる。f:id:khigu:20171113115236p:plain

 FC東京は30分過ぎから萩が最後尾に降りてビルドアップを安定させる。たぶん指示ではなく萩の判断ではないだろうか。そんな気がする。

 萩が降りてきたことで433のような形になるFC東京。433にしたことでボールを保持させることに成功したが、問題が発生する。それはボールを受けるために43が非常に低い位置を取ってしまったために、バイタルエリアにボールを運べなくなってしまう。ボール回しを安定させることに成功した一方で、ボールを保持することが目的化してしまい、最終的には前へ人数を掛けられなくなってしまった。よってラスト15分は自陣から中盤エリアでボールを持つ展開に終始してしまう。

 

(2)仙台の前半45分の評価みたいなもの

 この試合の前に相手の監督が代わり、非常にやりにくいシチュエーションだったということは確か。特に仙台はしっかりとしたスカウティングが生命線であり、勝利のための非常に大きな要素となっている。

 そんな難しい試合の中で、仙台は相手の出方を窺いながら我慢強く前半の45分を戦うことができたのではないか。

 この試合初めてボランチを組んだ奥埜と三田も、始めはバランスを取るのに苦労していたが、徐々にお互いの距離感が良くなり、バランスが良くなっていった。

 

 攻撃では、ボールを保持したときになかなか相手を崩せないことのほうが多かった。サイドをうまく抜け出せたシーンは何回かあったが、クロスははじき返されてしまった。

 そんな中で35分過ぎから野津田がフリーマンとしてダブルボランチと距離感を近くすることで、リズムが生まれるシーンもあった。ミラーゲームでなかなか相手を崩せないなか、誰かが自由に動くことで相手をズラしていくような作業はこれからも練度を上げていく必要がある。

 

 相手の出方がわからない中でスタートした試合ではあるが、我慢強く戦い、0で折り返すことができたのは良かったと思う。ということでスコアレスで前半を折り返す。

 

■後半

(1)FC東京の変化・修正

 前半はボールを保持するために後ろに重心が重くなってしまい前への人数を掛けられなかったFC東京。後半は前線に人数を掛けるために高萩や東を前目でプレーさせた。ビルドアップは3バックが基本的に行い、時折橋本がフォローするような形にした。

 また前半はボールを繋ぐことに終始していたが、後半に入るとシンプルにワントップの永井へロングボールを送ることもするようになる。このことでセカンドボールを回収し、より前でのプレー機会を増やしていった。

 また守備では、前半よりも前プレの強度を上げ、また仙台のダブルボランチに対してボランチが付いていくことでビルドアップを阻害していた。

 

 このような変化・対応に対して、仙台は後手を踏むことになる。

 FC東京が前プレの強度を上げたことで、ビルドアップが安定しなくなり、高い位置でボールを奪い取られ、ショートカウンターを食らってしまうシーンが出てくる。

 またセカンドボールが回収できなくなる。仙台もFC東京同様に前プレを掛けるが、FC東京の3バックは裏へのロングボールを選択肢として増やしたことで、ロングボールを送る→仙台がはじく→セカンドボールを回収するという展開になってしまい、間延びすることで中盤のエリアをFC東京に明け渡してしまう時間が続いた。

 

(2)飛び道具・セットプレー

 先制点は67分だった。太田の右コーナーキックをニアでチャンヒョンスが合わせFC東京が先制する。

 この試合ではそれまでに数多くのコーナーキック直接フリーキックを太田に与えていた。J屈指のキッカーである太田に蹴る機会を与えれば精度は上がってしまう。

 この失点は仙台の守備が悪かったというよりは、FC東京のセットプレーの精度が上回ったシーンだと思う。

 

(3)二枚替えの効果

 追う展開になった仙台はすぐさま動く。奥埜に代えてリャン、西村に代わってクリスランを投入する。

 この試合の仙台は、野津田をフリーマンとし、自由に動かすことで局面局面で数的優位を作って攻めるという狙いがあった。しかし肝心の野津田にいい状態でボールが入らず、とても苦労していた。

 しかしリャンがボランチに入ったことで、野津田にボールが入るようになり、攻撃にテンポが生まれてくる。野津田、三田、リャンがいい距離感でボールを回すことで、徐々に攻撃に繰り出せるようになった。

 仙台としてはその中盤のタメからサイドに展開し、クリスランで勝負したかったのが理想だろう。実際にサイドからチャンスを作り出すことに成功する。しかしFC東京の3バックは非常に堅く、林を脅かすことがなかなかできなかった。

 

 仙台は疲労の見える古林に代わって蜂須賀を投入し、サイド攻撃をより強化する。

 FC東京は米本をボランチに投入し、守備の強度を上げる。

 サイドからチャンスを見出そうとする仙台だが、シュートを打つにしてもエリア外からのシュートとなり、なかなか崩せない。

 ラストプレーでバックパスをかっさらったクリスランが石原にパスを送るが、合わずにタイムアップ。0-1で仙台が敗れてしまった。 

 

