ヒグのサッカー分析ブログ

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ハイレベルな攻防と気持ちを見せた守備~明治安田生命J2第37節 ベガルタ仙台vs徳島ヴォルティス~

 さて、今回は徳島ヴォルティス戦を振り返ります。

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↓前回対戦のレビューはこちら

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スタメン

 ベガルタ仙台は、前節・栃木SC戦で勝利。5連敗からようやく抜けることができた。栃木戦では攻撃時と守備時で立ち位置が変わる可変式を採用しさっそく伊藤色が見え始めた。今節はリーグ最少失点の守備と丁寧なボール保持をベースに戦う徳島との対戦。ホームの声援を背に難敵を倒したいところだ。

 仙台は前節からスタメンの変更はなし。ベンチには氣田に代わって石原がメンバー入りを果たしている。

 一方の徳島ヴォルティスは、ファジアーノ岡山を下し14試合負けなしとなっている。今シーズンはここまで21分けと勝ち切れない試合も多いが、着実にプレーオフ圏内へと近づいている。岡山に続いて仙台を倒すことで一気にプレーオフ圏内へ近づきたい一戦だ。

 今節はセンターバックの内田が出場停止。代わりに安部がセンターバックの一角を務める。また右サイドバックに新井、ワントップに一美を起用した。

 

前半

(1)前から人を捕まえに行く仙台

 前半はお互いにボールを保持する場面がありながら、両チームの駆け引きが面白い内容だった。前半はそんなところを振り返ることにしたい。

 

 まずは徳島がボールを保持する局面から。

 徳島のボール保持は基本的に4-3-3の陣形を崩さずに各選手が列やレーンを移動しながらパスコースを形成して前進をしていく。

 また両ウイングが斜めのランニングで後方からのロングフィードに抜け出すシーンも数多くあった。

 

 そんな徳島のボール保持に対して仙台は徳島陣内から人を捕まえて積極的に前からハメに行こうとする。

 仙台は徳島のセンターバックに対して中山とシャドーの一角がプレスに行く。ここは遠藤が安部に対してプレスを掛けることが多かった。またアンカーの白井にはフォギーニョが前へ出てきて捕まえる。

 徳島がサイドバックへボールを渡したら、ウイングバックが縦スライドでプレスに行く。右サイドの真瀬は、田向に対して迷わずに行けるシーンが多かった。一方の左サイドは、初めは新井に中島が行くのか蜂須賀が行くのかで迷いがあったが時間の経過とともに整理されていった。

 また、前線で人を捕まえる代わりに後方は同数を受け入れる。ロングボールで前線へ供給されたら3バックを中心に前を向かせず、奪いに行く。

 加えて徳島が仙台陣内へと押し込んだら、仙台は5-4-1のブロックへとシフトチェンジし、中央を堅く守って対応していった。

 仙台は敵陣では積極的に人を捕まえボールを奪いに行く姿勢を見せて、自陣では割り切って守備をすることが整理されていた印象だった。

 

(2)仙台のボール保持vs徳島のボール非保持~ハイレベルな駆け引き~

 一方で仙台がボールを保持した局面では、短い時間のなかで多くの駆け引きが行われていた。

 仙台のボール保持は栃木戦同様に4-3-3で行う。中盤では中島とフォギーニョがポジションを入れ替えたり、遠藤が自由な動きからボールを引き出すことで、ボール保持を安定させていった。

 また自陣から組み立てていくだけではなく、センターバックからの対角フィードを織り交ぜながら一気に敵陣深くまで前進する。右サイドでは真瀬が、左サイドでは中島とポジションを入れ替えた蜂須賀が積極的に抜け出していくシーンが目立った。

 

 一方の徳島はキックオフから4-1-4-1の配置から積極的にプレスに行くというよりかはある程度構えて守備をスタートしていた。

 しかし、時間の経過とともに徐々にプレスを仕掛る。仙台のセンターバックに対して両ウイングが外切り(サイドバックへのパスコースを消す)しながらプレスを掛けるようになる。このウイングのプレスで縦パスを誘発させ、中盤で奪ってショートカウンターを狙うような形だったと思われる。

 

