ヒグのサッカー分析ブログ

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炙り出された課題~明治安田生命J1第19節 ベガルタ仙台vs鹿島アントラーズ~

 さて、今回は鹿島アントラーズ戦を振り返ります。ダンのラストゲーム

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 前節・浦和レッズに敗れ、4連勝がストップしたベガルタ仙台。今節は体調不良で欠場していた蜂須賀が復帰。一方で負傷したシマオ・マテは欠場し、大岩がセンターバックの一角として起用された。また、前節退場した椎橋に代わって富田がスタメンになっている。ダンのラストゲームを白星で飾りたい仙台である。

 一方の鹿島アントラーズは、今夏に安西と安部、鈴木が海外へと旅立った。そんな鹿島のスタメンは、前節・ジュビロ磐田戦と同じメンバー。連勝を目指す一戦だ。

 

前半

(1)仙台の守備を逆利用する鹿島のセットオフェンス

 前半は、序盤から鹿島がペースを握り、16分にセルジーニョのゴールで幸先よく先制する。そんな鹿島はどのように仙台の守備を攻略したのか。まずはここを見ていきたい。

 

 鹿島のセットオフェンスには大きく2つのやり方があったが、その2つともに共通している点があった。

 それは仙台の守備を逆利用することだった。仙台の守備は人への意識が強い。人に突くことで、守備の基準点(誰が誰を見るか)を明確にし、また基準点が明確なことで強く相手に当たることができる。そして相手にプレッシャーを与えることで自分の背中を取られない守備を実現することができた。

 このことで、仙台の守備は安定し、4連勝という成績も収めることができた。

 

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 しかし、この試合では鹿島はその仙台の守備ルールを上手く逆利用することで、攻略をすることができた。

 人への意識が強い、誰が誰を見るかを明確にする守備のデメリットは、その相手に対してどこまで付いていくかということである。

 この試合の鹿島は、中盤と前線の選手が頻繁にポジションチェンジを行い、仙台の守備基準点を狂わせていった。土居やセルジーニョはサイドに流れてセンターバックを引き出したり、同サイドに登場することで数的優位を形成し、最終的には、仙台のディフェンスラインの裏を取ることで、一気に攻撃のスピードを上げることに成功した。

 また、鹿島が攻撃時に意識していたのは、仙台の選手間の距離を話すこと、そしてその空いたところへランニングすることだった。

 例えば2枚目の図のように、大きなサイドチェンジからの展開で、仙台の守備にスライドを強制させ、選手間の距離を離したところに、2トップや2列目、はたまたボランチがランニングしてくる。

 仙台としては、守備の基準点が狂わされるので、強くプレッシャーに行けない、スライドを強制させられる、しまいには背中を取られるで、鹿島のセットオフェンスに対して完全に後手を取る形となってしまった。

 ここまで安定してきた守備だが、鹿島にしっかり研究されたことで、その仕組みを暴かれる形となってしまった。

 

(2)勿体無かった奪った後のプレー

 仙台の守備をしっかり研究してきた鹿島が見事な前半の内容だったことに異論はない。しかし、じゃあしょうがないねで結論付けられるかというとそうではないと思う。

 序盤は鹿島に押し込まれる展開になってしまったが、一番勿体無かったは奪った後のプレーだった。

 仙台の序盤の振る舞いを見ていると、ボールを奪った後に素早く縦へ付けようとするシーンが多くあった。しかし結果的に鹿島のネガティブトランジション(攻撃から守備への切り替え)でボールを再奪取され、再び鹿島のターンになることが多々あった。

 せっかく奪ったボールなのだが、縦に急ぐあまりに、アバウトなボールとなってしまい、個人能力が高い鹿島の選手に刈り取られてしまっていた。

 

 個人的には、もっとボール保持へと移行するような展開へと序盤から持ち込みたかったなと感じている。ボールを奪ってから、いったん落ち着かせることで、自分たちのターンへと持っていきたかったし、鹿島のボール保持する展開を自分たちがボールを保持することで減らしたかったと感じた。

 そういう意味では、序盤の振る舞いは鹿島の素晴らしさがあったのも確かだが、自分たちのゲームの進め方にも問題があったように思える。

 もちろんゲームのなかで鹿島のプレッシャーが想像以上だったのかもしれないが、やはりボールを保持するスタイルを目指してきた以上、そこをチャレンジして欲しかったという気持ちがある。

