ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

我慢の末に待っていたご褒美~明治安田生命J1第20節 川崎フロンターレvsベガルタ仙台~

 さて、今回は川崎フロンターレ戦を振り返ります。

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

↓前回対戦時のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 ベガルタ仙台は、前節・浦和レッズ戦で0-2で敗北。連勝とはならなかった。今節は、川崎フロンターレACLを戦う関係上で前倒しでの開催となった。よって中2日しか準備期間がない仙台。その中で王者相手にどれくらい挑めるかがポイントとなった。

 スタメンは、ここまで主にルヴァンカップに出場していたメンバーが中心。前節からは8人のメンバーを入れ替える格好となった。

 一方の王者・川崎フロンターレは、今シーズンも圧倒的な戦いを見せ、首位を独走し、ここまで無敗を継続。今節もホームに仙台を迎え撃ち、しっかりと勝利を手にしたい一戦だ。

 川崎も多くのメンバーを入れ替えて臨む。こちらも前節・ガンバ大阪戦から6人の変更。小林が負傷明けでさっそくスタメンに供された。ベンチにはレアンドロ・ダミアン、家長、長谷川、遠野ら豪華攻撃陣が今節も控えている。

 

前半

(1)改めて考える仙台の守備におけるポイント

 相手が王者・川崎ということもあり、いつも以上に守備にウェイトを置いての試合となった。

 ここで改めて仙台の守備におけるポイントを整理できればと思う。

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  仙台は基本的に4-4-2の守備ブロック。中央を閉鎖し、なるべく外へ相手の攻撃を誘導し、サイドでボールを奪うことが基本的な守り方となっている。

 この試合では前線2人(皆川と匠)が田中を守備基準点とし、そこから守備をスタートさせる。

 中央に入ってくる相手に対してはスペース管理をしながら、縦パスに対して迎撃プレスで相手を追い出すもしくはインターセプトを狙う。

 サイドでは、強力な川崎のサイドアタッカーに対して、同数ないしは数的優位で守りたい。このときに大事になってくるのが「切られない」ことだ。

 この場合の切るとは、パスコースを「切る」という意味ではない。

 ボール保持側が外循環で、ボールを動かすときに、パスによって相手サイドハーフを越し、味方サイドハーフやウイングへ繋ぐことで、相手の列を越えていくパスのことだ。この「切る」という言葉自体は、渡邉晋前監督が利用していた言葉だ(例の本に記載されています)。

 

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  具体的に言えば、上図のようなパス。これは前節・浦和レッズ戦の1失点目の場面だが、西から関根へパスをしたことで西の対面だった氣田を越え、また仙台守備ブロックの列を越えることに成功した浦和は外循環から、今度は中への侵入できた。

 このように外→中へ出すための列を越えるパスを「切るパス」としている。

 

 仙台としては、強力なサイドプレイヤーがいる川崎に対して、極力このようなパスは出させたくないし、出ても対応できるような立ち位置を取っていたい。そういう意味では、このサイドの攻防は試合のポイントとなった。

 では、次に両サイドにおける攻防を見ていきたいと思う。

 

(2)右サイド~先制アンパンチとその後の対応~

  まずは仙台の右サイドからなのだが、開始早々にそんな「切るパス」から先制点を食らってしまう。

車屋から三笘への切るパス。

・列を越え、いい状態でボールを受けられた三笘。そして中間ポジションに旗手。

・仙台の守備が準備できてない隙に三笘から旗手、そこに登里が加わり突破。

・ファーで小林が仕留める。

 もちろん、車屋に渡るまでにサイドを簡単に変えられてしまっているところも問題だが、車屋から三笘へのパスを許し、旗手と登里を関わらせてしまった時点で、川崎に攻略の糸口を与えてしまったことになった。

 またファーで小林が仕留めるところも、恐らくこの試合で川崎が狙いとしてた攻撃がハマったというシーンだったと思う。

 

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 しかし、その後の右サイドはしっかり対応できていたと思う。というのも川崎の左サイドは登里と三笘が縦関係になることが多く、中原が迷うことがなかったからだ。

 仙台としては三笘に入ったときに真瀬と中原でしっかりコースを消すことで、川崎の攻撃をスピードアップさせないようにしていた。

 ゆえに1失点は、上手く試合に入れず悔いが残る結果となった。

 

(3)左サイド~相手の立ち位置に手こずる蜂須賀と加藤~ 

 反対に仙台の左サイドは、失点に結びつかなかったものの、切らせてしまうシーンは多かったと思う。

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 川崎の右サイドは、左サイドとは違い、小林が中へポジションを動かす。その分大外は山根が1人で担当する形になっていた。

 小林が中へ移動することで、仙台はそこを蜂須賀が対応。よって仙台も左サイドの守備は加藤だけになり、谷口のパスによって切られて、前進を許しクロスをフリーで上げられるシーンが多かった。

 それでも加藤は運動量が多いながらも山根へ食いつくことで、なんとか対応できたシーンもあり、かなり加藤は苦労しながら守備をしていた印象だった。

 

 ただ、不幸中の幸いだったのが、小林が中、山根が外と役割分担されていたことで、山根の「シン・なんでそこにいるんだ攻撃」が炸裂しなかったことは仙台にとっては助かった。

