さて、今回は横浜Fマリノス戦を取り上げます。今シーズン5度目の対戦。
前節・長崎相手に0-1で敗れたベガルタ仙台。自分たちが表現したいサッカーができていたものの、最後に決めきれずにワンチャンスに沈んだゲームとなった。上位を目指す上で連敗は許されない。そんなゲームとなった。
今節もスタメン、ベンチともに変更はなし。ハモンは今週の練習で復帰したもののベンチ入りはしなかった。
横浜Fマリノスは前節・磐田戦で2-1の勝利。安定して結果が出ないだけあって、今やっているサッカーを信じていけるかにマリノスの将来は掛かってきそうな気がしている。
スタメンは前節退場となったドゥシャンに代わって畠中、ケガの伊藤翔に代わってウーゴ・ヴィエイラ。不調を訴えていた天野もスタメンに入った。
前半
(1)マリノスのボール保持構造と仙台の狙い
まずはこの試合においてのマリノスのボール保持における構造と仙台の狙いについて見ていきたい。
マリノスのボール保持はJリーグでも屈指の異色さを誇る。その理由はサイドバックの動きだ。通常のサイドバックであれば、5レーンの一番サイドのレーンである外レーンを上下動することが一般的だが、マリノスの場合は違う。
マリノスはサイドバックがアンカーの脇に登場し、ボランチないしはインサイドハーフのような振る舞いを行う。戦術クラスタ界隈で偽サイドバックとかアラバロールとか言われている形だ。
サイドバックが中に絞ることで、ビルドアップ時に多くの人数を掛けることができ、安定したボールを保持を行えるようになる。また、ボールを奪われたとき(ネガティブトランジション時)にも、真ん中にいることで相手のカウンターへの対策になることがメリットである。
もちろんデメリットもある。それは、可変式であるために攻撃と守備が切り替わったときに移動する時間があるということだ。サイドバックがボランチに登場するということは、奪われた瞬間はサイドにスペースが生まれやすくなっているということになる。
仙台としては、このマリノスのデメリットをうまく突きたい狙いだった。ボールを奪ったら、中央からサイドへと素早く展開することで、カウンターないしは敵陣への侵入ポイントとして利用したかった。
実際に12分のアベタク→野津田→石原ヘディングシュートのカウンターはサイド起点としたものだった。
(2)立ち位置変更で狙い阻止と押し込むことに成功するマリノス
仙台はボールを保持されていても相手の守備のデメリットをうまく利用することでカウンターへと持っていくことができた。
しかしマリノスが修正する。18分あたりからだった。
今までは2-3のビルドアップ隊だったが、18分過ぎたあたりから3-2へと変更している。左サイドバックである山中だけがアラバロールし、松原は3バックの一角となる。状況に応じては、山中ではなく松原というケースもあったが、基本的には山中の片上げであった。
このことで仙台のカウンター時に3枚で対応できるためにサイドに対しても行きやすくなった。これで仙台のカウンターを防ぎ、マリノスが押し込めるようになった。結果的に21分に波状攻撃から山中のゴールで先制に成功する。
また、この変更の副産物として天野がフリーになりやすくなった。
仙台としては、さっきまではマリノスのアンカー+サイドバックの3に対して前線の3枚を当てれば守備の基準点がハッキリするが、3-2になったことで守備の基準点がずれてしまい、山中や扇原のところにダブルボランチが見る形となり、マリノスのインサイドハーフが浮くような形ができてしまう。
そして特に天野はその浮くことができるポジションに位置し、ボールを受けることでチャンスを作り出していた。
また、平岡が試合の途中から天野とのマッチアップが増えたこともこれが原因である。
このようにして、マリノスは立ち位置を変えたことで仙台のカウンターを阻止し、加えてその副産物として攻撃もうまくいくようになった。
(3)大きな展開でチャンスを作りだそうとする仙台
ゲームは21分に先制を許すものの、直後に仙台がオウンゴールで追いつく。しかし、37分に仲川に中央突破を許して勝ち越し点を決められる。
マリノスが立ち位置を変えたことで、狙いを消された仙台だった。しかし、マリノスのデメリットがすべて消えたわけではない。そう、山中はまだアラバロールをしているのだ。
ということで、仙台は大きな展開でチャンスを作りだそうと試みる。お馴染の対角フィードである。前半は、板倉と野津田が対角フィードからの展開を試みている。この辺も相手の立ち位置を見てということだったのだと思う。
マリノスの素早い切り替えで即時奪回を食らっていた仙台が、対角フィードを行うことでチャンスを作りだそうというアイデアは良かった。実際に野津田のフィードからのチャンスは、右から左に展開し、最後は奥埜のミドルシュートへと繋がっている。これが後半に向けてのヒントとなればというところで前半は終了する。1-2で後半へ。
後半
(1)前から行く姿勢を見せる仙台
