ヒグのサッカー分析ブログ

ベガルタ仙台の試合分析が中心です。

しぶとく得た勝ち点1~明治安田生命J1第20節 セレッソ大阪vsベガルタ仙台~

 さて、今回はセレッソ大阪戦を振り返ります。

↓前節のレビューはこちら

khigu-soccer.hatenablog.com

 

スタメン

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 この試合から夏の移籍ウィンドーが開き、加入した選手を起用できるようになった。

 ベガルタ仙台はベルギーへと旅立ったダンに代わって、クバことヤクブ・スウォビクがさっそく起用された。またケガから戻ってきたシマオが復帰。一方で負傷した長沢に代わってハモンがスタメンとなった。ベンチでは、クバ同様にこの夏に加わったジオゴ・アコスタがメンバー入りを果たしている。

 セレッソ大阪は、4試合負けなし。ホームでは4連勝中と好調である。ゆえにスタメン・ベンチともに前節・名古屋戦から変更はなかった。

 

前半

 (1)ディフェンスの裏とボール保持からゴールを目指すセレッソ大阪

 試合は、ボールを保持するセレッソ、それに対して対応する仙台という展開をメインに進んでいく。

 前半では、セレッソのボール保持のパターンと、それに対する仙台の対応策、またこの試合におけるテーマはなんだったのかを見ていきたい。

 

 まずはセレッソのボール保持から。セレッソのボール保持からの展開は、2つのパターンがあった。

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 1つ目は、仙台のディフェンスラインの背後へロングフィードを送ること。仙台のセンターバックは裏への対応が得意ではないことや、試合序盤などで相手陣地でプレーすることが狙いで行っていた。

 特にボールを奪った後や、仙台の守備が前から来たときは間髪入れずに裏へとロングフィードを送っていた。

 象徴的なシーンは10分で、丸橋から裏へ走りだした奥埜がシマオの裏でボールを受けて、清武がアーリークロスを送ったシーンだ。

 特に連携がスムーズだったことや、意識的に仙台のサイドバックセンターバックの間に送っていたことから準備していたものだろう。

 

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 もう1つはセットオフェンス時のボール保持である。セレッソは基本的に藤田がセンターバックの間に落ちて、木本が仙台の2トップをピン止めするようなビルドアップ隊を形成していた。

 サイドバックは高い位置へ、サイドハーフはハーフスペースへという、定跡のパターンの形を見せていた。

 セレッソは、センターバックの運ぶドリブルからサイド~ハーフスペース間でコンビネーションからの崩しを狙いとして持っていた。f:id:khigu:20190722195141p:plain

  セレッソのボール保持を見ていて気付いたのは、必ずサイドバックサイドハーフは「外中」の関係であることだった。

 サイドハーフがパスコースを作るために幅を取ればサイドバックは必ずハーフスペースへポジショニングする、ないしはインナーラップしていくということ仕組みとなっていた。

 余談だが、前節の鹿島も同様な関係だったので、レーンが意識されている昨今、さまざまなチームが当たり前のようにやっているのかもしれないと感じ次第だ。

 

(2)この試合における仙台の立ち振る舞い

 ボールを保持される時間が長った仙台。しかし仙台としては、決して焦る様子はなかった。

 この試合の会場であるヤンマースタジアム長居はピッチが荒れており、決してボールを持つことが優位ではなかった。むしろボールを持つとミスから危ないシーンを招く可能性もある。

 仙台としては、アウェイであったこともあり、そのような考えがあったと思う。よってセレッソのボール保持に対して、全てではなかったが、前からプレスを掛け、ミスを誘発させるシーンが見られた。そして石原などのプレスバックや高い位置でボールを引っ掛けることで、カウンターを発動させることもできていた。

 30分に2トップとボランチが前プレを掛けて、ハモンが奪い、そのままシュートを放ったシーンがあったが、仙台としてはあのようなシーンをゲーム内で多く作り出したかったはずだ。

 

 また、仙台がもう1つ狙いとしていたのは、相手ゴールキックだった。

 ここで渡邉監督の試合後のコメントを引用したい。

 

C大阪さんのゴールキックを我々がどれくらい引っかけられるか、そこがひとつのポイントになるかなと思いました。前半にふたつ、相手陣内で実際に引っかけた。後半もいくつか引っかけて、我々がフィニッシュまでいけなかったのですけれども、意図してしっかりと前に行けたというところは、選手がしっかりと戦術を遂行してくれたおかげだと思います。

 

(引用元:2019明治安田生命J1 第20節 セレッソ大阪 | ベガルタ仙台オフィシャルサイト)

