ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

メンタル的に大きな1勝~J1第17節 サガン鳥栖vsベガルタ仙台~

 前半戦も折り返しです。今回はサガン鳥栖戦を取り上げます。

 

f:id:khigu:20180722223921p:plain

 前節・マリノス戦、8失点で大敗したベガルタ仙台。今節はシステムを3-1-4-2に変更した。出場停止明けの板倉、新加入の矢島がスタメンに。同じく新加入のハーフナー・マイクはベンチスタートとなった。

 ここまで17位と不調が続くサガン鳥栖。この中断期間にはあのフェルナンド・トーレスを獲得し、韓国修行へ行っていた豊田が復帰、長崎から乾大知も補強した。3人ともベンチスタート。スタメンでは藤田と田川が前節と代わってスタメンに名を連ねた。

 

前半

(1)仙台のボール保持、鳥栖のボール非保持

 

 前半は、お互いのボール保持・ボール非保持について考えていきたい。まずは仙台がボール保持、鳥栖がボール非保持のとき。

f:id:khigu:20180724214404p:plain

 仙台のシステムは3-1-4-2、鳥栖は4-3-2-1。図で表すとこんな感じでミラーゲームになることがわかる。

 鳥栖は仙台のボール保持時の立ち位置にマッチし、守備の基準点がハッキリしやすい形となった。ゆえに開始から前線3枚のプレッシングを合図に前プレを敢行していく鳥栖だった。時間が経過し、ブロックを組んだときも、おおよそのポジションは変更しない。ボールを持っている相手に対して常に前に立っている状況を作り出していった。

 

f:id:khigu:20180724214722p:plain   

 そんな鳥栖の守備に対して仙台は、ウイングバックを起点に攻撃することが多かった。特に右サイドでは蜂須賀がボールを持ち、左サイドバックの吉田を引き出すと、その裏に奥埜が抜け出すプレーが行われてる。余談ではあるが、この奥埜の抜け出しを「チャンネルラン」と言うらしい。

 一方の左サイドはというとこちらは停滞気味だった。なぜかというと、3バックがボールを持ったときに矢島が左の脇へと落ちてくる。このプレー自体は相手を動かすプレーとしては定番なのだが、そのことで3バック(図では板倉)から中野へのパスラインが消されてしまい、ここでは悪手となってしまった。

 矢島は奥埜同様に裏へ抜けるプレーか、中野から経由してボールを受けたほうがスムーズにボールが循環できていたかもしれない。

 

 仙台はこの試合、ボール保持時に全体的な距離感が遠かったように思う。おそらく裏へ抜けるプレーを狙いとしていたことが原因の1つ。そしてもう1つは、鳥栖の守備に対して1人1人が相手を動かそうとしてしまい、結果的に間延びをしてしまったのではないか。

 前半の仙台は、組織的に剥がせたプレーは少なかった。全体の距離も遠かったので、ボールを奪われた後の切り替えも遅くなり、カウンターを受ける場面も多かった。そうなると長い距離を戻らざるを得なくなり、体力の消耗にも繋がってしまう。このあたりは修正のポイントだろう。

 

(2)鳥栖のボール保持、仙台のボール非保持

 

 続いて、鳥栖のボール保持、仙台のボール非保持を見ていく。

f:id:khigu:20180724220114p:plain

 鳥栖はビルドアップの出口をサイドバックに設定した。仙台はブロックを作るときに5-3-2となるので、サイドバックが空きやすい。鳥栖としては定跡なやり方を採用した。

 ミドルサードからアタッキングサードでは、主にインサイドハーフ(原川と福田)がポイントなる。インサイドハーフが斜めに動き、仙台のインサイドハーフ(奥埜と矢島)を動かし、サイドバックからシャドーのパスコースを確保し、そこへ縦パスを入れるのが1つの狙いだった。

 そしてそこからサイドへ展開してのクロスや、仙台のインサイドハーフを動かしたところでミドルシュートを狙っていった。鳥栖インサイドハーフが頑張ることで、攻撃の形を作っている印象がいつもある。ここも例外ではなかった。

 

f:id:khigu:20180724220547p:plain

 そんな鳥栖は30分当たりでシステムを4-4-2へと変更している。おそらくさらに仙台を押し込みたいのが狙いだったと思う。現に前半は鳥栖ペースでゲームが推移していた。

 4-4-2になった鳥栖は、変わらずサイドバックのポジションから攻撃をスタートする。

変わったのは、左サイドの立ち位置。原川が落ちてきて、吉田が高い位置へ。そして左サイドハーフへ移った小野が、ハーフスペースへと侵入する。ワールドカップ決勝でクロアチアラキティッチがやっていた形だ。システムを変更してからスムーズにできていたので、今までやってきた形なのだろう。