 しかし仙台もすかさず対応する。今度は若狭が内側に入って松下をサポートする。これでウイングのプレスを無効化し、かつ徳島のインサイドハーフをくぎ付けにする。この立ち位置を取ることで今度は徳島のアンカー脇が空くようになり、そこへ小畑やセンターバックからボールが送られることで徳島のプレッシングを掻い潜って前進することができるようになる。

 

 そんな仙台の変更に対して徳島はインサイドハーフの児玉を一列前に上げ、杉本と白井のダブルボランチにし、4-4-2の陣形で対応するようになる。

 この変更でアンカー脇のスペースを消し、また一美と児玉が松下と若狭を監視することで仙台が狙いにしていたことを消すことができた。

 この一連の駆け引きが20分から35分あたりに行われており、非常にハイレベルな駆け引きとなった。

 

 その後試合は、40分に遠藤が田向との競り合いで肘を突き出していしまい、これが2枚のイエローカードで退場となる。ここで一気にゲームの流れが変わった。

 残り5分を仙台は5-3-1の陣形に変更して、まずは前半をなんとかやり過ごしてスコアレスと折り返す。

 

後半

(1)3センター脇から攻め入った徳島と勇気を持って前へ出て行った仙台

 改めて仙台の陣形を整理すると、遠藤の退場後は5-3-1の布陣となり、松下のアンカーにフォギーニョと中島がインサイドハーフになった。

 一方の徳島は、前半終了間際にイエローカードをもらったカカから石井に代わっている。

 

 5-3-1で守備ブロックを組む仙台に対して、徳島は3センター脇のスペースを起点に攻め入ることが主な狙いだった。インサイドハーフサイドバックが受けて仙台の3センターにスライドをさせながら、隙あらばブロック内に侵入、または大外からのクロスからチャンス作り出そうとする。

 そして徳島が後半開始の早い段階で先制に成功する。

 仙台を押し込んだ流れから、新井のクロスに西谷が折り返して最後は一美が押し込む。

 仙台としては後半開始で、慎重になってしまったことでズルズルとラインを下げてしまい、簡単にクロスを上げさせてしまった。

 

 1人少なく、かつ先制点を許す苦しい状況となった仙台だが、それでも全員が勇気を持って前へ出て行く。それが実ったのが58分の同点ゴールに繋がった。

 自陣で若狭から松下へのパスで徳島のプレスを剥がし右サイドへ展開。そこから左サイドにもう1回展開し、攻め上がったキム・テヒョンのクロスに真瀬が合わせて同点ゴールを決める。

 ポイントは若狭から松下のパスでプレスを剥がせたことだろう。徳島のプレスが誰が誰に行くのかが曖昧になっていたこともあるが、若狭のパスで一気に展開をひっくり返せたので攻撃へ転じることができた。

 

(2)守備の強度を保ちながら耐え凌ぐ仙台

 仙台は同点直後に中島から石原に交代。65分には松下とフォギーニョを代えてリャンと名倉を投入する。連戦で疲労が溜まり、また3センターがスライドで頑張らなければならない展開で早めに3センターを変えることで守備の強度を保ちながら、前へ出て行くエネルギーも残す交代となった。

 

 一方の徳島は田向と一美に代えてエウシーニョと藤尾を投入。新井とエウシーニョサイドバックになったことで、彼ら自身が斜めに侵入したりブロック内へパスを送ることが増えていった。

 その後は70分に玄と浜下を投入し、早い段階で交代カードを切り終え、仙台の守備に対して何回も仕掛けていくが、クロが合わなかったり、ブロック内でのパスがズレたりして崩し切ることができない。

 

 仙台は77分に蜂須賀と中山から内田と富樫を投入する。終盤に差し迫っていくなかで守備に追われる時間が長くなり、徐々に疲労から前へ出て行くパワーがなくなっていく。

 それでも守備の集中力を保ちながら、3バックを中心に食らい付いていく。特に徳島がシュート態勢に入ったときに体を投げ出していったシーンが数多くあったことが印象的だった。

 アディショナルタイムにはフリーキックの二次攻撃からエウシーニョの折り返しに藤尾が合わせてネットを揺らすもエウシーニョのポジションがオフサイドと判定され、ノーゴールに。リプレイを見ると微妙な判定だったが、守備で耐えた仙台に最後は運が味方してくれたように思う。

 

 終盤まで集中力が切れなかった仙台は、10人でかつ先制点を奪われながらも追いつき、勝点1を獲得した。

 