 

(3)ボール保持から自らのペースへ

 そんな仙台も鹿島の戦い方に慣れたのか、30分過ぎからボール保持の局面を作りだせるようになる。

 ボランチ1枚が、センターバック間または左斜めに落ちて、ビルドアップを安定させて、鹿島のプレスを落ち着かせられるようになった。

 そこからサイドからの展開で、鹿島のペナルティエリアに侵入できたり、シュートの回数も増やすことができた。

 

 このような展開を前半にできたからこそ、前述したように前半開始からこの局面をもっと多く作り出したかったなと。そうすればもう少し鹿島と互角にやり合えたかもしれない。

 

 しかし、ようやく反撃の糸口を見出した仙台だったが、45+1分に再び右サイドからの攻撃でセルジーニョが決めて、鹿島に2点のリードを許すこととなってしまった。

 1点差でハーフタイムを迎えられれば良かったのだが、時間帯としても相手としても痛すぎる2失点目を喫してしまった仙台だった。

 

後半

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 後半のメンバー。前半、筋肉系のトラブルで負傷した長沢に代わってハモンが投入されている。

(1)サイドから自分たちのターンを増やす仙台

 前半2点リードを許し、攻めに出なければならなくなった仙台。f:id:khigu:20190717221231p:plain

 後半は、前半のようにボランチが落ちて、ビルドアップエリアで数的優位を形成することよりも、サイドバックサイドハーフを高い位置に上げて、そこへ素早くパスを出すことが増えた。よって、後半の仙台は必然的にサイドからのクロスが増えていく展開となっていく。

 おそらく時間を掛けずにサイドへ展開することで、鹿島を自陣へと撤退させて、そこからクロス攻撃。そしてセカンドボールも自分たちが回収することで、自分たちのターンをより増やそうという狙いがあったと思われる。特に道渕と蜂須賀の右サイドからのクロス爆撃は多かった。

 

(2)焦らない鹿島

 そんな仙台の攻撃に対して鹿島はどうだったのかというと、さして振る舞いは変えてなかった。

 クロスに対してはしっかりセンターバックを中心に跳ね返していたし、2点のリードがあることで焦らず、落ち着いてプレーしている鹿島がそこにはいた。王者の風格というか。

 なので、鹿島としては自陣でのプレーは増えたものの、仙台の攻撃が怖かったり、否だったかと言われれば、そこまでではなかったように感じる。

 

 そんな鹿島は、66分に仙台のビルドアップを中盤で奪うと一気にショートカウンターを発動。右サイドからの素早いクロスにセルジーニョ。ダンが弾いたボールを白崎が流し込んで3点目。

 その8分後には、また右サイドから数的優位を形成し、一気に崩すとグランダーのクロスに土居が合わせて4点目。4点ともにすべて右サイドからの崩しからだった。

 これで勝負あり。0-4で鹿島が完勝。仙台はダンのラストゲームを勝利で飾ることができなかった。

 

最後に・・・

 完敗といった内容だった。鹿島に仙台の弱点を炙り出され、それを愚直に実行された試合となった。

 

 仙台の守備のテーマは「背中を取らせない」ことだと思っている。これを実行するために人へ強く、自分たちの前でプレーさせることが大事になっていたし、そこで輝いたのがシマオであった。

 この試合では、鹿島に仙台の守備をしっかり研究され、仙台の守備の背中を取る動きで、幾度も決定機を作られてしまった。

 おそらく、これはシマオがいたとしても同じようにやられた可能性がある。

 属人的な面が強かった守備だが、組織としてどうやって「背中を取らせない」守備を構築させるかという段階へ突入してきたのかなと思う。そういう意味では、また1つ壁ができたというか、成長できるチャンスを得られた気がする。

 

 あとは攻撃、特にボールを保持する時間を意図的に増やしていきたいなと。そうすれば守備の時間が減り、負担も増える。この攻守のバランスをどう取っていくかが今後の課題と言えるだろう。

 

 結果的に完敗だったが、自分たちの課題を把握できた試合でもあったように感じる。この課題と真正面から向き合うことで、さらにレベルアップすることを期待したい。

 次節は、アウェイでのセレッソ大阪戦。難敵ではあるが、勝利し連敗脱出といきたい!!