ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

自分たちの想定を超えられる~J1第34節 ヴィッセル神戸vsベガルタ仙台~

 さて、ヴィッセル神戸戦の振り返りです。リーグ最終節。

 

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 ベガルタ仙台は、前節の鹿島戦で0-3を喫し、目標としていた5位以内を達成することができなかった。しかし、水曜日には天皇杯準決勝・みちのくダービーが待っている。モチベーションを落としている時間はない。失った自信を取り戻すために、この試合に仙台は挑む。

 仙台は水曜日のゲームを意識して、前節からメンバーを4人を変更。アンカーには富田、両ウイングバックには古林と関口。石原の相方にジャーメインを起用した。

 まさしく激動のシーズンを送ったヴィッセル神戸。昨年のポドルスキに始まり、かのイニエスタ、そしてリージョまでやって来た。三木谷オーナーが言うところのプロジェクトは着々と進行している状況だ。そして試合後にはダビド・ビジャの加入も発表された。来シーズンも目の離せないチームであることは間違いない。

 リージョ体制になってからの神戸が面白いのは、自分のサッカーに適応する選手を若手でも積極的に起用しているところだろう。キーパーの前川やセンターバックの宮は、リージョ体制になってから起用された選手。そうやって、若手や実績が乏しくても積極的に起用するところは、外国人監督ならではの部分ではないだろうか。

 

前半

(1)守備の狙いを消したスーパースターたち

 この試合の前半を振り返るに当たって、渡邉監督のコメントを借りることにしたい。

 

■前半の守備について、相手の最終ラインにプレッシャーが行けなくなった状態で、相手選手からパスが通ったようなところがありましたが、そこはどう守りたかったのですか。

 

 理想は、まず相手のセンターバックにもしっかりプレッシャーをかけにいくこと。我々の2トップがファーストDFとなって、相手のアンカーを消したところからプレッシャーをかけたい、というところが1番の狙いです。それができないときには、インサイドハーフがまずプッシュアップしましょう、というようなところを準備はしていましたけれども、イニエスタ選手とポドルスキ選手がだいぶ降りてプレーしてきていたので、そこで我々のインサイドハーフが前にかかれなくなったと。
 でも、それも織り込み済みだったので、最終的に我々はイニエスタ選手のところから前へのパスを出させずに、持たせていい場所と人はいたので、そのかたちに持っていきたかったのですけれども、少しずつずらされて、もしかしたら我々が慌てて取りにいったシーンはあったと思います。

 (2018 明治安田J1 第34節 ヴィッセル神戸戦 より)

  このコメントから見ても、この日の仙台にはしっかり守備の狙い、ポイントがあったということが窺える。

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 渡邉監督のコメントを図式化するとこの2枚のような形が理想じゃないかと思われる。

 ①では、2トップがアンカーへのパスコースを消しながら、サイドへボールを誘導させていく。そしてサイドバックにボールを付けさせて、そこへウイングバックが飛び出して対応する形。上手くは行かなかったものの、5分にこのような誘導の仕方で守備を行っていた。

 ②は、伊野波がアンカーからセンターバックの間に落ちてきたときに、神戸のビルドアップ隊に対して3vs2の状況になるので、そこを同数で守るためにインサイドハーフがプッシュアップし、対応する形。

 

 試合開始から10分までは仙台も前から限定しながら守備を行い、ボールを奪い取ってカウンターへと繋げられるシーンを作りだしていった。

 しかし、次第に神戸がボールを握る展開となる。その要因は動き出したスーパースター2人であった。

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 神戸のビルドアップは、センターバックが幅を取って、その間に伊野波もしくはキーパーの前川が登場する。

 その先を眺めると、インサイドハーフである三田と郷家が仙台のインサイドハーフと対峙する。またサイドバックセンターバックが幅を取るので、そのぶん高い位置を取る。

 そしてスーパースター2人である。イニエスタポドルスキも開始から数分は降りることなく、仙台の5-3のブロックのライン間にいる時間が長かったが、徐々に列を降りてくる。このことで、ミドルサードのサイドでは3vs2の状況が生まれ、数的優位ができる。