最後に・・・

 前半は両者ともに非常にハイレベルな駆け引きがあり面白い試合だったが、退場者が出たことで内容が一変した。

 昇格を目指すなかで勝点3をホームで奪えなかったことは痛いが、10人で先制点を奪われた状況のなかでも、勇気を持って前へ出て追いつけたことは今後に繋がると思うし、守備でも体を投げ出して耐えれたことも残り5試合への試金石になったと思う。

 

 これで今シーズン最後の連戦が終わり、残り試合はすべて1週間の準備期間が作れる。伊藤色が出てきたなかで、プラスアルファで対戦相手に応じた対策を練られるかがポイントとなる。

 次節はアウェイで3位・ファジアーノ岡山との対戦。初の昇格を目指すなかで今一番波に乗っているチームと言っても過言ではない。まずはチャレンジャーとして、トレーニングからいい準備をして、岡山へ立ち向かって欲しい!!

 

ハイライト


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トンネル脱出!~明治安田生命J2第36節 栃木SCvsベガルタ仙台~

 さて、今回は栃木SC戦を振り返ります。

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スタメン

 ベガルタ仙台は、伊藤監督初陣となった前節・大分トリニータ戦では0-1の敗北。短い準備期間で変化を見せられたが、大分のボール保持に対して防戦一方の展開となった。連戦となる今節も再び準備期間が短いが、そのなかでどれだけ伊藤色を出すことができるのかが注目の試合となった。

 今節は3人のメンバーを入れ替えた。怪我から復帰した若狭、出場停止明けのフォギーニョ、蜂須賀がスタメンとなった。上図では3バックの表記としたが、仙台は攻守においてシステムが可変する形を採用した。この辺りは後ほど触れていきたい。

 一方の栃木は前節・横浜FC相手にスコアレスドロー。今シーズン3位の失点数にも表れている通り堅守を誇り、またチーム全体でハードワークする戦い方だ。降格圏とはいくらかの余裕があるものの、勝点を積み重ねてより安心できる順位に位置したい。

 栃木は4人のメンバーを変更。左バックに大森、ボランチに神戸、左ウイングバックには吉田、ワントップに宮崎が起用されている。

 

前半

(1)「4-3-3」によるボール保持

 前述したように、仙台はこの試合で攻撃時と守備時において異なる立ち位置を取る可変式を採用している。伊藤監督が甲府時代から得意としているものだ。

 まずは、ボール保持時の特徴から見ていきたい。

 栃木の5-2-3の守備ブロックに対して、仙台は松下をアンカーに置く4-3-3に変形する。

 この試合におけるボール保持のポイントは2つ。

 1つは、3トップの両ウイング(真瀬と中島)が高い位置を取ることで栃木のウイングバックをピン止めすること。これでウイングバックを押し込み、自陣でのボール保持を数的優位な状況で進める。

 もう1つは松下のアンカーである。松下は栃木のダブルボランチと3トップで形成される五角形の真ん中に位置して、攻撃のタクトを振るう。

 松下は直接センターバックからボールを受けることもあったが、センターバックから一度インサイドハーフ(遠藤とフォギーニョ)に縦パスを入れて、その落としを松下が前を向いた状態で受け、中山へ楔のパスを入れたり、サイドへと展開する。この試合は栃木の守備も松下を捕まえるのに苦労したことも相まって、松下は数多くのシーンで前を向いた状態でプレーできていた。

 しかし、栃木のそんな松下を放置し続けるわけにはいかない。栃木もダブルボランチが前に出て松下にプレスを掛けるようになる。

 そこで次に登場するのが若狭。若狭が松下の隣に移動し、松下からボールを受けたり、センターバックからボールを受けることで、仙台はプレスにハマることなくボールを前進することができた。

 そんな二段構えのボール保持の効果もあって、前半は非常にテンポよくボールを動かし、栃木陣内へと侵入できるシーンが多かった。

 

 そして35分に待望の先制点が生まれる。

 左サイドのスローインの流れから蜂須賀のクロスに中山が合わせて先制に成功する。

 このシーンでは松下が蜂須賀にスルーパスを送るが、その際に中島が黒崎をピン止めしたことで蜂須賀がランニングしたスペースが生まれた。ある意味狙い通りの得点だったと思う。