■最後に・・・

 鬼門のスタジアムや審判が理由で負けたのではなく、お互いに平等にあったチャンスを活かせたか、活かせなかったかの差がこのスコアになった。単なる力負け。悔しい。

 

 同じシステムを採用している両者だったが攻撃の形は異なった。仙台はポジション優位で攻撃をしていくポジショナルプレーであるのに対して、FC東京は自由に動き、相手の間間にポジションをし、パスを繋いで攻撃していくポゼッションサッカーだった。

 自分たちのポジションで相手とのギャップを作り攻撃していく仙台よりも、相手に合わせて変化をすることでボールを動かし攻撃していくFC東京のほうが、効果的な攻撃だったことは事実だった。

 

 4バック相手にはポジション優位で攻撃ができるようになった仙台だが、5バック相手で同数やミラーゲームになったときにギャップが作れずに、うまく攻撃できなくなるのは今シーズン抱えている課題である。今後はこれを克服していくことが、このチームをより成長させていくカギになってくるだろう。越えなければならない壁だ。

 

 直接対決で敗れたものの、まだまだ巻き返せるチャンスはある。まずは連敗をしないことが重要だ。次節はセレッソ大阪戦。いいゲームを期待したい! 

さらに上へと J1第25節 ベガルタ仙台vsサガン鳥栖

 さて、今回はサガン鳥栖戦を取り上げます。2週間ぶりのリーグ戦。f:id:khigu:20171113115422p:plain

 この中断期間にルヴァンカップ準々決勝を戦った仙台。鹿島相手に54で勝利し初のベスト4への進出を決めた。

 その勢いを持って挑みたい今節、西村が久々のベンチスタートで、シャドーには野津田と奥埜が入った。負傷明けのクリスラン、ルヴァンカップで活躍した野沢がベンチ入りした。

 一方の鳥栖。夏に鎌田が移籍し、FC東京から河野を補強した。その河野はトップ下でスタメン。また豊田ではなく田川が先発に名を連ねた。

 

■前半

(1)鳥栖の守備の狙いと仙台の外し

 まずは鳥栖の守備の狙いから整理したい。f:id:khigu:20171113115445p:plain

 鳥栖の守備は前から嵌めに行くスタイル。前節の札幌と同じような形を取ってきたと言っていい。2トップと河野で3バックのビルドアップに圧力を掛ける。仙台のダブルボランチに対しては高橋義希と原川が付いてくる形になっていた。おそらく豊田ではなく田川を使ったのは、この前プレの強度を上げるため。守備で労を惜しまない田川を使うことでしっかりとファーストディフェンダーの役割を明確にする狙いがあった。

 札幌と違ったのは、鳥栖は中野を警戒していたということ。中野に対しては右インサイドハーフの福田がマンツーマンで付いていた。おそらくフィッカデンティの中では、中野を福田に見させる。そうすると中野は降りてきて左シャドー(西村)がサイドの裏に飛び出してサイドの裏で起点を作る。という作業を仙台はしてくるから、シャドーに対しては藤田にマークさせるとともに、裏のケアをさせるタスクを与えていたと思われる。

 また仙台がボールを保持し、ブロックを敷く際には6バックのような形を取る。4バックはなるべくペナルティの幅で守り、サイドは両インサイドハーフが降りて対応していた。

 

 しかし仙台はその6バックをこじ開けることに成功する。11分。仙台が押し込むことに成功し、敵陣でボールを保持する。鳥栖は64のような形で守っていたので、仙台はセカンドボールを拾いながらボランチを経由して右サイドへ。古林が縦に無理やり突破しクロスを上げると、ニアで石原が合わせて先制点を奪う。

 おそらく鳥栖としては古林が縦に突破してくるのを予想していなかったというか、原川の対応が少し甘かった。吉田豊が対峙だったら分からなかったけど。慣れない対応(6バック)をして先制点を許してしまったのは鳥栖としては痛かった。

 この得点の際に石原の膝が権田の頭部に直撃し負傷、長い中断となった。権田は戻ることができず赤星と交代となる。

 

 その後の仙台は少し相手の出方に苦慮することとなる。鳥栖の3枚の前プレに対して苦労する場面は目立った。しかし時間の経過とともに鳥栖の対応に慣れてくるようになる。鳥栖の対策はマンツーマンで守っているため、人を流動的に入れ替えながら攻撃することで、鳥栖の守備陣にマークをハッキリさせないことを行った。f:id:khigu:20171113115535p:plain

 石原、奥埜が頻繁にポジションを入れ替えることでギャップを生み出し、パスコースを作った。また鳥栖の予想に反して西村ではなく野津田を起用したことで裏ではなく、足元でのプレーが多くなる。

 鳥栖ボランチとディフェンスラインの間に広いスペースが生まれていたので、野津田や石原が足元でボールを受けることでチャンスを作り出していた。また奥埜も右から流れて、左サイドに登場することで数的優位を作り、鳥栖の守備を混乱させていった。

