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勇気を持って戦えているか? J1第18節 ヴィッセル神戸vsベガルタ仙台

 さて、今回はヴィッセル神戸戦を取り上げます。後半戦最初の試合にして、夏の中断前最後の試合。f:id:khigu:20171113151445p:plain

 前節、前々節と大阪勢に敗戦を喫したものの、目指している形で得点を取り、攻撃に自信が付いてきた仙台。今節は第3節で敗れているヴィッセル神戸が相手。前回対戦ではネルシーニョ監督の策にハマり完敗の内容だった。あの日から4か月。自分たちが成長した姿を見せリベンジを果たしたいところ。スタメンでは前節・ガンバ大阪戦で負傷し6か月の離脱となってしまった永戸に代わり蜂須賀で、左に中野、右に蜂須賀のウイングバックとなった。それ以外に変更点はなし。

 開幕スタートこそ成功したものの、その後は主力にケガ人が続出し、中位まで落ちてしまった神戸。直近は3連敗という厳しい状況。今週はネルシーニョ監督の進退問題に揺れるなど、チーム状況は決して良くない。それでもポドルスキが来日し、しかも御前試合。ポドルスキの目の前で下手なゲームができないし、監督のクビが掛かっているという絶対に負けられない状況の今節である。今節は岩波、田中英雄、ニウトン、大槻と前節・川崎戦とは大幅にメンバーを代えての試合となった。

 

■前半

(1)ヴィッセル神戸の準備

 前回対戦したときの神戸は、442の右サイドハーフが下がってきて532のような形をとることで仙台の攻撃に対応してきた。f:id:khigu:20171113151513p:plain

 前回対戦したときは、まだ3試合目で仙台の攻撃もまだまだなところもあったので、前線をしっかり抑えれば対応ができるというネルシーニョ監督の考えがあった。

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  しかし今回は442の右サイドハーフが下がってくることに加えて、前線も仙台の3バックに対して3枚で前プレを掛けることを行ってきた。いわゆるミラーゲームを仕掛けた神戸である。

 それは前回対戦時よりも仙台がビルドアップをしっかり行えるようになったことや、そこから押し込んでの攻撃を繰り出せるようになってきたことが要因である。

 一方で、ここ最近の仙台は前からプレスを掛けられるとロングボールを選択することが多い。つまりそれは、しっかりボールを保持したときは怖いけど、前からプレスを掛けられると怖気づいて、繋ごうとしないことを意味する。だったら前からプレスを掛けてロングボールを選択させようという神戸だった。

 またボールを奪ったら素早く前に出てくる。カウンターから失点が多い仙台のウィークポイントをしっかり付いてくる準備を神戸はしていた。実際に前半で奪った2点はボールを奪ってから手数を掛けずに攻め切ったものだった。ゲームの内容としては神戸が準備してきたものをしっかり表現できた内容だった。

 

(2)ビルドアップができない仙台

 前からプレスを掛けてくる神戸に対して仙台は序盤からロングボールを選択するシーンが多かった。これは今節だけではなく、前節も前々節も見られた光景である。

 先週の記事(ガンバ大阪戦)ではこのロングボールを選択することを肯定するようなことを書いた。もちろんどこに蹴るかとか、誰が競るのかとかを仕込んでいるならのお話だったが。

 ただ、神戸戦を見ていると実はロングボールを選択しなくてもいいシーンに数多く出くわした。では、なぜ仙台はその状況でボールを保持できないのか?ここら辺について書いていきたいと思う。

 

 原因は数多くあると思うが、ここでは2つ取り上げたい。

 まず一つ目は、ビルドアップを安定するために全体がオーガナイズされていないことである。f:id:khigu:20171113151702p:plain

 この試合で多く見られたのは、仙台陣内でボールを保持しているときに仙台のビルドアップ隊(3バック+ボランチ)に対して神戸が同数でプレスを掛けてきていることである。

 何が問題かというと、自陣で同数であるのにウイングバックが高い位置を取ってしまっていることである。ウイングバックが高い位置を取ると5バックを敷く神戸の守備に対してマンツーマンで対応され、パスコースがなくなるもしくはパスを出してもインターセプトされる可能性があり、パスが出しにくくなってしまう。そうするとビルドアップ隊は苦しくなり、ロングボールを選択してしまうことになってしまう。f:id:khigu:20171113151729p:plain

 であれば、ビルドアップ隊が苦しいときはウイングバックが降りてきてパスコースを作り出すことも大事になってくる。ウイングバックが下がってくれば、相手のウイングバックがどれくらい自分に付いてくるのかが分かる。もしウイングバックに付いてくるようであれば裏のスペースは空くし、付いてこなければウイングバックが前を向くことができ、ビルドアップの出口を作り出すことができる。ウイングバックは高い位置を取ることだけではなく、状況を見て下がってくることも必要である。

 もちろんウイングバックだけではなく、シャドーが降りてきて、ウイングバックが裏を取ってもいいだろう。要はビルドアップ隊が苦しいときに前線がいかに助けてやれるかが大事になってくる。

 

 2つ目に正しいポジションを取り直していないことである。f:id:khigu:20171113151824p:plain

 特に多いのはキーパーにボールを下げたときの3バックのポジションである。相手の前プレが厳しくキーパーにボールを下げたときに、それでプレーが終わってしまっていることが多かった。キーパーにボールを下げた時間を利用して、3バックやそれ以外のポジションの選手が、もう一度正しいポジションを取り直せば、ロングボールを選択せずにもう一回後方から繋げられるシーンは結構あった。

