ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

希望の灯~J1第4節 湘南ベルマーレvsベガルタ仙台~

 さて、今回は湘南ベルマーレ戦を取り上げます。

 

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 開幕から3試合勝利がないベガルタ仙台カップ戦では連勝と好調を維持しているので、リーグ戦でもその勢いに乗っかりたいところだ。

 今節はルヴァンカップFC東京戦でゴールを決めた長沢とリャンがスタメンとなった。またベンチにはハモンロペスが帰ってきている。

 開幕戦・札幌戦では勝利したものの、それ以降は勝利のない湘南ベルマーレ。こちらも2勝目が欲しいところだ。

 前節・鹿島戦から大幅にメンバーが入れ替わっている。注目は右ウイングバックに入った高卒ルーキーの鈴木冬一だろうか。古巣対戦の古林将太もベンチに名を連ねている。

 

前半

(1)仙台はどうやって湘南を攻略しようとしたのか?

 今更書くのもあれなのだが、やはり湘南と対戦するときのテーマとなるのが、湘南のハイプレス、前線からの積極的なプレッシングをどうやって掻い潜るか、である。

 昨シーズンを思い出すと、8月のユアスタ対戦時にはハーフナーにロングボールを送ってプレッシングを無効化する作戦を行ったことは記憶に新しい。

 

 では、この試合ではどう攻略しようとしたのか。まずはそこを見ていきたい。

 試合開始から予想通り、積極的なプレッシングによって仙台を慌てさせたい湘南の姿が見て取れた。

 それに対して仙台は、ロングボールを利用して「逃げる」のではなく、しっかり「繋ぐ」ことを選択していた。

 湘南の前プレは脅威だが、ボールを繋いで、相手のプレスを剥がして弱め、湘南にボール非保持の状態(撤退守備をさせる)を作らせることができれば、仙台ペースでゲームを進められることができると計算したのかもしれない。

 仙台は、湘南が仕掛けるトランジションゲームのなかで、しっかりボールを繋いで、プレスを回避するシーンを作りだしていった。

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 仙台のボール保持の姿を見ると、3バックの左右(平岡と永戸)が幅いっぱいに広がっていた。

 この試合はミラーゲームであり、また湘南は前からプレスを掛けに来るので、相手のシャドーのポジションを広げさせ、その間に縦パスを通すことで、前プレ回避&前進を狙っていたのではないだろうか。

 特に湘南のボランチは、仙台のボランチが3バックの位置に落ちたときにも付いてきており、仙台はそのことで空く中央のスペースを狙いたかったはずだ。

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 しかし、現実は理想通りにはいかなかった。前線3枚とウイングバックが張りっぱなしで、動きがないためになかなかビルドアップ隊はパスを送ることができなかった。

 左サイドではリャンが気を利かせて下がってボールを受けるシーンが何回かあったが、右サイドは石原が張り出して動かないことが多く、右サイドの攻撃は手詰まり感が否めなかった。

 蜂須賀もレーンを意識してか、本来得意の外にいることも少なく(平岡がサイドに広がったため)、全体的に右サイドのバランスは悪かったなと感じるシーンが多かった。

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 そんなこんなで、湘南も前プレのやり方を変更する。25分過ぎから落ちるボランチに対して湘南のボランチが付いていかなくなる。

 そのぶん、シャドーの一角が中で山崎を助けて、サイドはウイングバックが気合の縦スライドで対応する。特に右ウイングバックの鈴木冬一が積極的に永戸へプレッシングを行うシーンが増えていった。

 この辺から仙台が後方で時間とスペースを得られなくなり、次第に長沢目掛けてロングボールを送るようになる。この時間帯から湘南が守備でペースを握ることに成功したと言えるだろう。

 

(2)3つのピン止めと自由を得られたシャドー

 

 湘南は、縦に早いアグレッシブなサッカーというイメージを持っている人が大半だと思うが、個人的にはそれが土台となっていて、曺監督が色々な要素を加えてアップグレードしているチームだと思っている。

