ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

ベガルタ仙台テクニカルレポート2016[前編]

 また随分とお久しぶりになりました(笑)すでにリーグが終わって1か月以上が立ち、ストーブリーグの真っ只中の今日この頃です。

 今回のテーマは、今シーズンの振り返りであります。自分なりに思ったことをツラツラと書いたので、最後までご覧ください。

 書きたいこと書いてたら長くなったので前編、後編に分けました(笑)まずは前編から。

 

■総括的なもの 

 今シーズンは最終的に13勝4分17敗で勝ち点43の年間12位。年間5位という目標からはかなり遠くなったが、シーズン通して残留争いの加わらなかったこと、2013年以来の勝ち点40以上を獲得できたこと、そして昨シーズンよりもサッカーの質が上がったことを考えれば決して悪いシーズンではなかったと個人的には思う。

 しかし、シーズン通して(特に2ndステージ)けが人が多くてベストメンバーが組めなかったことや、良いときと悪いときの差が激しかったことなど課題が残るシーズンでもあった。

 個人的には今シーズンに点数を付けるとしたら「70点」というところ。理由は上に書いたことになる。課題を残しながらも総じて収穫の方が多いシーズンを過ごすことができたと思っている。

 

■対戦成績から見えるもの f:id:khigu:20191230153129j:plain

 次は対戦成績や気になるデータを見ていきたい。

 上の表は今シーズンの年間順位表に照らし合わせた仙台の対戦成績と得点者、それから各チームから得た勝点を一覧にしたものである。

 まず見てわかるのは、上位にはめっぽう勝てないということである。18チームを3分割し、1~6位を上位、7~12位を中位、1318位を下位グループに分けたときの成績を見ると・・・

 上位:2勝1分9敗(勝点7)

 中位:5勝1分4敗(勝点16)

 下位:6勝2分4敗(勝点20)となる。

 上位で唯一勝てたのは鹿島(2勝)のみという成績で終わっている。中位は5勝で一応勝ち越し。下位には6勝で新潟、湘南にはシーズンダブル。一方で磐田、名古屋にはシーズンダブルを食らっている(その4敗のみ)という成績になった。

 今シーズンは一貫してやっているサッカーの内容が変わらなかったこともあり、通用する相手には通用するし、通用しない相手には通用しないことが如実に現れた。シーズン通して残留争いに巻き込まれなかったのも、下位相手にしっかり勝点を取ったことによるものである。

 成績から見て分かることは、下位陣に星を落とさない自力が付いた一方で、上位陣には力負けしてしまうということである。今シーズンは自分たちが取り組んでいるサッカーがどれくらいの成長度合いか、また力なのかというものがわかるシーズンだったのではないだろうか。

 

 もう1つ分かることは、今シーズンはシーズンダブルとシーズンダブルされた回数が多いということである。

 シーズンダブルは4回(鹿島、柏、新潟、湘南)。シーズンダブルされたのは7回(浦和、ガンバ、大宮、広島、東京、磐田、名古屋)。

 特にシーズンダブルされた回数が多い。これも今シーズンやってきたサッカーが一貫して変わらないという指標の1つだと思う。要は相手のサッカーとの相性。けど東京と名古屋は監督が変わっているのでなんとも言えない。ミシャ式に勝てないのはやはりがっぷり四つでやると力負けするということだろう。

 

 そして引き分けの数が極端に少ないこと。4分だけというシーズンは珍しい。17敗という成績を見ると、勝点を拾えてないようにも思えるが、一方では勝ちに行っているという見方もできる。個人的には後者を取りたい。スコアレスドローが今シーズン一回もなかったことを見ても、点をとりに行く姿勢、勝ちに行く姿勢というのが見られたシーズンだったと思う。

 

■今シーズンのサッカーについて攻撃編

 ここからはサッカーの中身の話。

 ここでは「攻撃」と「守備」に分けて話を進めていきたい。

 

 まずは「攻撃」から。

 今シーズンも昨シーズン同様に「ボールを保持しているとき」にどうやってボールを運ぶか、またはどうやって崩すかというところがテーマだった。総じて今年はボールをどうやって前に運ぶかというところで最適解が見つかるまで時間がかかってしまった印象がある。

 今シーズンの仙台はDFと中盤の選手がほとんど変わっていない。4バックとダブルボランチは固定で、サイドハーフもケガがなければリャンと金久保、奥埜の3人が固定されていた。