 

(2)仙台の守備とショートカウンター

 仙台はお馴染の541でブロックを形成した。前から行くことはほぼなく、しっかり構えて迎撃するスタイルを取る。鳥栖もパスを回しながら攻めるスタイルを採用している。特に原川がいる左サイドが攻撃の起点となっていた。相手の間にポジショニングし、ボールを動かしながら相手のブロックを揺さぶり空いたところを縦パスで狙う形を目指してた。

 しかし2トップがイバルボと田川で収めるのが得意ではないので、中盤のエリアでボールを動かせても最終的に2トップまでボールが入らない、またはボール入れても収まらない場面が多かった。それよりも裏へ抜け出してチャンスを作るほうが多かったし、イバルボもそのほうが得意そうで、仙台としては裏へ抜け出されたほうが厄介だった。

 早めに先制したことで守備も落ち着いていたというか、集中力を高く持ってできていた。ルヴァンカップで鹿島相手に2試合戦えたことは結構自信になっているのだと鳥栖戦を見ながら思った次第である。

 

 2点目はショートカウンターの形だった。34分。鳥栖の縦パスを晋伍が引っ掛けて奥埜へ。奥埜は少し時間を作ると、そのまま上がってきた中央の晋伍へパス。晋伍は右にいた野津田へ丁寧にパスを出すと右足でダイレクトで流し込み、追加点を奪う。理想的なカウンターだった。

 鳥栖は仙台に対して対策を取ってきたためか全体のバランスがおかしかった。時間の経過とともに前プレが嵌らなくなり、しかしそれでも中盤がボランチへ食いつくため中盤に広大なスペースが生まれ、仙台は中盤のエリアで自由にボールを持つことができていた。まさに策士策に溺れるといった感じの鳥栖の内容だった。

 前半は2-0で仙台リードで折り返す。

 

■後半

(1)よりよい距離感で

 後半の仙台は、前半よりもより距離感を意識してプレーしていた。ウイングバックボランチ、シャドー、ワントップがいい距離感でいることでボールが回り、前半よりもシュートシーンを増やしていくことができた。

 この試合ではシャドーが裏へ抜けることよりも、鳥栖の中盤のエリアでボールを受けることを狙いとしてやっていた。後半は鳥栖がより中盤のスペースを空けてくれたおかげで野津田をはじめ、数多くの選手が伸び伸びとプレーできていた。

 3点目は54分。イバルボからボールを奪ってのショートカウンター。右に三田が右に展開し、古林が奥埜へアーリークロスを上がる。奥埜が胸で落とすと三田がそれをワントラップしてシュート。これが決まって30。ほぼゲームを決めることができた。この得点も非常に距離感がよく、前半にはなかった三田の3列目からの飛び出しで決めることができた。

 

 その後、鳥栖にカウンターを浴びせられることもあったが、冷静に対応し、スペースのある中盤でボールを回し、さらに攻勢を掛けていく仙台。野津田は幾度となく鳥栖ゴールを脅かしていた。

 

 しかしアクシデントが起こる。晋伍が接触プレーで痛め交代を余儀なくされる。奥埜をボランチに西村をシャドーに入れる。

 奥埜と三田のダブルボランチだとフィルターが効かなくなるのが不安であったが、この日の仙台はどの選手も球際バトルで負けずにいたので、問題はなかった。また攻撃に転じれば奥埜がボランチに入ったことでより攻撃での迫力が生まれた。

 4点目は74分。右サイドで古林がクロスを上げるも合わず。しかし鳥栖ディフェンスとキーパーで連係ミスがあり、再度古林にボールが渡ると低いクロスを上げる。西村がシュートミスをしたもののこぼれを石原が押し込んで4点目を奪う。

 

 最後の最後にイバルボにコーナーから決められたものの、4-1で勝利。ルヴァンカップでの勢いを、そのままリーグ戦にも持っていくことができたゲームだった。

 

■最後に・・・

 仙台が上出来だったというよりも、鳥栖の内容が非常に悪く、それを見逃すことなく勝つことができたゲームだった。鳥栖が「人」に対する守備が強かったためにスペースを埋めきれなかった。反対に仙台がそこをうまく利用できたことで終始ペースを握ることができた。

 

 サマーブレイク明けから守備の再整備を行い、また大岩のセンターバック起用や椎橋の台頭、そして古林や野津田といった的確な補強でチームの底上げができている。それに加え、前半戦ではなかった球際バトルで負けないという非常に重要な面も復活しつつある。

 徐々にではあるが新しいシステムでの最適解を見つけられている。やるべきこと、伸びしろはまだまだあるが、このシステムにおけるベースの部分は完成に近づいていると思う。

 

 監督コメントでもあったように鳥栖に勝ったことで上位・中位へ挑戦する資格を得ることができた。さらに上に行くために次のFC東京戦は勝たなければいけない試合となる。

 相手は監督交代直後で非常にやりにくいが、この勢いをさらに加速させ勝利できることを期待したい!