ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

新たなことへのチャレンジ~J1第11節 ベガルタ仙台vs北海道コンサドーレ札幌~

 さて、今回は北海道コンサドーレ札幌戦を取り上げます。

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 ベガルタ仙台は前節・セレッソ大阪戦で1-2と逆転負けで今シーズン初の連敗。今節は上位に食い付いていくためにも負けられない一戦である。関、菅井、常田、リャン、中野、ジャーメインの6人が前節と代わってスタメンに名を連ねている。

 一方の北海道コンサドーレ札幌は、前節・横浜Fマリノス戦で2-1で勝利し、7戦負けなしと好調を維持している。調子が良いということもあってスタメンはほぼ変わらず。石川直樹が前節代わってスタメンになっている。

 

■前半

(1)今シーズンのテーマとは?

 今シーズンもすでに10試合を消化した。ということで札幌戦を振り返る前に、簡単に今シーズンにおける仙台のテーマを考えていきたい。

 まず、昨シーズンから3-4-2-1を採用し、「いい立ち位置」を意識したポジショナルなサッカーへと変貌しつつある仙台。今シーズンは昨シーズンのサッカーをベースにより成長し、そして結果を求めていきたいシーズンである。

 そんな中で、昨シーズンは3-4-2-1のシステムを軸に、「相手に自分たち(仙台)のサッカーを強要させる」ことで結果を出そうとした。素晴らしいパスワークからの得点を多く生み出せたのも、相手に自分たちのサッカーを強要させることができたからである。

 では、今シーズンはどうかというとそうもいかない。昨シーズンの仙台のサッカーが警戒され、相手も今まで以上に対策を練ってくるようになった。それくらい仙台のサッカーは完成度が高くなっている。

 ということで今シーズンのテーマは「相手の対策の上を超えていけるか」である。そのために3-1-4-2や3-4-1-2といったシステムを採用しながら、相手の術中にはまらない戦い方を常に考え戦っている。加えて昨シーズン苦手としていた5バック相手に対しても、柔軟に戦い方を変えて挑んでいる。

 またさらに重要なのが、プレーしている選手が相手の守備論理に対して変化できることである。今シーズンは数こそ多くないが、監督の指示ではなくピッチの選手たちが判断してプレーを変える、または対応する場面が増えている(推測だけど)。

 昨シーズンから言っている「自律(自立)」というのはこういったところにも絡んでくるのはないかと思う。監督の指示を待つよりもピッチ内の選手が気づき対応していく。こういうことがもっとできれば、さらに成長できる。今はちょっとずつというところ。

 いずれにせよ、昨シーズンよりも警戒されている中で自分たちが柔軟に対応し、そして相手を超えなければ上位へ食い込むことはできない。そんなシーズンを過ごしている。

 

(2)相手に合わせる、合わせない

 前置きが長くなった。本題へ入ろう。

 まずは仙台が札幌に対してどのような準備をしてきたかを見ていく。f:id:khigu:20180430170752p:plain

 結論から言うと守備時と攻撃時でシステムを変えた。

 守備は札幌のミシャ式(3-4-2-1から4-1-5への変換)に対して、5-2-3で立ち向かう。ポイントはシャドーの役割。前節・セレッソ戦では相手サイドバックを起点に押し込まれ逆転を許した。その反省もあり、相手のサイドバックとなる選手(石川直樹と進藤)に対し、前プレス時はべったり付くような形になっていた。そして中央の2人(ミンテと福森)にはワントップが見る形に。行けるときにはボランチ(主にリャン)が飛び出して、プレスを掛けにいった。さらに相手のシャドー(チャナと三好)に対しては菅井と常田がしっかり見ることで対応していた。

 このやり方は概ねハマっていたと思う。中盤より前でボールを取れる回数も多かった。また、最近課題だったサイドバックに対する対応への解答にもなっていた。f:id:khigu:20180430171450p:plain

 攻撃時は3-1-4-2の形。図で表すといびつな形になった。右サイドでは菅井がサイドバック化する。なので少し開いたポジションを取る。反対に常田は中にいる意識が強かった。