 

 スカウティングの段階で、セレッソゴールキックがチャンスになることをある程度予想できていた。キム・ジンヒョンからボールを繋ぎたいセレッソだが、ジンヒョンのキック精度が足りないことや受け手の問題でミスが多かったのだろう。f:id:khigu:20190722201351p:plain

 仙台は上図のように、ボランチも前に出て、相手を捕まえることでゴールキックからボールを奪って、チャンスを作ろうとしていた。

 実際に前後半合わせて、4回ほど奪えたシーンがあった。それをゴールへと繋げられれば理想的な形だったが、そこまで行かず。それでも準備していたことをしっかり実行できた部分だった。

 

 前半はお互いにゴールを奪えずに0-0で折り返す。

 

後半

(1)選手交代で流れを変えたセレッソ

 後半は、開始から仙台が前プレを掛ける展開で始まる。

 前半は、2トップが相手のボランチを気にして、前に行くことを自重するシーンも見られたが、後半はスタートから主導権を奪うべく、前からプレッシングを開始する仙台だった。

 その効果もあり、セカンドボールを回収できるようになった仙台が、後半の序盤はセレッソ陣内でプレーする回数を増やしていった。コーナーキックの数も増え、そこを活かすことができれば、この試合で勝点3をゲットできた確率は高くなったかもしれない。

 

 セレッソは62分に2枚替えを行う。藤田からデサバト、奥埜から高木へとスイッチする。

 特にデサバトが投入されたことで、デサバト経由でボールが捌けるようになり、次第にセレッソペースにゲームが展開されるようになり、決定機もセレッソの方が多くなっていった。

 よって、仙台は再び我慢を強いられる展開になる。しかし帰ってきたシマオや平岡、そして新加入のクバを中心に粘り強く守ることができた。

 やはりこのような展開で、しっかり跳ね返すことができるシマオの存在は大きいなと感じた時間帯だった。

 

(2)松下の疲弊でパワーダウンしていく仙台の攻撃

 我慢強く守り、攻めに出たい仙台。関口に代えて崇兆、道渕に代えて兵藤と、守備の強度を保ちつつも攻めに出れるカードを切っていく。

 しかし、75分過ぎあたりから松下が疲弊してくる。松下が疲弊したこと、松下のプレーが徐々に淡白になり、守備から攻撃へと切り替えることができなくなる。

 これは松下の問題とも取れるが、チーム全体が松下に依存し始めている証拠でもあるともいえるだろう。

 ボランチで攻守両面でハードワークしなければならない松下なので、今節のような酷暑の試合では終盤足が止まってしまう。このことで攻撃への迫力がなくなるのは勿体ない。

 せめて全体で押し上げられるような仕組みや判断力を身に付けなければならないなと感じた。

 この試合で言えば、途中投入で入った選手、もっとボールを預けて押し上げてもらうなど、どうすれば前へ出ていくことができるかをピッチで考える必要があるだろう。

 

 終盤には石原に代わって新加入のジオゴ・アコスタを投入する。

 それを見たセレッソは木本に代えて山下。フレッシュな選手を後方に置き、リスクマネジメントを行う交代だった。

 最終的に酷暑の消耗戦となったこの試合は、お互いにゴールネットを揺らすことなくゴールレスドローに終わった。

 

最後に・・・

 気候やピッチ状況など、対戦相手とは違う敵との戦いがあった中で、しぶとく勝点1を持ち帰ることができたのは、連敗しているチーム状況で良かった点と言えるだろう。

 シマオが帰ってきたことで守備での厳しさ、タフさが戻ってきた。本来であれば、シマオがいなくても同じようなタフな守備をしなければならないが、そこまでチームとして完成されていない。まだまだシマオの力を借りることとなりそうだ。

 この試合では、後ろに引きこもるだけではなくて、前から奪いに行く姿勢を見せれたことはポジティブなことだったと思う。

 後ろに引くとき、前から行くとき、ボールを持つとき、仕掛けるとき。さまざまな局面をチームがその状況に応じてプレーすることができれば理想的だ。そういった意味では、ここ数試合とは違う姿を見れたことは良かった。

 

 最後に新加入選手について。クバは、決定機を2つ阻止し存在感を見せることができたと思う。コーチングだったり、クリアした選手を褒めたりする姿を見たり、しっかり自分の持ち味を出せたのではないだろう。もちろん試合を追うごとに色々なことが分かってくると思うが、今は期待の方がはるかに大きい。

 一方のジオゴ・アコスタは出場時間が短く、何とも言えない部分が多いが、ボールをしっかり収めて時間を作るプレーだったりを見ると、高さというよりも足元で収めてプレーするのが得意な選手かもしれない。こちらももう少し様子を見ることとしたい。

 

 次節はホームでジュビロ磐田戦。アウェイでの雪辱を晴らすこと、そしてしっかり勝ちたい相手だ。ホームでの勝利を新戦力とともにもぎ取りたい!!

