ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

ここまでの仙台を振り返って中断期間まで編

先週にナビスコ杯の予選グループが終わり、正真正銘の中断期間を向かえたJリーグ

世間がW杯で盛り上がっている中、今回はここまでのベガルタ仙台を振り返る

1. 苦しんだ新戦術

 今シーズンの仙台は、6年務めた手倉森誠氏が五輪代表監督に就任するに伴い、オーストラリア人のグラハム・アーノルド氏を招へいした。彼はオーストラリア国内での実績もあり、十分に期待できる監督だった。

 しかし、開幕からカップ戦合わせて8試合も勝てず、J1第6節の浦和戦(0-4)後、チームを去ることになった。勝てなかった原因は、アーノルド氏がやろうとしていた戦術がなかなか浸透しなかったことにある。

 前任の手倉森氏のサッカーは、ラインを高く設定し、積極的に前線からプレスをかけ、ショートカウンターを狙う戦術だった。それがはまった2012年は優勝争いを演じることができた。翌年は、それにポゼッションを取り入れ、ショートカウンターとボールを保持しながら相手を崩すという両方のやり方を使いながら戦ったが、チームに落としきれずに道半ばでチームを去って行った。その後就任したアーノルド氏は、手倉森氏が残した課題を取り掛かることになった。アーノルド氏がとった攻撃の方法はシステムを従来の4-4-2から4-2-3-1にすることで中盤に人数を増やし、よりボール保持を高めようとした。また守備も変化が見られた。昨年まではボールを取られたら、すぐに高い位置からプレスをかけていたが、アーノルド氏は奪われたら、プレスをかけ始めるのではなく、全員が一度自陣へ引いてブロックを組み、そこから守備をスタートさせた。このことが選手への混乱とチームが勝てない原因となってしまった。一回自陣に引くため、選手は多くの運動量を必要とすることになり、後半にガス欠を起こすことになった。また、近年のJリーグは、カウンター主体のチームが多く、このやり方だとカウンターの芽を摘めなくなり簡単にカウンターの餌食になってしまった。このやり方はポゼッション主体のチームには有効だが、カウンター主体のチームには相性が悪かった。また、攻撃面ではワントップに入ったウイルソンが孤立してしまう場面が目立ち、なかなか攻めの形が作れなかった。その後従来の4-4-2に戻したが、あまり効果が見られなかった。

 選手たちは意欲的に新しい戦術へトライをしていったが、浸透することはなかった。

2.原点回帰

 そんな中で、新監督に就任したのが仙台に選手時代から長らく在籍している渡邉晋氏だった。彼は、今年の2月にS級ライセンスを取得したばっかりだったが、手倉森氏の下でコーチをしていたため今までやってきたサッカーをよく知る人材だった。個人的には、最適な人材だったと思う。

 そして、就任わずか3日後だった横浜FM戦で、今季初勝利をつかんだ。このゲームでは、従来の仙台のサッカーをやっていた。しかしこのゲームに関していえば、いつもとは違うパワーを感じたゲームで、勝たなければならないという雰囲気があった。

 その後鹿島(ナビスコ杯)、鳥栖、清水と連敗となる。しかし、そんな中でも試合を追うごとに少しずつではあるが修正を重ね、仙台らしさをもう一度戻していこうという前向きな面が見られた。そのあとの川崎F戦はスコアレスドローとなったものの、その後徳島、神戸、C大阪、広島に勝ち、4連勝で順位も降格圏から11位に巻き返し中断期間を向かえることに成功した。

 前述したように仙台は、優勝争いをしていた時のサッカーに戻し勝ちを積み重ねることに成功したといえるが、それだけではない要素もあった。それはポゼッション時のボールの動かし方や選手のもらうポジショニングが若干改善されている点である。昨年はボールをうまく運べなかったが、今シーズンはボランチに武井が加わったことで、中盤の底からのボールの配給がよくなり、それに呼応してリャンが中央で受ける回数が増え、いい距離感でボールが回るようになった。また、サイドから斜めにボールを入れることも増え、簡単バイタルへ侵入することができるようになった。特に、C大阪戦での得点はそれの表れで、佐々木から見事な斜めパスが入ったところから得点に結びついている。おそらくではあるが、これは手倉森氏というより、アーノルド氏が取り入れようとしたやり方だったと思う。渡邉氏はしっかりアーノルド氏の下で学んでいたんだと思う。

 また、関や武藤の活躍が見られたのは大きい。特に関は序盤こそ失点が多く、自信を持ってプレーできていなかったが、試合を追うごとに自信をつかんできたと思う。特に川崎F戦のパフォーマンスはその後自信に大きくつながる、ターニングポイントの試合だったのではないだろう。武藤も、第12節の神戸戦で決勝ゴールを決め、ようやく花開こうとしている。今シーズンは早い段階でゴールを挙げているので量産してもらいたい。そして、赤嶺の復活はチームの浮上に欠かせないものだった。赤嶺がようやくストライカーとしての嗅覚が戻ってきた。これは何よりも大きいことである。

3.夏場の戦いに向けて

 ようやくチームが上向きになった状態で迎える中断期間。この中断期間はとても重要な時期になっていく。幸か不幸か仙台からは、W杯のメンバーに選ばれていないので、チーム全員で今後に向けての戦いの準備を行うことができる。これから厳しい夏場の戦いが待っている。仙台は年齢層が高いので、やはり今のサッカーにもう一工夫が必要になっていくだろう。それは渡邉監督も重々承知の上だろうし、そのための10日間の延岡キャンプだと思う。これから先は、今のサッカーにどれだけ「渡邉カラー」を付け加えるかがポイントとなるし、楽しみな点である。そして、夏場には多くの若手にも頑張ってもらいたい。ナビスコで結果を出した藤村、二見、八反田あたりが試合に絡めるようになると仙台の選手層も厚くなる。そして、いよいよ上本が復帰したことでDFの駒も揃いつつある。これからは多く選手が競争しあうことで相乗効果を生んでほしい。

 プレーシーズンマッチの新潟戦、天皇杯2回戦を経て、リーグ再開(柏レイソル戦)となる。これから仙台が上位に行くためにはこの夏場の戦いがポイントになって来るだろう。