 

(2)「3-4-3」でのボール非保持

 一方のボール非保持では、3-4-3(5-2-3)を形成した。

 大分戦後の監督コメントでボールホルダーへのプレスができていなかったと評した伊藤監督。この試合では栃木の立ち位置に合わせることで、守備の基準点を明確にし、前線から積極的にボールをプレスを掛ける。

 また、プレスを掛けるだけではなく佐藤を中心にラインコントロールをしっかり行い、縦パスに対しては厳しく寄せることが徹底できていた。

 

 対する栃木も、ボール保持の際には谷内田がサイドに流れてボールを受けるなどの工夫をしてみるも、仙台の守備に対してなかなか有効な手立てを打つことができなかった。

 

 前半は、仙台が準備してきたボール保持の形から流れを掴み、エース中山のゴールで先制点を奪って後半へと折り返す。

 

後半

(1)ボール保持の安定と前線からのプレスから次第に押し込む栃木

 後半序盤も仙台がボールを握り栃木ゴールへと迫る時間帯が続いた。

 安定したボール保持から押し込めたので、後半は大きな変更点はなかったが、中盤の役割がよりハッキリし、遠藤は松下とともに捌くことが多くなり、フォギーニョはより中山に近いポジションで前線へ飛び出していくことが多くなった。よって、後半のフォギーニョは果敢に前線へと飛び込み、長い距離を走るシーンは目立った。

 

 一方の栃木もボール保持の形を整理して後半へと挑んでいた。

 栃木はボール保持の際に神戸が3バックの列に降りることで、仙台の前線3枚に対して数的優位を作ってボール保持の安定を図った。

 また、前半よりも前線からのプレスの強度を上げて、仙台のセンターバックやキーパーまでプレスに行くことでロングボールを蹴らせて、セカンドボールを回収する回数を増やすことに成功する。よって栃木は徐々に自分たちのターンを増やしていった。

 

(2)小畑を中心にゴールを死守する仙台

 栃木はこの流れを加速させるために、67分に髙萩とジュニーニョをシャドーに投入し、70分には両ウイングバックを交代して福森と森をウイングバックへと配置した。

 

 仙台は4人を交代した栃木はより押し込まれ、サイドからチャンスを作られるようになる。

 78分の谷内田のミドルシュート、それで得たコーナーキックから髙萩のヘディングシュートと連続してピンチを迎えるも、小畑のファインセーブで難を逃れる。

 

 仙台は遠藤と松下に代わって富樫とリャン、続いて蜂須賀に代わって内田が投入される。内田が投入された時点で5バックに固定し、1点を守り抜く方向へとチームの戦い方がシフトする。

 仙台は富樫が入ったことで前線でプレスが復活し、ボールを奪えるようになるも、全体が疲弊し始めたため、ミスからすぐに栃木へボールを奪われることが多かった。

 85分には若狭とフォギーニョに代わって平岡と氣田を投入する。

 

 その後も自陣でしぶとく栃木の攻撃を跳ね返した仙台。90分にはジュニーニョミドルシュートもあったが、三度小畑がセーブする。

 アディショナルタイム4分もしっかり守り切った仙台は、5連敗をストップし、6試合ぶりの勝点3を獲得した。

 

最後に・・・

 伊藤監督が就任し2試合目での勝利。短い準備期間だったものの、可変式を早速導入し一定の形が見えるなど伊藤色が見えた試合だった。

 原崎監督時代と大きく違うのは、原崎前監督はピッチ上においてある程度選手に自分たちで考えさせプレーさせていた面があったと思うが、伊藤監督はボール保持・非保持に関わらず立ち位置等が細かく決められている。だからこそスムーズにボールが前進するシーンもあれば、後半のように相手の前プレに苦しみ押し込まれるにもなる。

 後半の戦いを見れば、まだまだチームとして成長していく余地があると思うので、90分をどうオーガナイズしていくかは今後も楽しみに見ていきたい。

 

 次節はホームに戻って徳島ヴォルティス戦。栃木と打って変わってボール保持をベースにするチームに対していかに自分たちがボールを握ってペースをつかめるかが重要な試合となりそうだ。この勢いに乗って2か月ぶりのホーム勝利と行きたい!!

 

ハイライト


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