ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

この集団に付いていくために~J1第27節 V・ファーレン長崎vsベガルタ仙台~

 さて、今回はV・ファーレン長崎戦を取り上げます。

 

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 V・ファーレン長崎は前節・名古屋戦で鈴木武蔵ハットトリックもあって、久々の勝利を挙げた。最下位ではあるもののまだまだ残留のチャンスがある。この試合に勝利することで、残留圏との勝ち点差をさらに縮めたいところだ。

 今節は徳永悠平が出場停止。代わりにヨルディ・バイスが起用された。それ以外は変更なし。

 ベガルタ仙台も前節・FC東京戦に勝利し、4位に浮上。ACL圏内も見えてきた状況だ。長崎のようなハードワークするチームとはサッカーのスタイル上どうしても相性が良くないが、そのような相手に勝利することでさらに自信を深め、勝ち点も積み重ねていきたいところだ。

 今節も前節と同じメンバーが名を連ねた。なお、帰ってきたハモン・ロペスがケガで欠場。代わりにジャーメインがベンチ入りとなった。

 

前半

(1)守備の基準点をずらす

 守備の基準点という言葉がある。守備の基準点とは簡単にいえば、その試合で自分が見るべき相手選手のことで、その選手にボールが入れば自分がプレッシングに行くという1つの基準である。もちろんチームや戦術に応じて変化をしていくことなので、一概には言えないが、大まかにいえばそのような意味の言葉である。

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 この試合は両者ともにシステムが3-4-2-1である。図でも表したようにマッチアップがハッキリし、前述した守備の基準点が明確な形となっている。

 ボール保持が持ち味の仙台と激しいプレッシングとハードワークが持ち味の長崎。よってこの状況だと、守備の基準点がハッキリしている長崎は激しくプレッシングに行きやすい形となる。

 仙台としてはボールを保持したいので、長崎のプレッシングを避けたい。このような前提条件が試合開始時にあった。

 

 ということで、ボールを保持したい仙台が試合開始からさっそく変化を見せていく。

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 この試合では、ダブルボランチである奥埜と富田の一方がディフェンスラインに入って4枚+ボランチという形でビルドアップすることが基本だった。ミラーゲームとなっていた状態から自分たちが立ち位置を変化させることで、相手の守備の基準点をずらす狙いだ。

 守備の基準点をずらすことで、長崎の激しいプレッシングに規制を掛けることができた仙台は、ボール保持からの攻撃を目指していく。

 前線を眺めていくと、左ウイングバックの関口は板倉がサイドバック化することでサイドに張る役割から解放され、中に侵入する回数が多かった。

 またシャドーは野津田が奥埜と近い距離感に位置し配給役を担えば、相方の阿部は石原と近い位置でプレーすることで2トップのような形となり、足元や裏へ抜ける動きを繰り返し行っていた。

 このような立ち位置をしっかりトレーニングで準備することで、長崎の土俵でサッカーをすることなく、ゲームを進めることができた。

 

 しかし、ボールを保持するためのセッティングは上手くいっても、その先がなかなか崩せなかった。

 では、なぜ長崎のブロックを崩せなかったのか。そのあたりを長崎の視点から見ていくこととしたい。

 

(2)高いラインと5-2-3のブロック

 前述の通り、本来ミラーゲームであった試合は、仙台がボール保持の立ち位置を変更することで、ミラーゲームではない展開となった。

 長崎としては、前からのプレスを行うことで、仙台のビルドアップを阻害し、自らのペースに持っていきたかったはずだ。試合開始から数分の間はキーパーまでプレッシングをする意思を見せていたことからも、そのことが窺えた。

 それをうまく回避された長崎であったが、守備ブロックを敷く方向へシフトチェンジをすることで仙台の攻撃に対応していく。

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 長崎のブロックは5-2-3だった。仙台が4枚に変化したことで、同数プレッシングを行うことはできなくなったが、そのぶん仙台のビルドアップに対してスライドすることで、コースを限定する守備へと前線は切り替えた。

 また長崎のディフェンスラインは高いラインを維持していた。高いラインを維持し3ラインをコンパクトにすることで、縦パスが入った際に迎撃しやすくし、また中盤を窒息させる狙いがあった。

 もちろん裏を取られる場面もあったが、しっかり付いていくことで攻撃のスピードを緩めさせることに成功している。(この辺りは石原や阿部だったということも影響しているが・・・)

 とにもかくにも、前プレを掛けられない分はしっかりコンパクトな守備陣形を整えて守り、前線3人のカウンターを発動させることが長さきの狙いとなっていった。

 

 仙台は、このコンパクトな長崎のブロックに対して、なかなか前を向いて仕掛けられるスペースを見つけられない前半だった。いわゆるビルドアップの出口を見つけられず苦しむ展開となった。