前半を振り返ると、マリノスのボール保持の立ち位置に対して、仙台は横幅を広く使った攻撃を行うことでペースを握ろうと試みた。
しかしマリノスもボール保持の形を変化させることで、仙台の狙いを潰し、反対に自分たちが押し込む展開を作り出すことで、リードを奪えた内容だった。
仙台としては相手の立ち位置が変わってきたことを踏まえて、どういう振る舞いで同点そして逆転へと持っていくかがポイントとなる後半戦だった。
仙台が後半から見せた姿勢は、積極的な前からのプレッシングだった。上図のように守備の基準点をハッキリすることで、マリノスのボール保持を限定させ、またロングボールを蹴らせて、セカンドボールを回収することで、自分たちがボールを保持する展開へと変えていきたい狙いだった。
なので、前半は浮いていた天野に対しても平岡がハッキリと前に出ていくシーンが見られたり、前線3枚がマリノスの3枚に対して、プレッシングを仕掛けるシーンが後半の開始から見ることができた。
しかし、仙台の野望を早々にマリノスが打ち砕くことになる。
(2)再び立ち位置を変えるマリノス。そしてめくるめく山中亮輔
マリノスは仙台の前プレにすぐさま対応する。
マリノスは前半の途中から3-2のビルドアップ隊を形成していたが、次は4-1の形。キーパーも含めると1-4-1の形とも言えよう。山中がアラバロールをしないことで、仙台の前線3枚のプレッシング隊に対して、センターバック、サイドバックの4枚を軸に、飯倉と扇原も加わって、6枚でボールを前進させる格好となった。
そして仙台の守備の基準点をずらすことで、前プレを抑制。結果的に51分に波状攻撃から最後は山中のクロスに仲川が合わせて追加点を奪う。
仙台としては、しっかり狙いを持って後半に挑んだが、素早いマリノスの対応にしてやられた形となってしまった。
そしてマリノスのビルドアップについてもう1つ言及しなければならないことがある。それはひし形の形成と、山中の臨機応変なポジショニングである。
マリノスはビルドアップの形を変えたことで、飯倉が関わることが増える。もちろん仙台のプレスの位置が高くなったこともあるが。
マリノスで興味深かったのは、ひし形の形成であった。飯倉とセンターバック、扇原でひし形を形成することで、石原を包囲し、簡単に仙台の一列目を突破することに成功している。
そして山中は前半まではボランチの位置からビルドアップに関わることが多かったが、後半は立ち位置が変わったことで、外からスタートしている。
外からスタートすることで、外でボールを受けるとき、外から中へ入ることでパスコースを確保するときなど、仙台の立ち位置を見ながら、ポジショニングを調節していたのがとても印象的だった。普通であれば中央のボランチなどがポジションの調節を行うのだが、マリノスはサイドバックの山中が行うということに面白みを感じた。
(3)雑な攻撃
ゲームは3‐1でマリノスのリードとなったが、まだ返すのには十分な時間があった。しかも、ハイペースでここまで試合を進めてきたマリノスは、少しずつ疲れが出始めて、中盤が空き始めていた。
仙台としてはマリノスの前プレが強くとも、前半25分のようにビルドアップに人数を掛けることで前プレを掻い潜り、後方に空いている広大なスペースへと選手にボールを届けていきたかった。
しかし焦りなのか、想像以上のマリノスの圧力なのか、なかなか思ったようにボールを運べなかった。加えて丁寧に攻めずに大きな展開や、裏へ一発といった可能性の低い選択を行うことで、自分たちの攻撃を自分たちでダメにしてしまった。
マリノスの守備陣を脅かすような攻撃がほとんどできずにいたのは自分たちの責任であり、そこはとても切ないところでもあった。
そして焦れて前掛かりになり、カウンターを受ける展開に。77分にダンのキックを猛チャージをしたウーゴ・ヴィエイラに当ててしまい、そのままウーゴ・ヴィエイラがゴールを決めて4‐1。ここでゲームが決まってしまった。
その後、お互いに1点ずつを決めて、最終スコアは5-2でマリノスの勝利。またしても仙台はマリノスに大敗を喫してしまった。
最後に・・・
仙台の狙いに対して、マリノスが立ち位置を柔軟に変更することでペースを握り続けた試合だった。おそらく、そういうトレーニングをしこたまやっているのがマリノスであり、その成果をまざまざと見せられた結果となった。
本文には書かなかったが、マリノスと対戦するといかに自分たちの守備が整理されていないのかを知らされる。そういった意味ではマリノスはとても色んなことを教えてくれるチームなのだなと感じる。
仙台としては守備もさることながら、攻撃でも課題が残った試合となった。
本来ピッチを広く使い、丁寧に相手を押し込んでいくことが仙台が目指すスタイルならば、今節はそれを自分たちから放棄してしまった。もっともっと丁寧に丹念に攻撃しなければならないし、焦れないことが重要だ。相手との我慢勝負に勝たなければならない。
重要な試合で連敗をしてしまった。この事実は変えられない。まずはしっかり自分たちが目指すべきサッカーをもう一回思い出して、次節に臨んでほしい。