 そして板倉がアンカーの役割になる。最終ラインに吸収されず、都倉の裏に位置するイメージでボールを引き出そうとしていた。相手の前線3枚に対して板倉を含めた4人でビルドアップというイメージだったと思う。ただ、札幌もボランチが一枚押し上げて板倉に対応するシーンがあり、スムーズにビルドアップできたとは言い難い。

 菅井がサイドバックとして振る舞うので、右サイドは人が多い形が多かったし、興味深いシーンがいくつかあった。またそれは別項で書きたいと思う。

 

 ということで仙台は守備と攻撃でシステムを変えながら札幌に立ち向かっていく。ただ、守備と攻撃のときにシステムが違うため、ネガトラ(攻撃から守備の切り替え)のときに相手にスペースを与えることも多々あった。

 

(3)もったいない失点

 狙いがハッキリしていた仙台だが、札幌に得点を許してしまう。15分。きっかけは永戸のミスでボールを奪われたところ。セカンドボールを回収できずにいると、進藤のファーへのアーリークロスを関がパンチング。そのこぼれを菅が拾って福森へパス。フリーの福森はファーサイドへ冷静に流し込み札幌が先制する。

 改めて振り返るともったいない失点だった。永戸のイージーなパスミス。その後、セカンドボールを回収できない。進藤のアーリークロスに対し、大岩と常田はその前にラインを上げているものの菅井が残っている。関のパンチング後に戻り切れない守備陣。と、失点の原因は多々ある。特にアーリークロスが上がる前に3人のラインコントロールにズレがあるところなんかは切なさを感じる。

 ただ、これらのミスは修正可能なものばかり。トレーニングでしっかりと意思統一を図れれば、対応できるはずだ。

 ついでに札幌はファーへのクロスを意識していた。都倉は必ずファーへというお約束。

 

(4)右サイドの旋回

 しかし失点後は、仙台がボールを保持する時間が長かった。前半のシュート数も札幌の3本に対して7本と、シュートまで完結できたシーンはいつも以上に多かった。

 そして興味深かったのは、先ほども書いた右サイドからの攻撃シーンである。

 昨シーズンの仙台であれば、ある程度選手の位置は固定されていた。ウイングバックなら外レーン。左右センターバックならハーフスペースの入口などなど。ポジションを崩さずに的確な距離を保ち、ボールを繋ぐことを行っていた。

 ただ今シーズンは相手の警戒もあり、それでは崩せない場面が数多い。ということでさまざまな工夫が見られているわけだが、今節の右サイドは興味深かった。

 

 というのも各レーンに選手は配置されているものの、しっかりと味方の位置を見て、各選手がポジショニングしているということである。

 例えば・・・

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 菅井がハーフスペースでボールを持っている。このとき中野が外、野津田とジャーメインはハーフスペースにいる。野津田がサイドの裏へ抜け出すことで、相手のボランチを引っ張る。そこに空いたスペースにジャーメインが落ちてくる。中野はジャーメインに当ててワンツーで抜け出す。4分の西村のシュートシーンはまさに似たような形だったが、各選手が連動して動くことができている。

 

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 次はこんな感じ。野津田が降りてボールを受ける。菅井は外レーンへ移動する。菅井が外へ移動したことで中野は外レーンから解放されハーフスペースへ、そしてジャーメインは裏へ抜け出す、というシーン。

 このような形が見られるようになったのが今シーズンである。この試合では菅井がサイドバック化できるし、中野がハーフスペースでの仕事ができることもあるが、各選手がレーンを移動してもポジションが保てるようになっている。

 各々が複数ポジションできるとこういったことが可能になる。というのも、こういう旋回攻撃をマンチェスターシティがやっている。もちろんあんなに精度は高くないが、似たようなことができているのは、注目すべき点かなと思う。これからさらに精度が高まればチャンスの数を増加させることは十分に可能ではないか。 

 といった感じの前半は札幌リードで折り返す。

 

■後半

(1)修正のすれ違い

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 後半開始から仙台は、石原と蜂須賀をジャーメインとリャンに代わって投入。札幌も三好に代わって兵藤を投入する。

 