 元々キーパーにボールを下げることは、その時間を利用して正しいポジションを取り直すためのものと考えられている。特にボールを保持して攻撃するチームはこの考え方が必要。キーパーにボールを下げて休むのではなく、細かくポジションを取り直し、ボールを繋げることで相手を走らせることをしたかった。

 

 主にこのふたつを取り上げた。確かに神戸の前プレに対して慌ててしまったシーン、前プレをロングボールで逃げるシーンが数多くあった。しかし実は少しポジションを修正したり、立ち位置を変えることで、パスで前プレを剥がせることができたシーンは数多くあった。

 神戸が前プレを仕掛けてきてもどこまでも追っているわけではない。うまくボールを動かしたことで諦めて自陣に撤退するシーンもあった。なのでそういう場面をもっともっと今後は意図的に作り出していければ良いのではないだろうか。

 

 前半は狙い通りにゲームを進めた神戸が2点をリードして折り返す。

 

■後半

(1)勇気を持ってボールを握ること

 前半は、神戸の前プレの前に怖気づいてしまったというか、逃げてしまっていた仙台。ハーフタイムの修正ではその辺の話をだいぶしたのだろう。後半は前半よりも勇気を持って自陣からボールを繋ぎ始める。ボランチウイングバック、シャドーがボールを受けることで神戸のプレスを回避できるシーンが前半よりも増えていった。

 特にボランチがボールを受けられることが増えたことで、大岩や増嶋が高い位置を取ることができた。右サイドでは大岩が高い位置を取ることで攻撃に厚みを持たせることができていった。しかし、クロスボールの精度やラストパスの精度が悪い、もしくは神戸の守備に引っ掛かってしまうことが続いていく。相手を押し込むことはできても、最後のところが合わないと意味がない。そんなことを思う後半の立ち上がりだった。

 

 仙台は60分に2枚替えを行う。蜂須賀→茂木、平岡→石川直樹。左サイドのセットを茂木と石川に変更する。f:id:khigu:20171113151913p:plain

 後半の神戸の守備を見ていると守備が541ではなく、変則的な532になっていた。おそらくこれは狙いとかではなく、2トップが前に残っている現象である。仙台はそこにフレッシュな2人を投入して、活性化できた右サイド同様に、左サイドでも攻撃を繰り出せるようにしようというのがこの交代の狙いだった。

 効果があったかといえば何とも言えないが、茂木は久々の出場でとても気合の入ったプレーを見せていた。疲弊し始めていた三原に対して幾度となく仕掛けていくシーンは非常に良かった。あとはクロスの精度だろうか。もっとクロスに磨きがかかると、これから夏場に向けて貴重な存在になっていきそうだ。

 

(2)マンツーマンかゾーンか以前の問題

 仙台の3失点目はまたしてもセットプレーからだった。65分。田中英雄の右コーナーからニウトンが合わせてダメ押しの3点目を奪う。

 前節もフリーキックからの形だが、決勝点を決められている。

 ゾーンで決められているのならマンツーマンにしろよという話もある。しかしマンツーマンの守備もゾーンの守備も大切なことは相手よりも先に触ること。今回の失点では西村と中野の間にボールを入れられたが、西村は見逃してしまった。ゾーンの欠点ともいえるが、まずは自分の近くに来たボールには何が何でも触ること。これはセットプレーの守備の基本だと思う。まずはそこから意識してやっていく必要があるだろう。マンツーマンにしたところで状況が良くなるとは思えない。

 

(3)クリスランについて

 仙台はその後クリスラン→リャン。石原がワントップに。石原がワントップになったことで攻撃に流動性が生まれた。相手との駆け引きがあまり得意ではないクリスランは、仙台の戦術の幅が広がるにつれて適応ができなくなっているシーンがあって、クリスランはそこの課題をクリアしていかなければならない。決定力と引き換えに連動性を欠いてしまうのは惜しい。クリスランには中断期間で多くの課題をクリアしながらレベルアップに努めてほしい。

 

 ということで0-3の完敗。なにもできなかった90分間だった。

 

■最後に・・・

 もし仙台に勝機があったとしたならば、後半までスコアレスでゲームを推移していくことだったのではないかと。神戸の選手が後半に足をつったのを見ても、この夏場に前プレを掛けることは厳しい。だからこそ我慢強く相手の前プレに耐えながらゲームを進め相手の足が止まったところで仕留めたかった。

 ただネルシーニョ監督もその賭けに出て、見事に勝つのだからさすが。スコアレスで後半を迎えていたらどうするつもりだったかは気になるけれども。それでも仙台に前プレを掛ければ勝算はあるというのは踏んでいたのだと思う。今回もネルシーニョ監督にハメられた試合だった。

 

 前半のところでも触れたが、相手を押し込んだ状況であればある程度攻撃に自信が付いてきたものの、前プレをされるとまだまだ剥がせないところが多いと。次はここがテーマになってきそうだと感じている。

 相手が前から来たときに、その背後のスペースを使う。相手のプレスを剥がして、自陣に撤退させる。さまざまな方法がある中で、しっかりと自分たちの答えを見つけ出してほしい。前プレを剥がせるようになるとまた一歩大きな前進ができると思う。トライ&エラーを繰り返しながらひとつずつ課題をクリアしていくしかない。

 

 中断期間を経て、次の試合は3週間後、ホームでの柏レイソル戦となる。ここまでで出た課題に取り組みながら、さらに成長した仙台の姿を次節は見せてほしい!