ヒグのサッカー分析ブログ

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最低限のノルマ~明治安田生命J1第33節 ベガルタ仙台vs大分トリニータ~

 さて、今回は大分トリニータ戦を振り返ります。ホーム最終戦

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 ベガルタ仙台は、前節・ガンバ大阪戦で敗れたものの、今節は引き分け以上で残留が決まる。ホーム最終戦で勝利し、残留を確定させたいところだ。

 前節、負傷交代した松下に代わって椎橋。2トップの一角に石原直樹が入った。

 一方の大分トリニータは、現在7位。片野坂監督のボールを保持するサッカーで、昇格初年度としては上々の成績を収めている。残りの試合も勝利し、1つでも上の順位でフィニッシュしたいところだ。

 今節は三竿が出場停止で、代わりに特別指定選手の羽田が初スタメンとなった。また小林裕紀も欠場。この試合では中盤を3センターにし、アンカーに長谷川、その前に小塚とティティパンという並びを採用した。

 

前半

(1)ガンバ大阪戦の反省を活かして。

 まずはじめに大分の戦い方を振り返ってみると、大分は自分たちがボールを保持して、ゴールへ迫っていくスタイルを標榜し、そのスタイルで昇格初年度のシーズンをここまで過ごしてきた。

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 この試合での大分のボール保持は、3-1-4-2を基本として、前線の4枚(オナイウ、三平、小塚、ティティパン)がポジションチェンジを繰り返しながら、ボールを受けて、前進させることを狙いとしていた。

 特に上図のように、三平とオナイウが縦関係になり、三平が中盤のエリアまで降りて、小塚やティティパンが2列目から飛び出すことは、大分がデザインしていた攻撃だったと思う。

 また、両ウイングバックが仙台のサイドバックを引き出して、その背後をインサイドハーフなどが狙う形や、左ウイングバック田中達也が仕掛けてクロスを上げるというシーンも多かった。

 13分の田中達也からオナイウのヘディングシュートの場面は、大分の1つの狙いが出た場面だった。

 

 では、そのような大分に対して仙台がどのような守備対策を行ってきたを、次は見ていきたい。

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 大分のボール保持攻撃で、そのポテンシャルを一番発揮するシーンは、キーパーからのビルドアップで、相手を大分陣内に呼び込み、相手の前プレを剥がすことで、背後にできたスペースにボールを運び、擬似カウンターを発動することである。

 なので、仙台としてはそのようなシーンを作られたくないので、基本的には大分にボールを保持させて、自分たちはリトリートしながら構えるという時間が長かった。

 この守備でのポイントはいくつかあって、一番のポイントは、久々に起用された石原の役割だった。石原はリトリート時には、アンカーの長谷川とデート(マンツーマン)で見ることで、3バックからアンカーへのパスルートを途絶えさせていた。このことで大分の攻撃をサイドへと誘導することができていた。

 また両サイドハーフは、相手の左右バック(岩田と羽田)とウイングバックへプレスに行ける中間ポジションをしっかり保ちながら守備をしていた。特に関口の守備での立ち位置は素晴らしく、いい立ち位置を取れていることで、相手のどの選手にボールが渡っても、プレスを掛けることができていた。

 加えてボランチのエリアでは三平が降りて、2vs3の局面になるので、椎橋と富田がボールサイドの選手をスライドして掴まえるようにしていた。またオナイウに対してはシマオがデートして潰すように準備されてきた。

 

 前節のガンバ大阪も大分と同じ3-1-4-2のシステムを採用していた。ガンバ戦での反省点は、アンカーの遠藤を掴まえきれなかったことだった。遠藤を掴まえきれないことで、ガンバに押し込まれる展開となり、仙台は前へ出ることが難しくなった。

 その反省もあり、この試合では石原がアンカー番をすることで、同じ仇を踏まないようにしたし、それが大分のボール保持に対して非常に効果的だった。

 ガンバ戦の反省を活かしたことで、この試合では安定した守備を実現することができた。

 

(2)松下のタスクを複数で補う。

 この試合における仙台のもう1つのポイントは、松下のタスクをどう補うかであった。今シーズンの松下のタスクは多岐にわたり、ボール保持時の展開・配球はもちろんのこと、ポジティブトランジション(守備から攻撃への切り替え)時の前線へのスイッチャー。そして守備でも激しい守備でボールを奪い取ることができ、気がつけば松下に頼っていた面が大きかった。

 そんな多岐にわたるタスクを、仙台は複数のメンバーで補うことで、松下欠場の穴を埋めた。

 それが、この試合で起用された石原と椎橋だった。

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 石原のタスクは、前述した通りにアンカーの長谷川を監視することと、もう1つはポジティブトランジション時にカウンターの起点となることであった。

 奪ったボールを一度石原へ収めて、その時間を利用して両サイドハーフが押し上て、そこへボールを渡すことで、カウンターを発動させていった。

 特に前半は、石原から道渕という展開からチャンスを作ることができた。後半の追加点も石原が収めたところを起点としたカウンターだった。

 

