ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

手堅いスタート~J1 第1節 ベガルタ仙台vs浦和レッズ~

 さて、今年も開幕しましたね、Jリーグ!ということで今回は開幕戦・浦和レッズ戦を取り上げます。

 

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 このオフのベガルタ仙台は、主力選手の移籍に伴い大幅な選手の入れ替えがあった。今シーズン新たにベガルタ戦士となったのは10人。そのなかで、兵藤と長沢が先発に名を連ねた。

 昨シーズンは天皇杯決勝で悔しい思いをした仙台であるが、その悔しさを糧に今シーズンは悲願の初タイトルを目指す。

 

 浦和レッズは、先週にゼロックスを戦い、川崎フロンターレに0-1で敗れた。その試合から左ウイングバックのポジションに山中が変わって起用されている。なお、右ウイングバックには宇賀神が起用された。

 昨シーズンは天皇杯のタイトルを獲ったが、浦和が欲しいのはアジアとリーグのタイトル。今シーズンは充実の選手層で両方のタイトルを狙う。

 

前半

(1)なぜ仙台はハイプレスを仕掛けられなかったのか?

 昨シーズンの失点数の反省から今シーズンのテーマに「守備」を挙げている渡邉監督。特に前からプレスを掛けてアグレッシブにボールを奪おうというのが狙いである。

 この試合でも開始から浦和のビルドアップ隊に対して積極的にプレスを仕掛けていくシーンが見られ、それに加えて奪われた後の切り替えが素早くなり、即時奪回、また相手の攻撃を遅らせるプレーはいくつも見られた。

 

 しかし、時間が経過するとともに仙台は前からプレスを仕掛けられなくなっていく。

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 浦和は3バック、仙台は3トップと同数であるので前からプレスを仕掛けられやすいように見えるが、アンカーのエヴェルトンがいることが非常に厄介だった。

 エヴェルトンを加えると浦和は4枚、仙台は3枚なので浦和の数的優位となり、仙台が無理やり前からプレスを掛けてに行くと、エヴェルトンのところで剥がされてしまう構造になっていた。

 それゆえに、仙台もエヴェルトンが気になり、なかなか積極的に前から行くことができなかった。

 時間の経過とともに長沢がエヴェルトンにプレスを掛けに行ったことが、その象徴といえよう。

 

 加えて、浦和のインサイドハーフである長澤と柏木が仙台のシャドーの背後にポジションを取ることで、仙台のボランチが引っ張られ、縦パスを通されることも多くなった。

 このように、浦和の3センターの動きやポジションによって仙台はなかなか前プレを仕掛けられず、徐々に浦和がボールを持つ展開へとゲームの流れは変わっていった。

 

(2)自陣撤退したときの守備強度

 自陣に撤退し5-4-1のブロックを形成して守ることとなった仙台。もちろん自分たちが理想としていた展開ではなかったが、それでもこのような状況をしっかり受け入れることで浦和の攻撃に冷静に対応していった。

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 特に良かったのは、浦和が縦パスを入れたときの対応だった。この試合の仙台は5バックがいい距離で守れていたことで、チャンレジ&カバーのポジションをしっかり保てており、おかげで浦和の2トップに入ったときはしっかり3バックが迎撃することとボランチがプレスバックしサンドすることで、2トップに自由を与えなかった。

 浦和の攻撃に対して、自分たちの「前」でプレーさせることで危ないシーンを作り出すことなく、しっかりと守れていた印象だ。集中力の高い守備だったと思う。

 もちろん、縦パスを入れさせてしまうことは良くないし、縦パスを入れる選手に対して、しっかりプレッシャーを掛けることが最優先である。しかし、この試合でできた縦パスが入ったところでしっかり芽を摘む守備は、それはそれでしっかり評価できる部分だと思う。

 

(3)相手のプレッシャーを無効化する

 今年の仙台に加わった新たな武器として長沢の「高さ」がある。前線にポイントがあることで、相手の前プレに対して「逃げ場」を作ることができるのは昨シーズンと比較して大きく変わったことだ。

 そしてその「高さ」がさっそく生かされる試合となった。

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 昨シーズンまでであれば、相手が前プレに来るとそれを剥がすことができずに、最終的に石原にロングボールを蹴り、それを相手に回収されるというシーンが増えていった。

 この試合の仙台は、ボール保持時に富田が降りて4枚になり、浦和のプレス隊を剥がそうというポジションを取る。

 浦和も例外なく、2トップと3センターで仙台のビルドアップを阻害しに来る。

 そのときに仙台は無理にボールを繋ぐことより、まずは前線の3枚を目掛けてボールを送っていた。この試合は長沢、石原、ハモンとボールを収められる選手を前線に揃えており、ボールを繋いでいくことよりも、ロングボールを前線に送って収めたところから全体を押し上げていく形を狙っていたのかもしれない。

 おそらく、渡邉監督も昨シーズンの対戦から考えて、浦和が前からプレスを仕掛けてくるということを念頭に置いていたのだろうし、そうなったらまずは前線を見ようということは準備していたのだと思う。

 