 システムを変更した30分以降も鳥栖がボールを握り、攻撃していく時間帯が長かった。仙台も相手がシステムを変え、シュートも打たれながらも関を中心に凌いでいった。

 

 前半はスコア動かず、0-0で折り返す。フェルナンド・トーレスの出番はあるのかないのか。

 

後半

(1)仙台の中盤を動かす鳥栖

 

 後半開始から5分で登場するフェルナンド・トーレス。おそらく予定通りの交代だったのではないか。そんな鳥栖は前半と変わって仙台の中盤を動かし出す。

f:id:khigu:20180725223935p:plain

 鳥栖の前進は、主に右から左へのサイドチェンジから行われる。右センターバックキム・ミンヒョクから一個飛ばしで吉田へと送る。

 このことで仙台の中盤の3枚はスライドすることとなり、スライドした隙を突いて攻撃をしていこうというのが鳥栖の狙いだった。

 トーレスの後に、高橋義希も左サイドハーフで投入されるが、おそらく左サイドでのプレーのバリエーションを増やす意味合いが強かったはずだ。

 

f:id:khigu:20180725224316p:plain

 そんな鳥栖に対して仙台はインサイドハーフサイドバックへと対応するシーンが多くなる。

 しかしここで問題となったのは、3枚がスライドしたときの距離。奥埜が寄せたときの逆サイドの矢島の絞りが甘く、富田の両脇が空くことが多かった。直接危ない場面に繋がることはなかったが、このようなところも仙台のやり方に合わせていかなければならい部分だと思う。

 

(2)ポジトラからの攻撃

 

 後半は鳥栖が押し込む時間が長かった。仙台に対してうまくボールを前進させられたこともその理由の1つだろう。

 押し込まれる仙台としては、ポジティブトランジション(守備から攻撃への切り替え)からのカウンターが望みとなっていく。

 鳥栖が押し込み始めると、ボランチのところで原川ないしは高橋秀人が一枚残る形となる。鳥栖ボランチのエリアで仙台のカウンターを食い止められれば、二次三次攻撃へと繋げられるが、そこでボールが取れない。ゆえに仙台がカウンターを発動するというシーンが多くなっていった。これは後半の展開で地味に効いていった部分だ。

 また場面によるが、鳥栖のダブルボランチがどっちも上がってしまい、誰もフィルター役になっていないこともあり、その辺の整理はされていない印象だった。もしボランチがしっかり奪い切り、押し込み続けたら結果が変わっていた可能性がある。

 

 一方、鳥栖もカウンターからチャンスを作り出していた。特に仙台が攻め上った後に富田の脇が空くと、そこにフェルナンド・トーレスが登場するということが多くなる。トーレスのカットインからのシュート、トーレスのスルーパスからの吉田という2つのチャンスは、いずれも仙台の守備が整っていないときの攻撃だった。

 

(3)ジャーメインの投入と値千金の決勝弾

 

 カウンターが望みの仙台は、スピードのあるジャーメインを投入し、システム3-4-2-1

に変更する。

 結果論ではあるが、この交代で吉田に対してジャーメインが素早くプレスに行ったり、西村が左サイドで助けたりと、地味に守備において効いた交代とシステム変更だった。

 そして88分。平岡が中盤で奪い、蜂須賀へ。蜂須賀は中央でフリーになった石原へパス。その石原は裏へ抜け出したジャーメインへスルーパスを送る。ジャーメインが右足で上げたクロスは西村がプッシュし、先制点を奪う。我慢強く戦った成果が出た瞬間だった。

 このときの鳥栖も全体的に前への焦りが出て、全体的なポジションバランスがおかしくなっていた。

 

 残りの時間を上手くやり過ごし、タイムアップ。大敗のショックを拭うを勝利を上げることができた。

 

最後に・・・

 内容はどうであれ、大敗した後の試合で勝ち、心理的に非常に大きな1勝を挙げることができた。

 特に関を中心に守備陣はとても集中しており、トーレスが投入されたあとでも、しっかりと対応していたことがこの勝利の最たる要因だと思う。

 しかし前述の通り、決して内容はいいとは言えない。前半のような距離感の遠い立ち位置や、中盤のスライドが上手くいっていないなど、修正することは多々ある。まずはこのあたりをしっかりと修正していく必要があるだろう。今までやれてきた部分であるので、しっかりと修正できるはずだ。

 

 これで前半戦は終了。8位での折り返しとなった。気がつけば4位・札幌とは2差。十分にトップ5を狙える位置に付けている。

 次節は同じく勝点2差のセレッソ大阪との試合。近い順位の相手を叩き、このまま上昇気流に乗ることを期待したい!