 唯一流動的だったのは2トップだった。開幕から数試合はウイルソン・奥埜。そこからハモン・野沢。ウイルソン・ハモン。そしてハモン・西村というように多くの組み合わせがあったポジションだった。そして、この2トップの組み合わせが今年の仙台のサッカーを変えていたと思う。

 

 まずは、開幕から数試合はウイルソンと奥埜のコンビ。このコンビは2015年の天皇杯準々決勝・柏戦で結果を出した2トップであった。この2人のときは、ウイルソンが左で開いて、奥埜が自由に動き、サイドに多くの人を集めて数的優位で相手を崩していくことを目指した。開幕・マリノス戦の三田の得点のように多くの選手が短い距離でパスをつないでいくことを狙いとしていた。

 しかしこのコンビの問題は、自力でボールを運べないことだった。ウイルソンは全盛期とは程遠く、以前のように1人でボールを運び全体を押し上げるようなことができない。奥埜もボールを収めることはできるも自力で運ぶような選手ではない。よって前半は自分たちがボールを保持して押し込めても、後半になると体力が消耗しボールを運べず、相手に押し込まれるという悪循環を招いてしまった。

 

 ようやく最適解を見つけたのが、1stステージ第10節・川崎戦でコンビを組んだハモン・野沢である。この2人はナビスコ杯で何回かコンビを組んでいるがリーグ戦ではこの川崎戦が初めてであった。

 この2人になって、今シーズンの「ボールを保持しているとき」の形が出来上がってくる。それは前後半でスタイルを変えることであった。

 まずは前半。f:id:khigu:20191230153239p:plain

 試合の展開上、前半45分は比較的うしろからボールをつなげる時間が多い。

 なので仙台は三田を最終ラインに落として、両サイドバックを押し上げる。そうすることで、両サイドハーフが横幅から解放されて相手のブロック内に侵入してくる。このことで、相手ブロックのライン間(ディフェンスとディフェンスの間)にパスコースが生まれ、サイドバックサイドハーフという2つのパスコースができる。そして野沢もこの両サイドハーフと同じ位置まで下がることによって、選手間の距離が短くなり、縦パスから数多くのコンビネーションで崩せるようになる。野沢を前線で起用することで、時間を作ることもできるし、正確なパスで攻撃に幅をもたらすことができるようになった。創造性あふれる野沢の存在は攻撃を活性化させた。

 相方のハモンは状況に応じて右に流れて起点を作ったり、中にカットインしてシュートを狙ったりとあらゆる場所に顔を出し、攻撃に奥行きをもたらしていた。またウイルソンと奥埜のときにはなかった「高さ」が生まれたことで、ロングボールの的にもなることができ、ビルドアップの逃げ場としての計算もできるようになった。

 

 そして後半。f:id:khigu:20191230153255p:plain

 後半45分は前半と違って後ろからつなげることは少ない。後半はゲームを動かさなければいけないので相手も前から来るし、攻撃もなるべく前でプレーしたいのである。

 後半のキーマンはハモン・ロペスであった。前半は右に流れたり、左に流れたり、中央にいたりと自由に動くのだが、後半は、左サイドに登場する。これをハモン・ロペスの質的優位と呼んでいる。ハモンが左サイドの裏。厳密にいえば相手のサイドバックの裏のスペースにフリーランニングし、奪ったボールを素早くサイドに走ったハモンに預けるというやり方である。

 ウイルソン・奥埜だと、自力でボールを運べなかったが、ハモンは体の強さと得意のドリブルで個人でサイドからボールを運べるようになる。結果全体を押し上げることに成功し、後半でも押し込める時間帯を作り出すことに成功する。

 この時期から好調が続き、川崎戦以降残りの1stステージを5勝1分2敗という成績をおさめることができた。今シーズンのサッカーの一つの最適解を見つけた時期だった。

 

 しかし、野沢などのケガ人が続出しベストメンバーを組めなくなると、2ndステージが始まって勝てない時期が続く。野沢のケガにより藤村を代役として起用するもフィットしなかった。

 そして次にコンビを組んだのがウイルソン・ハモンのブラジル人2トップである。ブラジル人2トップだとどうしても守備の部分に不安を持ち、なかなか併用して使われることはなかったが、夏場にきて渡邉監督は思い切って起用することを決めた。

 この2人になってもサッカーの内容は変わらない。しかし、この2人の特徴を考えてみればスペースがあったほうがいい。ということで押し込んでも中央というよりはサイドにボールを展開させてからの攻撃が増えた。そして、必ずウイルソンかハモンが中に待っているという仕込みもできていた。