炙り出された課題~明治安田生命J1第19節 ベガルタ仙台vs鹿島アントラーズ~

 さて、今回は鹿島アントラーズ戦を振り返ります。ダンのラストゲーム

↓前節のレビューはこちら

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スタメン

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 前節・浦和レッズに敗れ、4連勝がストップしたベガルタ仙台。今節は体調不良で欠場していた蜂須賀が復帰。一方で負傷したシマオ・マテは欠場し、大岩がセンターバックの一角として起用された。また、前節退場した椎橋に代わって富田がスタメンになっている。ダンのラストゲームを白星で飾りたい仙台である。

 一方の鹿島アントラーズは、今夏に安西と安部、鈴木が海外へと旅立った。そんな鹿島のスタメンは、前節・ジュビロ磐田戦と同じメンバー。連勝を目指す一戦だ。

 

前半

(1)仙台の守備を逆利用する鹿島のセットオフェンス

 前半は、序盤から鹿島がペースを握り、16分にセルジーニョのゴールで幸先よく先制する。そんな鹿島はどのように仙台の守備を攻略したのか。まずはここを見ていきたい。

 

 鹿島のセットオフェンスには大きく2つのやり方があったが、その2つともに共通している点があった。

 それは仙台の守備を逆利用することだった。仙台の守備は人への意識が強い。人に突くことで、守備の基準点(誰が誰を見るか)を明確にし、また基準点が明確なことで強く相手に当たることができる。そして相手にプレッシャーを与えることで自分の背中を取られない守備を実現することができた。

 このことで、仙台の守備は安定し、4連勝という成績も収めることができた。

 

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 しかし、この試合では鹿島はその仙台の守備ルールを上手く逆利用することで、攻略をすることができた。

 人への意識が強い、誰が誰を見るかを明確にする守備のデメリットは、その相手に対してどこまで付いていくかということである。

 この試合の鹿島は、中盤と前線の選手が頻繁にポジションチェンジを行い、仙台の守備基準点を狂わせていった。土居やセルジーニョはサイドに流れてセンターバックを引き出したり、同サイドに登場することで数的優位を形成し、最終的には、仙台のディフェンスラインの裏を取ることで、一気に攻撃のスピードを上げることに成功した。

 また、鹿島が攻撃時に意識していたのは、仙台の選手間の距離を話すこと、そしてその空いたところへランニングすることだった。

 例えば2枚目の図のように、大きなサイドチェンジからの展開で、仙台の守備にスライドを強制させ、選手間の距離を離したところに、2トップや2列目、はたまたボランチがランニングしてくる。

 仙台としては、守備の基準点が狂わされるので、強くプレッシャーに行けない、スライドを強制させられる、しまいには背中を取られるで、鹿島のセットオフェンスに対して完全に後手を取る形となってしまった。

 ここまで安定してきた守備だが、鹿島にしっかり研究されたことで、その仕組みを暴かれる形となってしまった。

 

(2)勿体無かった奪った後のプレー

 仙台の守備をしっかり研究してきた鹿島が見事な前半の内容だったことに異論はない。しかし、じゃあしょうがないねで結論付けられるかというとそうではないと思う。

 序盤は鹿島に押し込まれる展開になってしまったが、一番勿体無かったは奪った後のプレーだった。

 仙台の序盤の振る舞いを見ていると、ボールを奪った後に素早く縦へ付けようとするシーンが多くあった。しかし結果的に鹿島のネガティブトランジション(攻撃から守備への切り替え)でボールを再奪取され、再び鹿島のターンになることが多々あった。

 せっかく奪ったボールなのだが、縦に急ぐあまりに、アバウトなボールとなってしまい、個人能力が高い鹿島の選手に刈り取られてしまっていた。

 

 個人的には、もっとボール保持へと移行するような展開へと序盤から持ち込みたかったなと感じている。ボールを奪ってから、いったん落ち着かせることで、自分たちのターンへと持っていきたかったし、鹿島のボール保持する展開を自分たちがボールを保持することで減らしたかったと感じた。