 特にボール保持には明確な設計図と意図がある。この試合でもしっかりと意図を持ったボール保持を見せる。

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 湘南のこの試合におけるボール保持のカギは、「ピン止め」と「それによって得られる時間とスペース」だった。

 ボール保持時のシステムは、3-2-2-3のような形。上図はだいぶ大雑把な陣形だ。一方の仙台は5-2-3の構え。

 湘南はウイングバックがボール保持時に高い位置を取ってウインガーの振る舞いをする。いわゆる横幅隊だ。これによって仙台のウイングバックをピン止めする。

 そしてボランチは縦関係になる。齊藤未月はアンカーのようになり、松田はボランチの間に位置し、仙台のダブルボランチをピン止めする。しかし、この辺はボールのある位置によって横並びなったりと流動的だった。

 そしてこの3つのピン止めによって、得られたボランチ脇のスペースにシャドーが登場し、3バックからシャドーがボールを受けることで前進する仕組みとなっていた。

 なお、シャドーがボールを受けるとワントップの山崎や逆サイドのシャドーは裏を取る動きや仙台の3バックとボランチの間のエリア(バイタルエリア)に顔を出すようになる。

 シャドーにボールが入ることで攻撃のスイッチが入るのが、湘南のボール保持からの攻撃だった。

 

 仙台はこのシャドーにとても苦労した。落ちるシャドーに誰が付いていくか。平岡や永戸が行くのか。ボランチがスライドするのか。ちょっと曖昧なシーンが多くてなかなか整理できなかった。

 結局リャンと石原が落ちて5-4-1で守るような形になったが、この辺は湘南にしてやられたというか、うまく対応できなかったというのが本音だろう。

 

(3)前半ラスト5分の振る舞い

 前半は43分に湘南の見事な崩しによって先制される。

 疑問に残るのが、ラスト5分間の振る舞いだった。相手に押し込まれる展開のなかで、後ろの選手は蹴り出してセーフティーなプレーを心掛けていたにも関わらず、前の選手は時間帯関係なく、これまでと同様のプレーを行っていた。

 先制点のシーンでも小野田に対して石原がプレッシングのスイッチを入れたところから剥がされ、そこから1枚1枚剥がされて失点した形となった。

 セーフティーにプレーするべきなのか、時間帯関係なくプレーすることが正解なのかとか、そういう問題ではなく、やはりチームとして意識を共有できているかという問題である。

 11人がやるべきことを共有できれば、どちらでもいい。ただそこにズレが生まれてしまったゆえの失点だと思う。

 ここは意識の問題。キャプテン大岩をはじめ、しっかりコミュニケーションを取ることが大事だろう。そこは監督ではなくピッチの選手が決めることだ。

 

 ということで湘南の1点リードで折り返す。

 

後半

(1)ボール保持の安定によって、浮かび上がる不安定な部分

 誰が見ても前半の内容がよろしくないのは事実だった。狙いがあったとしても湘南との差を歴然と感じる内容だった。

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 ということで後半開始から動き出す仙台。長沢とリャンに代えて阿部と吉尾を投入する。これで石原を頂点にシャドーに阿部と吉尾を据える形になった。

 

 阿部と吉尾が入ったことで、前半に足りなかった中盤でワンクッションを入れるプレーが出てき始める。このことでボールを奪った後に落ち着くことができるようになり、仙台がボールを保持できる時間帯が再び増え始めるようになる。

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 仙台のボール保持時の形は前半とさほど変化はなかった。しかし前述したようにシャドーが中盤に効果的に落ちて受けることができるようになった。

 ボール保持が安定したことで最も利益を得ることができたのが左サイドだ。前節の神戸戦と同様に阿部が左シャドーに入ったことで石原崇兆と永戸が目覚める。阿部が中盤、特に相手シャドーとボランチの間でボールを受ける動きをすると石原崇兆はシャドーのポジション、永戸はサイドバックのポジションを取れるようになる。

 あとは前節同様に旋回攻撃から左サイドを突破し、クロスを上げるシーンも増やすことに成功していった。前半と違うところは仙台が目まぐるしくポジションを変えることで湘南の守備の基準点を狂わしたことだ。