 しかし岩波、マウリシオ、槙野の3バックは個人能力が高く、簡単にはボールを収めることができなかった。ハモンは何回かボールを収めていたのだが、そこから自分で持っていくことを優先してしまい、最終的に槙野にボールを取られる場面が多かった。ここをシンプルにプレーできるようになると、全体をスムーズに押し上げられると感じた。

 前半はスコアレスで折り返す。

 

 

後半

(1)セカンドボールを回収できるようになる仙台

 後半も前半と同様に、ボール保持する浦和、それに対して構えてロングフィードで前線を狙っていく仙台という構図でゲームが進んでいく。

 後半は前半に比べて、ロングボールで競った後のセカンドボールを富田と兵藤が回収できるようになり、そこからサイドへ展開することで、仙台もチャンスを作り出せるようになる。

 この試合で一番の決定機だった56分の長沢のヘディングシュートも、中盤でセカンドボールを回収したところからの展開だった。

 ボールを繋ぎながら前進させることを、ある程度妥協している仙台にとって、前線で競ることや中盤でそのセカンドボールを回収することは、この試合においての生命線となっていたが、後半はうまくボールを回収できるようになったことが良くなったポイントだろう。

 

(2)65分のプレーは今後の布石か

 後半になり、サイドからの攻撃ができ始めてきた仙台は、65分に興味深いプレーでサイドを攻略した。

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 その場面は、永戸と関口の関係で左サイドを突破しクロス、ファーで蜂須賀が合わせたがヘディングがヒットしなかったシーン。

 このシーンを巻き戻すと、中盤でボールを奪ってから攻撃が始まっているのだが、永戸がサイドで高い位置を取っている代わりに富田が永戸のポジションに落ち、そこを起点に攻撃が始まっていたのだ。

 永戸はサイドバックが本職であり、このような3バックの一角でも攻撃に加わることを求められていると思う。永戸が高い位置を取れるようにボランチが真ん中ではなく、斜めに落ちてくる形をチームとして再現性を持ってデザインできれば、とても面白いなと考えている。この辺りはこれからの試合のなかで注目していきたい。

 

(3)リャンの投入とバランスを崩したくない両者

 仙台は65分に兵藤に代えてリャンを投入する。兵藤は富田とともに広範囲をカバーし、そして奪ったボールを正確に味方へ繋いでいた。そんな兵藤は足が来ているとの判断での交代だった。

 

 リャンは広範囲に動いていた兵藤とは打って変わり、中盤の真ん中でアンカーのような振る舞いをしていた。

 投入直前に真ん中を割られたシーンもあったので、リャンにはなるべく真ん中を開けないことをタスクとして託していたのかもしれない。

 ボールに絡むプレーは少なかったが、富田とバランスを取りながら中盤に穴を開けずに、ブロックを組んだ時にもしっかりバイタルエリアをケアしていた。この交代は守備強度を保つのに効果的なものだったと思う。

 本人としては奪ったボールを前線へと供給し、自身も飛び出していきたかったと思うが、我慢をしながらしっかりチームのバランスを保っていた。

 

 この交代くらいからお互いに、バランスを崩したくないという意思が見え隠れしはじめ、ゲームを徐々に膠着状態になっていく。

 浦和もバイタルエリアをしっかり埋められたことで、なかなか決定機を作りだせない。一方の仙台も守備疲れもあって、なかなか前線へとパワーのある状態で飛び込むことができなかった。

 おそらく、どちらかがバランスを崩せばゲームが動いていただろうが、お互いにバランスが崩れるのを待っているような展開で、どちらも動きづらくなっていった。

 そんなミス待ちの展開は、最後まで崩れることなく試合終了。スコアレスでのシーズンスタートとなった。

 

最後に・・・

 オリヴェイラ監督の言葉を借りれば「勝ったかもしれないし、負けたかもしれない試合」だった。非常に手堅く、渋い試合を開幕ゲームからした両者だった。

 

 仙台としては課題としていた守備で一定の収穫を得られたことは良かった点だと思う。5バックとダンを中心に集中した守備ができたことはトレーニングの成果といえよう。

 攻撃に関しては、前線3枚が新しいユニットであるので、これからまだまだ詰めていかなければいけない。しかしこの試合では、長沢の高さやハモンの打開力が見られたのは良かった。あとはそこが個々人ではなくグループとして力を発揮することができれば、ゴールへの期待も大きくなっていく。

 

 開幕戦ということもあるのかもしれないが、この試合は非常にリアリスティックな采配をした渡邉監督だった。

 今年はタイトルを獲るうえで理想だけではなく、このようなリアリスティックな部分も追及していくのではないだろうか。

 昨シーズンまではボールを保持して攻撃していくスタイルを構築してきたが、今年はもっと戦い方に幅を持たせようとしている感じがした。

 個人能力が劣るチームだけあって、相手のやり方に対してしっかり色々な策を持てるチームになりたいのかもしれない。なので、ボールを繋ぐだけではなく、今節のように前プレに対してロングボールで回避しようという試合は今後も増えていく気がする。あくまで個人の見解ではあるが、そういうチームになっても面白いなと思う。今後の戦いが非常に楽しみだ。

 

 次節は、アウェイでの横浜Fマリノス戦。昨シーズンたくさんの苦渋を味わったチームだ。さっそく今年の守備強度が試される一戦となる。昨年のリベンジを今シーズン初勝利を掴み取りたい!!