 椎橋は、リトリート時のボランチエリアのスペース管理はもちろんのこと、ビルドアップに参加し、ボール前進させることがタスクだった。

 しかし、椎橋がビルドアップに参加しても、うまく大分の前プレを掻い潜るシーンは少なかった。これはビルドアップ隊の技術面やトレーニング量の少なさも影響していたところがあるので、一概に椎橋の影響とは言えない。だが、それでも個で解決できる松下の存在の大きさを思い知った場面でもあった。

 

 前半は、26分にコーナーキックのサインプレーで道渕が先制点を挙げる。セットプレーで先制したことに加えて、前述した守備が機能し、1-0のリードで折り返す。

 

後半

(1)大きな展開とセンターバックを引き出そうとする大分

 同点を目指す大分は、後半に入り、攻撃面で修正を施した。

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 前半でもあったが、大分は大きなサイドチェンジを多用するようになる。

 特にアンカーの長谷川や小塚から右サイドへ展開し、松本と岩田のコンビで仕掛ける形が増えた。

 一番狙いとしていたのは、上図のように大きなサイドチェンジをし、仙台のスライドを強要させ、ずれたところで、松本→岩田でダイレクトのクロスを上げる形。仙台の守備視野をリセットさせて、時間を掛けずにクロスを上げることで、仙台の守備を揺さぶろうとしていた。

 

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 また、前半の大分は仙台のサイドバックの背後にインサイドハーフが出ていくシーンが多かったが、後半は2トップが出ていくようになった。

 2トップが出ていくことで、仙台のセンターバックを引き出し、そして中央のスペースが空いたところにクロスを送るような形。

 後半の頭にオナイウがシマオをサイドで抜いて、三平がフィニッシュする決定機があったが、あのような形を狙いとしてた。このシーンは大分にとって、この試合一番の決定機だったと思う。

 

 ただ、仙台としては大きな展開も、2トップの抜け出しも前節対戦したガンバ大阪戦で経験済み。なので、焦らずにしっかり対応できていたと思う。またガンバ戦と違い、先制点を取れていたことも大きかった。

 

 (2)狙い通りの追加点

 焦れずに守備をする時間が長かった仙台だったが、61分に追加点を奪う。

 小塚のパスミスを奪ったところからカウンターが発動。関口から右サイドを駆け上がった蜂須賀へ。蜂須賀のアーリークロスにニアで長沢が合わせて、効率よく2点目を奪う。

 前半にも同様なシーンがあり合わせられなかった長沢だったが、後半はしっかりニアで合わせることができた。第23節の川崎戦以来の得点。守備で奮闘する試合ばかりだったが、ここで一つ報われたように思える。

 

 その後の大分は、小林成豪を投入し、3-4-2-1へシステム変更。ミシャ式をするようになり、列を降りる長谷川が石原のマークから解放されたことで、大分が再び押し込む展開となるが、2点リードしている仙台も焦らずに跳ね返しながら、時計の針を進めていった。

 

 仙台は、リャンと大岩を投入。大岩投入時に、5-4-1にシステム変更を行い、抜かりなくゲームをクローズさせた。

 そしてそのままタイムアップ。ホーム最終戦を2-0で勝利し、来シーズンのJ1残留を確定させた。

 

最後に・・・

  ホーム最終戦で勝利し、1試合残して残留を確定。最低限のノルマを達成した。

 ゲームの内容としては、今年戦ってきてたこの4-4-2の戦い方の総決算のような内容だったと思う。セットプレーで先手を取り、その後も抜かりなく守備をして、カウンターから追加点を奪う。理想的と言えば理想的な内容だったと思う。

 

 ただ、試合後のコメントやセレモニーで渡邉監督は、これが目指すべき戦い方や形ではないと断言していた。

 今年は多くのメンバーが入れ替わり、昨年とは180度違うサッカーとなってしまった。いわゆる弱者の戦い方というものだったと思う。

 その選択を決断できる渡邉監督は、すごいと思う一方で、やはり毎年切って張ってを繰り返している現状では、この先のクラブの未来はないというのは、とても頷けるものだった。

 

 僕は経営面とかには興味がない。ただサッカーの中身に興味がある人間だ。ただ、今回の渡邉監督の言葉を聞いて改めて思ったのは、理想とするサッカーを目指すには、お金が必要ということだ。

 現場とフロントの両輪が上手く回ってこそ、目指せるものなんだと思う。その両輪が今上手く回っているのか。そういう危機感みたいなのを渡邉監督はあの場で提示してくれたのかなと、だからこそのビジョンの明確化なんだと。

 今まで目を塞いでいた問題と向き合う時期に来ている。それを提示できる指揮官はそうそういない。それだけ渡邉監督はベガルタを愛してくれているのだと。幸せなことだと思う。

 まずは素直に来年もJ1で戦えることを喜びたい。そして、この先も日本のトップリーグで戦えるために、僕たちも一緒に考える必要があるのではないだろうか。

 

 まずは、最終節のサンフレッチェ広島戦。このメンバーで戦えるのも残り1試合。広島の地で最後まで勝利を目指して、いい締めくくりができることを期待したい!!