 兵藤を入れたこの4人のユニットは、徐々に完成に向かっていると思う。非常に連携が取れてきている。2019年バージョンの仙台の強みがこの左サイドになる予感がある。

 しかし、一方の右サイドが元気がない。前半にも記述したが、平岡が横幅いっぱいに広がることで蜂須賀がハーフスペース、というかインサイドの位置を取るようになっている。

 

 しかし彼らの特徴を考えると、これが正しいのかは非常に微妙なところだ。元々センターバックの平岡、サイドプレーヤーの蜂須賀という個性を考えたときに、この立ち位置が果たして正しいのか、効果的なのかというのはこの試合のなかで最大の謎だった。

 もしかすると何かトライしているのかもしれないし、彼らが自分たちで動いているのかもしれない。ここはもう少し様子を見ていきたい関係性だ。

 ついでに、2失点目も右サイドのポジションバランスが崩れたところが原因だった。平岡が大外で受けたときに孤立し、そこでボールを奪われてからのカウンターが失点に繋がってしまったことは事実だ。右サイドはどちらにせよ修正すべきポイントだろう。

 

(2)押し込もうと思えれば押し込める事実

 63分に山根のゴールでリードを2点に広げられた仙台。3枚目の交代はシマオに代えてハモンロペス。

 このことで吉尾と兵藤がボランチに、ハモンは右シャドーに入った。

 

 実を言えば、仙台は後半も湘南の前プレにてんやわんやだった。なかなかうまく前に運べない時間が続いていたのも事実。しかし阿部と吉尾のおかげでそれを解決できることもあったというのが、正確な見解か。

 シマオから吉尾にボランチが変わったことで、ボランチでボールを捌ける、広げられる、剥がせるようになる。吉尾はすごく頭のいい選手だと分かった。

 このことで湘南を撤退守備に追いやる時間をより増やした。そして前述した左サイドのアタックなどに繋がっていく。

このような展開は前半からやりたかった。もしくは増やしたかったのが本音だろうが、結果的にここまで時間を要することになった。

 押し込めるようになった仙台は、フィールドプレーヤー10人が敵陣でプレーすることもできるようになる。そして押し込んだ結果が、85分のハモンのゴールへと繋がる。

 この得点は、一見パワープレーのようにも見えるがしっかり仙台が全体で押し込んでいった結果だった。だからこそ、これをもっと早く出したかったのだが、、

 

 残りの時間は、湘南が秋野や中川を入れて守備の強度を保ちながらゲームを締めにかかる。

 仙台もサイドからセットプレーからチャンスを窺うが、同点ゴールを決めきることができず、ゲームオーバー。

 1-2で仙台は3連敗。開幕4戦して未だに勝ちなしとなった。

 

最後に・・・

 前半45分間が非常に勿体なく、ネガティブな内容を過ごしてしまった。

 後半に関しても記事内ではポジティブな面を取り上げたが、ここぞというところのパスやシュートの精度を欠いてしまっている事実はあり、そこは日々のトレーニングから意識を持って向上させてほしいと切に願うばかりだ。

 

 ただ、前節や今節のように左サイドで4人の関係性から崩す部分などを見ると、希望が全くないわけでもなく、チームは前へ進んでいるということも確かな事実だと思う。

 もちろん先ほども書いた個々の精度問題や、右サイドの問題、守備の詰めの甘さなど、修正点・課題としていることが山積みである。ただ、構造の問題はしっかり練り直せば問題はないと考えているし、あとは本当にトレーニングで向上心を持って取り組めるかだと思う。加えてルヴァンで好調だったメンバーを含めて、競争心を煽り、さらにチームの士気を高めていければ最高だ。

 

 残された時間がないことは確かだが、希望は見えている。あとはこの希望をどんどん大きくしていくことが大事だ。悪いときこそ、ポジティブなところを見つけていきたい。

 まずはしっかりこの2週間を有効利用してほしい。そして2週間後のホーム・セレッソ大阪戦での勝利を期待したい!!