 また加えて、仙台のインサイドハーフミドルサードでの守備に追われてしまったことで、プッシュアップできずに、2トップを助けることができなかった。

 このことで、2トップも神戸のビルドアップ隊にプレスを掛けることができずに、神戸の攻撃ターンが続くことなる。

 

 そして特筆すべきなのが、イニエスタポドルスキは、味方、敵、ボールの動きや位置を見て、位置取りを変えるので、とにかく掴まえづらい。常に相手の背後を位置取りに翻弄され、仙台はこの2人にチャンスを創出する時間とスペースを与え続けてしまった。

 もちろん、前に挙げた渡邉監督のコメントでもこの状況は想定の範囲内だったのだが、ピッチで対戦している選手からしたら、想像以上のものだったのだろう。

 それでも多くの決定機を作られながらも1点で止まったのは運が良かったことだった。

 

(2)単調になってしまった仙台の攻撃

 前半の仙台の攻撃は、そのほとんどがカウンターかサイドからの攻撃だった。特に神戸はボールを取られたときの陣形が崩れていたので、仙台がカウンターを発動すると、かなりの確立でゴール前まで運ぶことができた。この辺りはスカウンティングしていたことだろう。ジャーメインをスタメンで起用したのも、守備で走れることに加えて、カウンターで迫力を持たせられることを考えたものかもしれない。

 

 しかし、ボールを保持したときの攻撃は、少し単調なものとなってしまった。

 神戸の守備は1列目の3人(古橋、ポドルスキイニエスタ)はそこまで深追いはしてこないので、簡単に1列目を突破できるのだが、仙台はインサイドハーフやジャーメインが裏へ抜ける動きをして、そこに合わせようとするボールが多くなり、ミドルサードを端折るプレーが多かったと感じた。

 ミドルサードでボールを持って、ウイングバックを押し出し、神戸を押し込むことができれば、もう少し厚みのある攻撃は展開できたのかなと思うし、ボールを保持することで、神戸の攻撃回数を減らすことができたのかなと思う。

 この辺りは、ゆっくり攻めるのか素早く縦に攻めるのかをインサイドハーフの2人がコントロールしてほしかったところ。できないことはないはずだ。

 

 しかし、42分に奥埜が退場となってしまう。2枚ともに相手に対して遅れてタックルに行ってしまっているので、カードは妥当なものだろう。

 リードされた上に、1人退場という苦しい状況で前半折り返すこととなる。0-1で後半へ。

 

後半

(1)仙台が後半に描いていたもの

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 後半の開始メンバーを整理すると、神戸はケガの三原に代わって藤谷が前半途中から出場している。一方、奥埜が退場となった仙台はジャーメインがインサイドハーフに入って、5-1-4-1の形となった。

 

 仙台が後半描いていたものは何か、再び渡邉監督のコメントを借りることにしよう。

 

 ■0-3になってから2人の選手を入れ替えて、4-4-1、今年初めての4バックにした意図を教えてください。

 

 「まずは0-1の状態を、後半の20分間しっかり保とう」という話はしました。「その20分を保った先に、4バックに変更するよ」という話を選手にはハーフタイムに伝えていました。ただし、その20分保たずに2失点目をしてしまったので、少し前倒しにして4-4-1にした、というところです。
 今日のゲームを迎えるにあたって、我々が3バックだろうが4バックだろうがしっかりと中を閉めてクロスを上げさせるところは織り込み済みで、むしろその前のスルーパスとかは脅威になる、という準備をしていたので、もちろん劣勢になった中で前に出ていかなければいけないし、5枚で後ろに余るよりは、4枚でコンパクトにして外はやらせるというところの方が、守備の狙いと攻撃の狙いが明確になると思いました。それで、先程も申し上げたように、少し前倒しでしたが、4-4-1にして、奪って出るようなシーンを多く作り出す、というような狙いがありました。