 しかし、この時期に決めたゴールで最も多かったのはカウンター(トランジション)からだった。特に負けなかった夏場の5試合は新潟戦のウイルソンと奥埜のゴールや湘南戦のウイルソンのゴールなど、手数をかけずに決めたゴールが多い。今年の仙台のテーマとして相手を押し込んだ時というのがあるが、2トップの特徴からカウンターの得点が増えたといっていいだろう。

 

 この夏場の負けなかった時期以降はさらにケガ人が続出する。練習でも紅白戦ができない苦しい状況が続いていった。特にFW陣にケガ人が多く、2ndステージ第12節・甲府戦からはハモン・西村のコンビになる。

 西村はルーキーイヤーだった昨シーズンこそ出番はなかったが、今シーズンはケガ人が多い中出場機会を得るとぐんぐん成長していった。相手を背負った時のプレーに力強さが加わったし、献身的に守備も頑張っていた。

 この2人が組むことで、前半からハモン・ロペスの質的優位を使うことが多かった。ボックス内を主戦場とする西村なので、ハモンが自然とサイドに流れやすい状況ができていた。

 2ndステージ第14節・鳥栖戦で勝利をして残留決定するわけだが、この試合もハモン・西村のコンビだった。ハモンはハットトリックを達成、西村も効果的な働きで、1点目に絡むなど意外といいコンビだったのではと思う。

 最後の3試合はケガ人が帰ってきたことで、ハモン・野沢のコンビに戻る。このことからも今シーズンの最適解はこの2人の組み合わせだったのだろう。

 

 今シーズンの攻撃面はディフェンスと中盤のメンバーが変わらなかったぶん、2トップの人選で攻撃の仕組みや特徴が変わったシーズンといえよう。得点自体は39点と昨シーズンに比べれば大幅に減ってしまったものの、今シーズンは「ボールを保持しているとき」の精度により一層磨きがかかったシーズンだった。

 

■今シーズンのサッカーについて守備編

 続いて、「守備」について見ていく。

 今シーズンの4バックは、大岩、平岡、渡部、石川直という顔ぶれがほぼ固定されていた。それに加えボランチも三田と富田も固定だった。

 4バックに関しては全員がセンターバックもできるということが特徴的で、これは中盤より前のメンバーが攻撃に重きを置くメンバーが選ばれたものによる。そしてもう一つが横への対応である。横への対応は主にクロスへの対応のことで、相手のターゲットになる選手がどのポジションにいても対応できるようにするためである。特に最近では相手のサイドバックに対してターゲットになる選手を置くようなケースが多く、それに対応するものである。

 今シーズンはブロックを組んだときはフォワードも協力して442のブロックをしっかり敷くことで対応することができた。なので48失点を喫したもののブロックを崩された失点は多くなかった。

 

 今シーズンの守備において最も収穫があったのは「攻から守に切り替わったとき」の守備。最近の言葉で表すならば「ネガティブトランジション」である。

 相手陣地でボールを保持している状況で奪われたとき、切り替えを早くそして複数人でプレスを掛けることで、自由を奪い、クリアしたセカンドボールをセンターバックないしはボランチが回収して二次三次攻撃に繋げることができた。

 これは守備陣どうこうというより、チーム全体が意識を持って行うことでできたことである。これから仙台がJ1を戦っていくうえで大事なポイントになってくる部分であると個人的に思う。

 

 一方で課題も浮き上がってきた。このネガティブトランジションになったときにセカンドボールを奪うことができればいいのだが、プレスを掻い潜られると前線で人数を掛けている状況になっているので、相手のカウンターをもろに食らうことになってしまう。そして今シーズンはこのカウンターで失点することが序盤からずっと続いていった。

 これは前線でボールを奪うことを前提しているので、カウンターに対して守備陣の個人能力でなんとかしなければならない状況だったからだ。おそらくロングカウンターの対策は練習でやっていなかったのかもしれない。終盤には少しずつ対応も良くなっていったが、来シーズン以降の課題でもあるだろう。

 

 今シーズンの守備を総括すれば、前から行くときと後ろで待ち構えるときの使い分けはできていたと思う。それに加え、ネガティブトランジションで相手からボールをすぐに取り返すことができたことが守備面において一番の収穫だった。

 一方でカウンターを食らったときにどう対応するのかは課題。個人レベルでも組織レベルでもまだまだ成長の余地がある。

 

 前編はここまで。続きは後編で!