 仙台は石原と蜂須賀を入れて、攻撃時も3-4-2-1に固定する。ハーフタイムコメントに「もっと前へ」とあった。攻撃と守備の可変をやめることで対面の選手へ集中する。より目の前の相手を明確にし、前へのエネルギーを出すことが狙いだった。

 一方の札幌は、兵藤を入れて3-4-1-2にシステムを変更した。前半は板倉がアンカーだったため、そこに兵藤を付けさせることで中盤の3枚のマークをハッキリさせるのが狙いだった。

 しかしお互いにシステムをいじったため、修正のすれ違いが起きた。こういうことはあんまり記憶にない(笑)ということで結局両者のシステムにズレが生まれた形となった。

 

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 このズレが先に生きたのは仙台だった。相手が2トップにしたことで3バックに対するプレスの強度が弱まり、加えてボランチ脇にスペースが生まれたので、シャドーがそこに登場して、起点を作るプレーができるようになる。

 特に左サイドでは永戸が駒井をピン留めし、落ちてくる中野がボールを受けて前を向くシーンが数多く作られた。

 仙台は47分に追いつくわけだが、これとはあんまり関係がない。中央で中野が奪ってからのカウンター。本当に西村はシュートが上手くなったと思う。相手が寄せて来ても冷静に右足を振り抜いた。

 

(2)すぐさま修正する札幌

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 札幌はすぐに修正。宮吉を入れて再び3-4-2-1の形に戻す。

 このことで仙台がポイントにしていたボランチ脇を消すことに成功する。その後は福森や駒井の大きなサイドチェンジから1対1でサイドを破って決定機を作っていく。なぜ打たなかったチャナティップ

 ポイントが消された仙台もポジトラから石原が気合で収めてチャンスを作り出していく。というかそれ以外でなかなかチャンスを見出せなかった。これはこれで課題か。

 

(3)キム・ミンテの退場と即失点

 ゲームの転換点はキムミンテの退場だった。2枚目のカードは報復行為か。1枚もらっていたミンテに対して石原を入れた仙台はある意味で賢い選択だったと思う。もちろん棚ぼたではあるけど。

 相手が10人になったことで優位にゲームを進められる、なんてことが幻想だと昨年の川崎戦で強く理解できたはず。なのにすぐ失点してしまうは何事だ!なんて思う。

 ということで78分に失点する。これも右サイドからに大きく揺さぶっての得点だった。1失点目同様に安い失点だった。そもそものきっかけは常田がアバウトにクロスを入れたところだったが、入れる必要があったのか。また奪われた直後の戻りも遅く、ペナルティエリア内でチャナティップはフリーになってしまった。

 退場直後に富田を投入したので、もう少し引き締まると思ったがそんなことはなかった。こればっかりはピッチの選手が解決しないといけない問題である。

 

(4)起死回生の同点ゴール

 残りの時間は攻める仙台、守る札幌の構図。ここで良かったことはパワープレーに出ずに丁寧に攻撃できたこと。これは去年からの成長だと思う。

 アディショナルタイムに入って残り2分のところ。石原が倒されてフリーキックを獲得する。それを野津田が蹴るが壁に当たってコーナーキック

 そのコーナーもはじき返され、またコーナーキック。そしてその右からのコーナーキックをニアで大岩が合わせて起死回生の同点ゴールを決める。

 そしてタイムアップ。なんとか追いついた仙台は札幌から勝点を奪い取ることに成功した。

 

■最後に・・・

 なんとか追いついた試合だった。勝点1を奪ったというより相手の3を1に削ったという表現が正しいだろう。

 ただ結果は置いておいて、内容に関しては興味深いシーンが多かったと思う。ここ最近ポイントにされている相手サイドバックに対する守備や、右サイドの旋回攻撃など。課題にしていることへの解決、また新しいことへのチャレンジはこの試合で数多く見られた。連戦で厳しいなかでもしっかり成長していこうとする姿があるのは大変うれしい。

 

 ということで連戦も9試合消化した。でも残り6試合残っている。こんなに連戦をして誰が幸せなんだろうかとつくづく思う。それでも試合は続く。

 次節はガンバ大阪戦。気を付けるべきは相手の個の力。隙がないわけではないので、しっかりその隙を突いていきたいところ。次節もいいゲームができることを期待したい!