 (2018 明治安田J1 第34節 ヴィッセル神戸戦 より)

 

  以上のコメントから、まずは神戸の攻撃をしっかり自陣で耐えて、相手が焦れてきたときに4バックにすることで、前に出ていくというのが、渡邉監督が思い描いていたプランだった。

 

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 しかし、後半も神戸は仙台の3センターにインサイドハーフとスーパースター2人の4人の関係でポジションとボールを流動的に動かしながら、中央に穴を開ける作業を愚直に行っていた。

 そして53分に追加点を決める神戸。決めたのはイニエスタ。サイドからのボールを左ハーフスペースで受けると、古橋とのワンツーから簡単にペナルティへ侵入し、右足できれいに巻いてゴールを決めて見せた。

 ポイントはティーラトンからボールを受けるときに一気にスピードを加速していること。ここぞというところでのスピードの変化、獲物を見逃さない鋭い嗅覚は、さすがの一言だった。

 

 (2)死なばもろともの仙台

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 2失点目を失った仙台は、当初の予定よりも前倒しで4バックに変更する。石原と平岡に代えて、ハモンと阿部を投入し、4-4-1に。選手構成的には4-2-3とも言えなくはない。

 これで、死なばもろとも、肉切らして骨を断つ姿勢へと仙台は変わっていく。

 前半にも書いたが、神戸はボールを失ったときのポジションバランスが悪いので、カウンターに繋げられやすい。

 4-4-1にしてからの仙台は、ボールを奪うと、2列目の阿部とジャーメインが独力でボールを運ぶシーンが数多く見られるようになる。

 またハモンが懐かしの左ウイングへ流れる動きで、神戸のサイドバック裏に侵入できるようになり、次第に仙台もゴールに近づくシーンを増やすことができた。

 

 しかし、死なばもろともの仙台は守備で脆さを見せ始めて、63分に郷家にダメ押しの3点目を許してしまう。

 それでもなお、攻めの姿勢を見せることができたのは、ポジティブなところだった。73分には、阿部、ジャーメイン、ハモンの3トップの関係からハモンがゴールを決めて、1点返す。

 アディショナルタイムには、セカンドボールを奪った野津田からジャーメインが決めて1点差に詰め寄る。この時間帯には板倉と大岩も敵陣でプレーし、全員でゴールを奪おうという意思を見せてくれた。それが報われたゴールだったと思う。

 しかし、この2点目のプレーがラストプレーとなり、タイムアップ。2-3で神戸の勝利となった。

 

最後に・・・

 神戸戦に関しては、自分たちが想定していた内容のその上を神戸というかポドルスキイニエスタに超えられてしまったのかなというゲームだった。守備の強化・強度というものを改めて考えさせられる試合となった。

 

 天皇杯・山形戦に向けてという意味では、後半に決めた2ゴール、そして最後まで攻めようという意識をチームが持てていたことが希望である。

 ただ、試合を通して言えば裏へ抜けるランニングが増えた一方で、ミドルサード(いわゆる中盤)でボールをキープして押し上げたり、丁寧に繋いでいくということが少なかったのかなと。

 やはり、いいときの仙台はミドルサードでのプレーを丁寧にすることで、相手を剥がせたり、押し込めていたりしていたので、裏へ抜けるプレーと丁寧に繋いで押し込んでいくプレーはバランスよくしていくことが課題かなと感じている。

 

 

 ということで天皇杯・準決勝である。ダービーである。気持ちが高ぶらないわけがない。

 間違いなく厳しい試合になるだろう。簡単な試合になるはずなんてない。ただ、それを乗り越えた先に見えるものが決勝なのだ。

 今シーズン一番の雰囲気をスタジアムで作って、そして聖地・ユアスタで初めての決勝進出を手にしよう!