 試合はスコアレスで後半を迎える。

 

後半

(1)攻撃の糸口を見出す

 前半を整理すると、長崎のプレスに対して4バックに変化することで、守備の基準点をずらす。このことでボール保持を安定させることに成功したが、次は長崎のコンパクトな守備ブロックになかなか攻め入ることができない。

 ということで、どこをビルドアップの出口として攻撃しようかがテーマの仙台となった。

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 5-2-3の守備ブロックを見てみると、どこにスペースが生まれそうかと考えてみる。そうすると、相手のシャドーの裏、つまりダブルボランチの脇が空きそうなことに気付く。また長崎の守備の特徴上、前線3人に入ると、迎撃で出てくる左右バックがいる。ということはその裏にもスペースが生まれてくるのではないかと。

 よって仙台のシャドー(阿部と野津田)や時々石原が登場することで、そこから攻撃の糸口を見つけ出していった仙台だ。

 一番の好例が63分のシーンだった。この試合一番の決定機。

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 平岡から蜂須賀へとボールが渡る。それと同時にボランチ脇へ降りてくる石原。そしてそれに呼応して飛び出そうとする奥埜。

 このときに石原に対して髙杉が付いていこうとしているのが分かる。

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 髙杉が石原に付いていったことで、その背後はフリーに。そして待ってましたと奥埜が走っている。そこへスルーパスを入れる蜂須賀。

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 奥埜が飛び出したことで中央のバイスも引き出すことに成功した。奥埜はダイレクトでクロスを上げる。待っているのは中野(途中出場)と阿部。後方からも野津田が走り込んでいる。

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 中野は阿部に落とす。阿部はフリーでシュートへ。あとは決めるだけ。

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 しかし阿部のシュートはゴール遥か上を超えていった。中野の落としがバウンドしたことも影響していただろう。

 ただ、形としては最高だった。決めたかった場面だ。

 

 このように後半に入ると、攻撃の糸口が明確になったことで、ゴール前まで侵入できた。あとは何度も決定機を作りだし、決めるだけだった。しかしなかなか決められない。

 そうするうちに、長崎も動き出す・・・。

 

(2)ファンマの登場、そして先制点

 72分にファンマが中村慶太と代わって投入される。ここから長崎のギアが一段上がっていった。ファンマが入ることで、ロングボールが収まり、後半からシャドーに入った鈴木武蔵も活きるようになる。

 それまで仙台の攻撃を対応するのに精一杯だったが、収まりどころができたことで、攻撃もできるようになっていった長崎だった。

 そして先制点が生まれる。79分。右サイドハーフウェイラインからのバイスのキック。ファンマを目掛けてキックする。ペナルティエリアぎりぎりのところに落ちていったボールに対してダンが飛び出す。しかし間に合わずファンマは胸で澤田に落とす。澤田は落ち着いてボレーシュート無人のゴールに決めて我慢強く守っていた長崎が先制に成功する。

 高木監督の采配が的中した形となった。

 

(3)ラスト10分の攻防

 失点を喫した仙台は立て続けにリャンとハーフナーを投入する。そしてクロス爆撃開始。長崎も5-4-1に守備ブロックを変更して仙台のクロス爆撃に備える。

 アディショナルタイムが迫ると板倉も上がり、パワープレーに出る。しかし長崎の粘り強い守備やクロスの精度に悩み、最後まで長崎のゴールを割ることができなかった。

 

 そしてタイムアップ。長崎が粘り強く守ってゲームを制した。

 

最後に・・・

 非常に安い失点での敗戦となってしまった。ダンにとってはあまりにも高い授業料となってしまったが、これを糧にさらに一段とレベルアップして欲しいと願うばかりだ。

 試合としては決して悲観する内容ではなかったように思う。対長崎に備えてボール保持の立ち位置を準備し、また後半にはビルドアップの出口を明確にすることで攻め入ることができた。時間の経過ごとに改善され、あとは焦れずに攻め続けることでゴールに結び付けたかった。

 一方、このゲームは長崎の勝ちパターンへとハマっていったとも言える。粘り強く守り、仕掛けどころでファンマを投入し、攻撃へ転じる。確かFC東京戦も同ような勝ち方だったと記憶している。見方を変えれば、実は長崎のゲームへと徐々になっていったのではないだろうか。

 

 ひとまず敗れてしまったものは仕方がない。切り替えるしかないのだ。この集団にしっかり付いていくためにも連敗だけは許されない。

 となると次節はとても重要なゲームになる。対戦相手は横浜Fマリノス。あの日のリベンジを果たし、この集団に食らいついていきたい!