 

 内容としては開始早々に失点を許し、その後も追加点を奪われそうな浮足立った試合の入り方だったが、なんとか守り切って傷を1点だけに済ますことができた。

 前半は川崎が1点リードで折り返す。

 

後半

(1)左サイドの修正

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 仙台は後半開始からシマオ・マテと氣田を投入する。恐らく戦術的な理由ではなく、連戦によるコンディション面を考慮した交代だった。

 

 後半も試合の展開・構図は変わらず。仙台はスタートの立ち位置が左に加藤、右に氣田という配置だったが、相手の出方を見て開始10分後に加藤と氣田の立ち位置を変えた。

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 後半の仙台は左サイドの守備を修正。前半は切られることが多かったが、後半は照山が小林に、氣田が山根に付くということで、守備基準点を明確にした。多少サイドハーフが低い位置になっても、まずは失点をしないことを優先とし、いつもとは違う守備のやり方を取った。

 また、氣田が下がると、その手前のスペースが空くのだが、そこは匠やボランチがカバー。時にはマークを受け渡しながら守る姿が見られた。この修正で、少しずつ川崎の右サイドからの質の高いクロスも減っていった。

 

(2)目の上のたんこぶとなった皆川佑介

  守備に追われるチームのなかで、前線では1人皆川佑介が奮闘していた。

 ロングボールや縦パスを競ったり、収めたりして、なんとかチームの押し上げを図ったいこうとした。

 もちろん、ほとんどが成功しなかったが、この試合の皆川はほとんどの競り合いに対して先にボールへ触ることができていた。

 この試合の仙台の唯一の生命線と言って、皆川のポストプレーは川崎にとって不気味なものとさせていたと思う。

 

 川崎は64分に塚川をアンカーの投入しているが、恐らく皆川対策もあったと思う。塚川が投入され以降は皆川に対して塚川が競り合うことがほとんどだった。

 川崎としては仙台の生命線である皆川を断つことで、攻撃を無効化し、さらに押し込むこと、そしてレアンドロ・ダミアン、長谷川、遠野といったメンバーを投入することで、追加点を奪うことがゲームプランだったのではないだろうか。

 

 しかし、塚川を投入して以降も、皆川はしっかり競り合いに勝って、不気味な存在として前線に君臨してくれた。このことが74分の同点ゴールへと結びつく。

  皆川と塚川との競り合いから氣田がボールを拾うと、そこからドリブルで仕掛け、シュートまで持ち込む。氣田のシュートは丹野に弾かれるものの中原が詰めて同点に追いつく。

 皆川の頑張りが生んだ得点。またこのシーンでは匠がサイドへランニングすることで、谷口を引っ張り、氣田への花道を空けることができた。陰ながらのナイスプレーだった。

 

(3)アピアタウィアが与えた隙。マルティノス劇場開演。

  同点にされた川崎は、すかさずレアンドロ・ダミアンと遠野を投入。攻撃のギアをさらに上げる。そして83分に再び突き放す。

 登里のスルーパスに反応した三笘が決めて勝ち越し。

 仙台としてはアピアタウィアが、遠野に食いつきスペースを与えたことが決定打となった。中央では迎撃プレスを行う仙台だが、アピアタウィアは人への意識が強いせいか、このようにスペースを与えてしまう。そのスペース管理をしっかりやっていくことが、アピアタウィアにとっての課題だろう。

 

 その後、川崎はジェジエウを投入し逃げ切り体制を取る。一方の仙台は、マルティノスを投入。ここからマルティノス劇場が開演する。

 手始めに右サイドから切り込むマルティノス。登里との接触でお腹を痛めるマルティノス。審判に文句を言うマルティノス。それを見かねた武腰通訳に引っ張られながらピッチへ出るマルティノス。懲りずにカットインを狙うマルティノス

 そして90+5分。照山からボールを受けて強烈なミドルシュートを右隅へ決めるマルティノス。仙台は土壇場で王者に追いつくことに成功した。

 そして試合は終了。マルティノス劇場もあり、仙台は敵地・等々力で勝点1を持ち帰ることに成功した。

 

最後に・・・

 またしても土壇場で追いついての引き分け。今シーズン4つの引き分けのうち3つがアディショナルタイムに追いついての引き分けだ。ある意味で非常に手倉森監督らしいなと思う。

 ターンオーバーを採用しながら、試合序盤こそ危うかったものの、王者相手に動じずに粘り強く戦えたと思う。もちろん川崎にもミスが目立つ試合だったが、大きな自信としたい。

 皆川は、最前線で自分の存在価値をアピールできたと思う。中原はルヴァンカップから調子の良さが見て取れたがようやく報われた。氣田もなかなか波に乗れてなかったが、少しきっかけが掴めたと思う。

 こうやって戦力の底上げができればチーム内競争が上がり、チームのレベルアップにもつながる。そういう意味でも、今後につながる戦いができたのではないだろうか。

 

 次節はホームでアビスパ福岡との対戦。川崎フロンターレとは対照的なチームとの対戦。堅い守備から縦に早い攻撃が特徴だ。

 なるべく相手の戦いやすい土俵へは上がりたくない。まずは川崎戦同様にしぶとく戦い。我慢比べを制したい!!