 そういう意味では、序盤の振る舞いは鹿島の素晴らしさがあったのも確かだが、自分たちのゲームの進め方にも問題があったように思える。

 もちろんゲームのなかで鹿島のプレッシャーが想像以上だったのかもしれないが、やはりボールを保持するスタイルを目指してきた以上、そこをチャレンジして欲しかったという気持ちがある。

 

(3)ボール保持から自らのペースへ

 そんな仙台も鹿島の戦い方に慣れたのか、30分過ぎからボール保持の局面を作りだせるようになる。

 ボランチ1枚が、センターバック間または左斜めに落ちて、ビルドアップを安定させて、鹿島のプレスを落ち着かせられるようになった。

 そこからサイドからの展開で、鹿島のペナルティエリアに侵入できたり、シュートの回数も増やすことができた。

 

 このような展開を前半にできたからこそ、前述したように前半開始からこの局面をもっと多く作り出したかったなと。そうすればもう少し鹿島と互角にやり合えたかもしれない。

 

 しかし、ようやく反撃の糸口を見出した仙台だったが、45+1分に再び右サイドからの攻撃でセルジーニョが決めて、鹿島に2点のリードを許すこととなってしまった。

 1点差でハーフタイムを迎えられれば良かったのだが、時間帯としても相手としても痛すぎる2失点目を喫してしまった仙台だった。

 

後半

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 後半のメンバー。前半、筋肉系のトラブルで負傷した長沢に代わってハモンが投入されている。

(1)サイドから自分たちのターンを増やす仙台

 前半2点リードを許し、攻めに出なければならなくなった仙台。f:id:khigu:20190717221231p:plain

 後半は、前半のようにボランチが落ちて、ビルドアップエリアで数的優位を形成することよりも、サイドバックサイドハーフを高い位置に上げて、そこへ素早くパスを出すことが増えた。よって、後半の仙台は必然的にサイドからのクロスが増えていく展開となっていく。

 おそらく時間を掛けずにサイドへ展開することで、鹿島を自陣へと撤退させて、そこからクロス攻撃。そしてセカンドボールも自分たちが回収することで、自分たちのターンをより増やそうという狙いがあったと思われる。特に道渕と蜂須賀の右サイドからのクロス爆撃は多かった。

 

(2)焦らない鹿島

 そんな仙台の攻撃に対して鹿島はどうだったのかというと、さして振る舞いは変えてなかった。

 クロスに対してはしっかりセンターバックを中心に跳ね返していたし、2点のリードがあることで焦らず、落ち着いてプレーしている鹿島がそこにはいた。王者の風格というか。

 なので、鹿島としては自陣でのプレーは増えたものの、仙台の攻撃が怖かったり、否だったかと言われれば、そこまでではなかったように感じる。

 

 そんな鹿島は、66分に仙台のビルドアップを中盤で奪うと一気にショートカウンターを発動。右サイドからの素早いクロスにセルジーニョ。ダンが弾いたボールを白崎が流し込んで3点目。

 その8分後には、また右サイドから数的優位を形成し、一気に崩すとグランダーのクロスに土居が合わせて4点目。4点ともにすべて右サイドからの崩しからだった。

 これで勝負あり。0-4で鹿島が完勝。仙台はダンのラストゲームを勝利で飾ることができなかった。

 

最後に・・・

 完敗といった内容だった。鹿島に仙台の弱点を炙り出され、それを愚直に実行された試合となった。

 

 仙台の守備のテーマは「背中を取らせない」ことだと思っている。これを実行するために人へ強く、自分たちの前でプレーさせることが大事になっていたし、そこで輝いたのがシマオであった。

 この試合では、鹿島に仙台の守備をしっかり研究され、仙台の守備の背中を取る動きで、幾度も決定機を作られてしまった。

 おそらく、これはシマオがいたとしても同じようにやられた可能性がある。

 属人的な面が強かった守備だが、組織としてどうやって「背中を取らせない」守備を構築させるかという段階へ突入してきたのかなと思う。そういう意味では、また1つ壁ができたというか、成長できるチャンスを得られた気がする。

 

 あとは攻撃、特にボールを保持する時間を意図的に増やしていきたいなと。そうすれば守備の時間が減り、負担も増える。この攻守のバランスをどう取っていくかが今後の課題と言えるだろう。

 

 結果的に完敗だったが、自分たちの課題を把握できた試合でもあったように感じる。この課題と真正面から向き合うことで、さらにレベルアップすることを期待したい。

 次節は、アウェイでのセレッソ大阪戦。難敵ではあるが、勝利し連敗脱出といきたい!!